台湾で人気の丼メニュー、魯肉飯(ルーローハン)。
トロトロの豚肉がスパイシーで、1度食べるとクセになる味わい。
2023年1月、墨田区向島の住宅街に、そんな魯肉飯の専門店『貯水葉』がオープンした。お店の公式アカウントで「シダだらけの魯肉飯屋」を謳っているだけに、店内の壁という壁はビカクシダで埋め尽くされている。
ビカクシダと魯肉飯好きが高じて、会社員を退職し、お店を開いたという店長さんにお話しを伺った。
ビカクシダと魯肉飯、好きな2つを同時にやる
ー「シダだらけの魯肉飯屋さん」をキャッチコピーにされてますが、ほんとにシダだらけですね
シダも好きで、魯肉飯も好き。好きな2つを同時にやってます。
これをやろうとしたきっかけは、ジャズと競輪が好きなうどん屋さんと出会ったこと。
ジャズを聴きながら、競輪を見たい店長さんが、自分でやるしかないって始めたお店です。
美味しいうどんを食べながら、店内のテレビで競輪を見て、店内ミュージックでジャズを聴く。
好きなことをかけ合わせるの、めちゃくいいなって思って。「君なら何と何にする?」って友だちによく聞いてたんですよ。
自分は、魯肉飯とビカクシダでした。
▲魯肉飯定食1,200円。ほろほろお肉がウマいっ!
―SNS的にも、それぞれの界隈が来てくれて良いですね
たしかに、どっちのクラスターも来てくれます。
ビカクシダ好きな人も、ご飯が好きじゃない人はいませんから。
ビカクシダは2016年頃にハマって、タイやインドネシアなどビカクシダの原産地にも行きまして。夢中で育てて、マーケットイベントで売ったりもして。小さい苗を、水苔で貼り付けるワークショップもちょくちょくやってました。それだけで食ってけるとは思ってないので、趣味としてですけど。
ービカクシダは趣味でお好きだったんですね
本格的にやりたいけど、半端な数じゃ採算に乗らないんですよ。
東京じゃ難しくて、千葉とか愛知とか広いビニールハウスで育ててる方もいます。
昔は1つ1つ作品性にこだわって、古材や下駄とかに貼り付けてたんですけど、今はスペース節約でコルクや板につけてます。
温度、湿度保って、週1で水やりすればいいので、飲食店やりながらでもこれだけ育てられますね。
▲お店の壁という壁にビカクシダが飾られている
1日5食、台湾で魯肉飯を食べ回る
―魯肉飯専門店って珍しいですよね
それがそうでもなくて、東京だけでも5~6ヵ所はあります。
専門店じゃないけど台湾料理屋さんならだいたい魯肉飯ありますし、けっこう増えてるんですよ。
気になったお店の魯肉飯は片っ端から食べましたよ。
今年2023年1月6日日プレオープン、1月13日に本オープン。最初はメニュー絞って、魯肉飯だけで始めましたが、じょじょにメニュー広めていこうかな、と。
台湾のジ―ローハンとか。マーボー豆腐、カレーみたいに、魯肉飯と合いがけできるメニューも出したいですね。
▲貯水葉の外観
―なぜ魯肉飯だったんでしょうか
もともと東南アジアが好きで、会社員の頃から旅行してて。気候風土もですけど、食べ物が全般的に好きなんです。
2011年に台湾で魯肉飯食べたら美味しくて。ずっと好きで、頭の中にあって。18年に久しぶりに台湾行ってから、すごいハマった。そこから高い頻度で行くようになりました。
一時期、年に2~3回台湾行って食べ歩きしてました。
1日5食、魯肉飯って日もありましたね。1度の台湾旅行で、魯肉飯屋7~8軒巡って。「シイタケの味が強いなあ」「エシャロットが効いてるな」って味を分解して覚えて、家で再現してました。
▲しっかり煮込まれたお肉は意外とさっぱり。ペロッと食べちゃう
ー会社員やりながら魯肉飯の研究してた
当時、食料メーカーで物流や仕入れを担当してたんですが、2020年頃に体調崩して退職しまして。いい会社でしたが、遅れてきたモラトリアム期ですね。30代でこのままずっとこの仕事でいいんだろうかって勢いでやめてしまった。
仕事を休んでる期間に、知り合いのバー借りて、週2で魯肉飯屋さんやってました。
イベント的に単発でやると友だち来てくれるけど、それまでなんで。継続的にやる必要あるなと感じてました。じょじょにSNS経由じゃないお客さんも増えていって、手ごたえを感じましたね。
―週2で続けるうちに、本業でいけるって確信したんでしょうか
そこまでは思ってませんでした。本格的に料理を習ったわけでもないし、確信はなかったけど、昔からほんのり飲食店やりたかったので。
仕込みは大変だけど、仕込めば牛丼みたいによそってかけるだけなんで、飲食初心者に魯肉飯は向いてるかなと。シンプルだけど奥が深いですし、生きていけそうなこと何かなって考えたら、魯肉飯でした。
まだオープン1か月も経ってないので、やってみたけどダメでしたにならないようにしたいですね。
台湾・高雄の魯肉飯屋さんの味付けをベースに、自分が好きな味にアレンジしているそう。
前日に3時間煮込んで冷やした肉を、当日朝にも2~3時間煮込んでいる。しっかり煮込まれた肉は、脂身はあるけど脂が抜けてる状態で、濃すぎず食べやすい。
必死でやれることをかき集めたら、この店になった
―店主さんのTwitter、フォロワーが25,000人と多いですけどなにかしてたんですか?
