突然ですが、タコです。
見事に干されています。
続いて、ドライポルチーニ。
いわゆる干しキノコ。
さらにさらに。
ウツボの切り身。
これらの食材で一体なにができるのか?
なんか三題噺みたいになってますが、ことの起こりは野食家の茸本朗(たけもとあきら)さんに、「茸本さんちの冷蔵庫ってすごいことになってそうですねえ。一掃セールじゃないけど、寄せ鍋なんかやったら面白そう」
と、何気なくつぶやいたことから始まりました。
【ご紹介・茸本朗さんとは?】
月間100万PVを超えるブログ『野食ハンマープライス』主宰。釣りとキノコ採取をメインとしつつ、この世の食べられそうなものに出来る限りトライし、その食味の可能性を探っている人、なんである。モットーはそれらを「できるだけおいしく食べる」こと。調理・加工の腕前もクロウトはだし。
『メシ通』でも、過去に取り上げさせていただきました。
食材からしてスペシャルな予感
そんな人なんですが、私の何気ないつぶやきを覚えていてくれたんです。
茸本:寄せ鍋やりましょう! 冷蔵庫と冷凍庫をあさって、良さそうなものをみつくろってきましたよ。
そう、片手に光るクーラーボックスから出てきたのが先のウツボ、干しダコにドライポルチーニというわけです。もちろん、すべて茸本さんが山で海でとってきて、加工したもの。ウツボが冷蔵庫に入ってる、しかも自どり。さすが野食家!
茸本:まだまだありますよ!
どれが鍋にいいかなあ……と迷う茸本さん。
鮎(アユ)やアナジャコがこともなげに出てきます。
繰り返しますが、「寄せ鍋の食材候補」なんですよ。
白央:茸本さん、そっちのビニール袋は?
茸本:ハマダイコンの葉っぱです。緑もあったほうがきれいかな、と思って。
白央:採取したのはどちらで?
茸本:多摩川の河川敷ですよ。葉は硬くてアクがあるので、下ゆでしてから鍋に入れましょう。
白央:たしかに、近づいてみるとダイコンの葉という感じですね。しかし多摩川の河川敷に、食べられる菜っ葉が自生してるもんなんだなあ。
茸本:多摩川はなんでもありますよー。セリやナズナ、ハコベなど春の七草に含まれるものやカラシナ、アブラナ、クレソンなどの野菜と呼んでもよいような野草、ヤブカンゾウやノカンゾウのような著名な山菜も普通に生えています。少し下流に行けばツルナやスベリヒユもあって、秋まで採取できます。
白央:なんと!
茸本:別に多摩川に限らず、江戸川だったら春には山菜のノビルもとれるし、三つ葉もよく生えます。あ、キノコと干しダコ、ダシにするんで水に浸けておいてください。
白央:かしこまりました!
干しダコ×干しキノコ
白央:漬けて30分ぐらい経過。いい色出てくるもんですな。香りもね、そそられる感じなんですよ。濃いィうま味感。タコはどこでとったんですか?
茸本:西湘のほうです(神奈川県湘南西部)。このときは5~6匹釣れたんですが、やっぱりそんなに食べられないじゃないですか。生ダコおすそわけされても困る人のほうが多いだろうし(笑)。なので何匹か干したんです。
白央:サラッと明石の漁師さんみたいなこと言いますね。タコを釣って干しダコまでホームメイドする人、なかなかいませんよ!
茸本:ははは。やっぱり地ダコのうまさって格別なんですよ。海外からの輸入品とはもう断然違うので、とりたくなるんですよねえ。
白央:そしてドライポルチーニ、イタリアンの食材として有名ですよね。海外産のものしか見たことなかったです。これも、日本で採取して乾燥させたんですか?
茸本:これ、和名だとヤマドリタケモドキっていうんです。
ポルチーニの和名はヤマドリタケで、モドキというぐらいですから似てるんですね。
モドキの方はちょっと香りが弱く、肉も柔らかいですけど、本家に負けない強いうま味を持っていますし、干してしまえば全く同じように使えます。
白央:なるほどなるほど。
ところで茸本さん、干しダコと干しキノコの組み合わせだしって、よくやられるんですか? おいしそうな匂いしてますが。
茸本:いやいや、初めてですよ!
白央:えええっ。
茸本:この闇鍋感が楽しいんじゃないですか。野食はその時とれたものをどう料理する、そのとき考えるのも醍醐味(だいごみ)。料理しつつ、味の「着地点」をどうするか考えるのも僕は大好きなんです。
そう、茸本さんは採取するだけが目的じゃないのだ。採取したら、できるかぎり余すところなくいただく。最初にも書いたとおり、「できるだけおいしく料理する」までを考える人なんですね。
そういう覚悟とポリシーをずっと貫いているから、ブログにもファンがついてくるんだろうな。
メイン具材、ウツボ
そしてウツボに話は戻ります。
白央:どちらで釣り上げたんですか?
