芸人の数だけ、食にまつわる話が眠っている。上が詰まってチャンスが下にまわってこない芸人界の巨大なヒエラルキー。本業だけでは、中々メシが食っていけないのがこの世界の厳しい現状。そんな中、若手芸人たちはどの様に空腹を満たし、生活をしているのか。彼らに光を当てることで、食にまつわる新たなストーリーがきっと見えてくる……。
今回は、緻密に計算し尽された接待術で先輩を手玉にとり、タダメシをゲットしてきた芸人の登場です。
<出演>
いのけん……太田プロ所属。北九州出身のピン芸人。芸能界に数々の人脈を持つ。持ち前の接待力で先輩芸能人たちを気持ち良くさせ、高級料理をごちそうになってきた。好きなものはソフトバンクホークス、ダーツなど。似ている芸能人は中山優馬(むろん自称)
長尾(ロングロング)……漫才コンビ「ロングロング」のツッコミ担当。『THE MANZAI』2011年認定漫才師。キレ味抜群のツッコミと愛嬌のあるルックスで大阪時代では評判のコンビだった。東京にきて1年以内にも関わらず、「新人内さまライブ」で見事優勝をかざった。
接待の鉄則は「予習」。先輩の近況をチェック
こんばんは、北九州出身のピン芸人!太田プロ所属のいのけんです。
今夜は先輩のロングロング長尾さんをおもてなしするため、渋谷・宇田川町にある焼肉屋『清香園』にやってきました。長尾先輩に「いい店があるんです!」とメールしたら「ぜひ行きたい」と言われたので、この店を予約したのです。
この清香園、おもてなしをするときには絶対に外せない、A4ランク以上の黒毛和牛がいただける名店中の名店なんです!
店に入るやいなや、目に飛び込んでくるのは名だたる芸能人のサインの数々。
今日のイチオシメニューはコチラ。他では食べることの出来ないお肉のオンパレードです。
準備は整った。あとは先輩を待つだけ。
って接待はそんなに甘くない! もうすでにおもてなしは始まっているんです。
というわけで、いのけん接待術その1
「前もって接待相手のリサーチは完璧に」
さかのぼること1週間。長尾先輩とは普段から仲は良いんですが、先輩の近況をチェックするために、入念にリサーチしておきました。手っ取り早いのが TwitterなどのSNSです。さっそくロングロング長尾さん関連の情報を入手。「ロングロング、内さまライブ優勝」と。合点!
そして、いのけん接待術その2
「小銭を財布の中に入れておく」。
お会計時に細かいお金は必須。先輩には絶対に小銭を出させないのが“接待の流儀”。
こういう積み重ねがあって接待が成立しているんですよ。と、日々の接待にかかった経費と、タダメシ額の差額を計算……。
そんなところに「ヨォ、いのけん!久しぶりだな。待ったか~?」と危ないタイミングでロングロング長尾さんが登場。やっぱりいつ見ても芸人界一の馬ヅラだなぁ。
「な、長尾さん、お待ちしておりました」
「それにしても、いのけんが俺を誘ってくるなんて珍しいなぁ」と訝しがる長尾先輩。
とりあえず飲み物を注文。
「すみませ~ん、生ビールとピーチサワーをください」
今日は僕なんかのために来ていただきありがとうございます!それでは、乾杯!
グビグビグビ……
プハ〜ッ!
サプライズ&ボケのあとには至福の肉タイムが……
作戦は予定通り。長尾さんもまんざらじゃなさそうだ。よし、この辺りで…
いのけん接待術その3
「リサーチした情報をアウトプットせよ」
長尾さん!
「内さまライブ」優勝おめでとうございます!
えー!びっくりした~~!いのけん、気の利くやっちゃな~!
そんなの当然ですよ。じゃあ先輩!お腹も空いたし、そろそろお肉たべましょうよ!
「とりあえず今日入っている新鮮なお肉をひと通りください!」
「頼みすぎちゃうか」
肉がきたらタレが服に飛ぶので、前掛けも付けさせていただきますね!
「待って〜な。子どもじゃないんやし、恥ずかしいわ!」
いのけん接待術その4
「ボケて先輩に気持ち良くツッコミをさせろ」
「お客さん、毛先が傷んでますね~。手入れしっかりしていますか?」
なにしてんねんっ!ここは美容室ちゃうねん。あとこれパーマや!
「キレッキレ!先輩にツッコんでいただくのは、やっぱり気持ち良すぎますね」
そうこうするうちに自慢の肉が。まずはタン塩から!
見てくださいこの鮮度。軽く炙っただけでも、すぐに食べられます!
いただきまーす!うわ、なんやこの肉汁……!
僕も白飯でいただきます!これはたまらん!
続いてロース。赤い真珠のようです。
そして真打ち、カルビ。楽園、ここ見つけたり。
長尾先輩も口に入れるやいなや、思わず目を閉じる「食レポ顔」に。
ぼ、ぼ、僕は、生かされてます……
店員までも巻き込んで財布をこじ開ける!
「じゃあ店員さん、そろそろ例のアレをお願いします!」
長尾先輩!満足するのはまだ早いですよ。このお店の唐揚げがサイコーなんです。
「確かにうまそうやけど、俺はから揚げだけにはうるさいぞ!」
「うお!このジューシーさ」
「なんぼでも白飯いけるわ」
よっしゃ!機嫌が最高潮に達したところで、ラストスパート。
いのけん接待術その5
「店員さんも巻き込んでおもてなしをしろ!」
「お話のところすみませーん。長尾さん、サインっていただけますか。実は大阪時代からロングロングさんの大ファンなんです」
「え、なんで? 僕のサインでええの?」
※もちろん店員さんには前もって仕込んであります
「うわ~、お店でサイン頼まれたん芸人なってはじめてやわ~」と言いつつも、ニヤニヤでますます顔がロングになる長尾先輩。
いつも以上に、気合いの入った丁寧なサインが……
「ほらな、いのけん! 俺みたいに知名度なくても、頑張っていたら誰かが見てくれているんやで」と得意顔。
たらふく食べた後は、いよいよお会計。この日は2人で合計10,270円。若手芸人にとっちゃかなりイタイ額ですが、すっかり気をよくした長尾先輩は……。
「あっ!細かいのは僕が出しますよ!」
そう、接待術その2「小銭を財布の中に入れておく」がここで効果を発揮してくるわけです。
「いのけん、今日はほんまありがとうな。めちゃめちゃ楽しかったわ~! 気分のええ夜やわ~!」
「ごちそうさまでしたー」
最後のおじぎは念入りに。
よし、完了。
最後に、いのけん接待術その6
「次の接待の手配はすみやかに」
「もしも~し!明日の待ち合わせ場所ですが……」
こうして接待芸人いのけんは、豪華タダメシをゲットすべく、今夜もせっせと先輩芸人に飲みの誘いをかけるのであった。
おしまい
お店情報
清香園
住所: 東京都渋谷区宇田川町37-14 篠原ビル1F
電話番号:050-5828-8175