先日、友人と雑談をしていたら、不思議なお店の話しをしてくれました。
そのお店は中野駅にあると言います。
職場の連中と飲み会をして、ほどよく酔った中野の夜。ハシゴをしようと適当にはいったお店でこころよく迎えてくれたママさん。
どこにでもあるカラオケスナックのようでもあるけれど、ママさんは幼いころに飼っていた馬との思い出をそれはもう熱心に語ってくれて、最後にオリジナルの馬の歌も歌ってくれたというのです。
オリジナルの馬の歌、絶対に聴いてみたい
「何年も前のことなので具体的な店名は覚えていないけど、中野のワールド会館に入ってるのは確か」との細い情報をもとに足を運んでみたら、それらしいお店がいくつもあります。
どのお店か分からない……。
途方にくれてビルをぐるぐるしていると「小さい音楽館」の看板がかかげられた扉の前で「ちょっと入って歌っていったら?」と優しげなママさんに声をかけられました。
直感的にこの人だ! と感じ、「もしかして馬の歌を歌ってくれますか?」と切りだしたところ「なぜそれを知ってるの!?」と驚かれました。
馬の歌のお店、本当に実在していたのです。
小学生のころに飼っていた馬との思い出
▲店主の中野壽美さん
店内はカウンター席とテーブルが2つ。
平日の昼どきでしたが、常連さんたちがカラオケを熱唱していて一体感があります。
お客さんたちは、「ママ、なんか飲んで」「ママが大好きだから来てるんだよ」「握手しよ」とママに声をかけます。
数カ月ぶりに来店したと思われるお客さんに「忘れないでよく来たねえ」とママさん。お客さんは「忘れないよ! お馬の話とか聞かせてもらったし」と答えていました。
馬の話、いろんな人の心に刺さっているようです。
▲カラオケは1,300円、飲み放題にすると3,000円です
大音量でカラオケが流れるなか、店主の中野さんは馬との思い出を語ってくれました。
戦後間もない時代、家族のために1頭の馬が働いて暮らしを支えていました。
馬の名は「青馬(アオ)」。
「青馬」は来る日も来る日も山で伐採した杉の木を運びます。
犬がポチ、猫ならタマと名付けるように、馬のことを「青馬」と呼ぶのはスタンダードだったそうです。
車も自転車もない時代で、村にやってくるバスも1日5~6便。
雪が降るとバスも来られません。
そんな悪天候のある日、村の赤ん坊の具合が悪くなります。
お母さんは寝ないで看病して、朝一でどうにか病院に連れて行こうと思っていますが、バスが村に来ないのです。
「病院まで『青馬』出して!」とお願いにやってきたお母さん。
馬そりにむしろを敷き、七輪に火をおこして乗りこみます。
「青馬」は事態が分かっているように、カーブも上手に曲がって走ったそうです。
その後も小一時間ほど「青馬」との思い出を語ってくれました。
「青馬」とのお別れのシーンではあまりに感情のこもった語り口に、同行のカメラマンはおもわず涙ぐむほどでした。
くわしい内容は電子書籍「青馬と過ごした物語」で無料で読めますよ。
オリジナルの馬の歌を歌ってくれた
頭のなかに「青馬」とのストーリーが描けたところで、いよいよオリジナルの馬の歌です。
曲名は「『青馬よ』私は祈っている」でカラオケにも入っています。
YOUTUBEにもあがっています。
途中で語りもある叙情的な歌。
さきほど聞いた青馬との思い出や熱い気持ちが一曲の歌に仕上がっています。しんみりきますねえ。
気持ちのこもった熱唱が終わると、お客さんの女性が
「ママかっこいい」
と歓声をあげました。
それを連れの男性が
「かっこよくなんかないだろ!」
と強く否定します。
この歌気にいらなかったのかなと思っていたら、すこし間を置いて
「……でもね、ママ、涙が出てきたよ。ママの歌い方は、そういう感じだよ」
と男性。
すっかり心を打ち抜かれたようです。
「あなたも歌っていきなさいよ!」
すすめられるがままに曲を選びます。自分が歌えるものから客層的に知ってそうな井上陽水「夢の中へ」をチョイス。こういう場での選曲はDJ能力が問われますね。
店内のお客さんはめいめい話しをしていて聞きこむわけではないけれど、曲の合間合間で拍手をくれます。
カラオケを通したゆるやかなコミュニケーション。
中野さんは「歌って、ほんといいわよね」と微笑んでいました。
▲ワールド会館。中野ブロードウェイに入らず、すこし脇にそれたところにある
お店情報
小さい音楽館
住所:東京都中野区中野5丁目55-6 ワールド会館1F
電話番号:03-3388-4727
営業時間:12:00~19:00
定休日:無休
※この記事は2017年7月の情報です。
※金額はすべて消費税込です。