分かんないんですよ、10年以上ずーっとやってるからですかね。
フォロワーが増え始めたのはカメラやるようになってからで、キレイな料理の写真撮って、レシピをあげると料理作る人がフォローしてくれました。
間借りで週2やれてたのも、Twitterで宣伝したのが大きいですね。
▲中国茶と豆花1,600円。14時~17時のお茶タイムは台湾デザート豆花が楽しめる
―このお店のお客さんもフォロワーが多いんですか?
近場の人が半分、SNSでわざわざ来てくれる方が半分って感じです。
ビカクシダ好きな人が来てくれて、品種が云々ってマニアっぽい会話してることもありますよ。
フォロワーの方々が遠くから食べに来ていただけるのすごくありがたいけど、毎週来てくれるわけではないから、ご近所の方々のルーティンに入れて、来てもらえるようにしていかないとって思ってます。
―飲食未経験からのオープンですけど、開店を決めるまで結構悩んだんでしょうか
いつの間にかやってたに近いですね。
いつかやるんだろうなって思いこんでた節があります。
開店にさいして、一部融資いただいたお金はありますけど、ほとんど自己資金。サラリーマンを10年間やってたので、出来てしまっただけという感覚があります。
銀行でも飲食未経験でこの立地じゃ厳しいと言われましたし、自分で始めたものの、毎日不安です。
自分がどれだけ細かいとこがイメージできてなかったか愕然としてるんです。こんだけシンプルな店なのに、どんだけやることあるんだって。普通の飲食店がどんだけすごいか分かりました。人雇って、メニューいっぱい出して、きっちり在庫管理して。
間借りである程度やれてるつもりだったけど、ぜんぜん違った。いろいろ分かったつもりだったけど、せいぜい把握できてたのは2割ぐらいですね。
―夢が叶ったぞって浮かれた気分じゃない?
それはお店が開店するまでですね。
開店してからは「いや、これほんと大丈夫か?」って、不安の渦の中でやってます。
お店の認知が増えても、飲食店って天井が決まってるので。このキャパだと1日目一杯回して50~60食が限界。すると売上7~8万。来客が少ない日なら3万とかザラだし、ちょっと体調崩したら収入がない。
このまま続けていけるのか、うまくいかなったら、そのあとどうしよう。スキルもないし、飲食店やってました、失敗しましたじゃどうにもならない。そんなこと考えちゃうぐらいネガティブになってました。
―開店したばっかりなのに!
収支計画立てて、ギリギリ達成できそうなのに、もうネガティブになってる(笑)
普通はウキウキしてるタイミングだと思うけど、初日の夜から「どうしよう……」って心配になっちゃって。
「お前がやりたくてやってるんでしょ!」って自分自身に言い聞かせてます。
私立のエスカレーター校に入学して、大きな会社であんまり悩まずに今まで生きてきて。「このままじゃ、絶対いつかヤバいことになる」って思ってたけど、それが今です。こんなに追い込まれてるのはじめて。
―追い込まれてるって言っても、自分で選んだことですよね(笑)
そうなんです!
なんか勝手に追い込まれてますけど、もちろん、楽しいんですよ!
自分で選んできたはずなのに「あ、こういう感じか。やるしかないな」って、気づいたらこうなってた感じ。
SNSではゆるくやってる風に見せてますけど、必死9割です!
―何年も前からTwitterで「シダだらけの魯肉飯屋さんをやりたい」とおっしゃってて、ついに実現されて。有言実行の凄い人ってイメージでしたけど、いざ話しを伺うとこんなに必死なんですね
それは虚像ですよ!
会社員としてやってけなくて、必死でやれる事かき集めて、このお店になった。それだけです!
ビカクシダもマニアから見たら大したことない。レアなやつを育ててるわけでもないし、かっこよく上手に育ててるわけでもない。
ビカクシダ界隈ですごい人が来てくれると嬉しいけど「こえ~」ってビビッてます。
地道にコツコツやってきますし、やるしかないって感じです。
お店情報
貯水葉
住所:墨田区向島4-5-7
電話番号:なし
営業時間:ランチ11-14時、喫茶14-17時
定休日:水曜日、木曜日
書いた人:松澤茂信
珍スポットマニア。日本全国1,000ヵ所以上のちょっと変わった観光地や飲食店を巡り歩いています。
- Twitter:松澤茂信
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