茸本:これも西湘ですよ。こいつは80㎝ぐらいあったかな。
白央:やっぱりデカいもんですねえ。よくドン・キホーテの入り口の水槽にいますね。
茸本:(笑)。ウツボだと、最大110㎝のサイズを釣ったことがあります。 ウツボ料理のおいしさにここ数年ハマって、釣り方から調理までいろいろ研究してるんですよ。
白央:茸本さんのブログ『野食ハンマープライス』でも評判のトピックですよね。
※ウツボは生命力が強く、釣り上げられてからのどう猛さも第一級。ブログ内で「ウツボ」で検索するとその格闘と捕獲・調理の工夫の歴史がずらずら出てくるので、興味のあるかたはぜひ→こちら
白央:切ってそのまま鍋に入れるんですか?
茸本:かなり食べやすい状態にまでウツボをさばいてはあるんですけど、ウツボは小骨が多いんですよ。小骨とは言ってもかなり強靭(きょうじん)なので、食べ慣れてない場合は取った方がいいですね。
白央:お願いします!
ウツボのさばき方について詳しく知りたい人は、こちらを参照ください。
高知県ではよく食べられる食材なんですよ、ウツボって。
こんなプロセスがあって、ようやく食べやすくなってたんだなあ。
茸本: 皮と身の間のしっかりとした脂質、わかります? ウツボって独得の磯臭さがあるんです。皮目を焼いて脂を落とすことで、その臭みが消えるんです。
茸本:なので、一度皮目からだけ焼いて鍋に入れましょう。
佛跳牆(ぶっちょうしょう)の香りに!
ウツボを加熱するうち、サラッとした油がどんどん出てきました。このサラッと感がやっぱり海のものという感じ。
さあ、今回の鍋の具材がそろいまいしたよ。
【茸本流・寄せ鍋、今回の具材】
- ウツボ
- 干しダコ
- ドライポルチーニ
- アナジャコ
- ハマダイコンの葉
(調味料)
- 酒、みりん、醤油
アナジャコは甲殻類の一種で、身と味噌に濃厚なうま味があるもの。茸本さんのアナジャコ釣り、『メシ通』の記事にもなってます。揚げたてにスイートチリソースをかけたもの、絶品でしたねえ。
さて先のだしに、具材と調味料を一緒にして煮込んでいきましょう。
だんだんと濃くなるスープの色。
味見をした茸本さんが何やらつぶやきだしました。
茸本:これは……佛跳墙だ、佛跳墙だ!
【佛跳墙(ぶっちょうしょう)とは?】
中国・福建省の料理で干しアワビや干しナマコ、干し貝柱にフカヒレ、金華ハムなどの食材をぜいたくに使用したスープのこと。漫画『美味しんぼ』でも「究極のメニュー」の一品として登場する。
茸本: この濃厚な色合い、そして乾物出汁独特の、いかにもうまみの強そうな香り……。以前、友人の小林銅蟲さんが佛跳墙を作りたいというのでお手伝いしたことがあるんですけど、その時の香りを思い出します。まあ、あれはもっとずっと複雑でしたけど。
なんと……野食寄せ鍋企画から伝説のスープに近づくとは……!
鍋の中に海があった
そしてこのスープの色、ほぼ素材から出てるものなんです。醤油は軽く風味をつける程度にしか使っていません。さあ、ハマダイコンを最後に添えて……
できましたー!!
白央:正直、煮込んでいる際中は「まるで秘薬を作っているかのよう……Web記事のビジュアル的にどうなることか」と思っていたのですが、うまそうに仕上がってうれしい!
茸本:そんなこと思ってたんですか……。
茸本:まあともかく、いただきましょう! ……うん、いいですね! 予想以上にまとまっています。タコとアナジャコのだしが非常に濃厚で、ヤマドリタケモドキの香りも力強いのですが、そこをウツボのゼラチン質がうまく受け止めつつ、スープにコクを与えています。干し貝の在庫も持ってきたらよかったですね……干しマテガイとか。みりんはもうちょっと少なくてもよかったかな…… 。
白央:うま味濃厚だけど、意外や上品に仕上がるものですね。さすが海のもの。
ウツボ、脂身はかなり弾力がある。しっかり加熱しても、とろけずねっとり感がキープされるんだな。身に臭みはほとんど感じず。なんというか、上質なホルモンを食べているみたい。
茸本:あ、わかります。博多モツ鍋っぽい味つけにしたらよさそう。今度やってみようかな。
白央:タコとキノコのだしもケンカせずまとまりましたねえ。アナジャコからはエビとホヤを感じさせるだしが出て、まさに海のごった煮という面白い鍋に仕上がってます。いやーこれ、読者さん全然想像できないだろうな(笑)。
ハマダイコンの葉はけっこう筋っぽいけど、ほどよい苦味で口の中がさっぱりします。こういうのを食べると逆に、流通している野菜っていろいろ改良された結果の味なんだな、とも思ったり。
▲ウツボの皮(上)とその肉
白央:茸本さんはウツボにここ最近すっかり魅了されているようですが、ほかにどんな食べ方がおすすめなんですか?
茸本:新鮮ならやはり腹身を刺身、もしくは皮付きのタタキにしたいですね。小ぶりのものなら骨切りをして、クミンやコリアンダーシードなどのスパイスを効かせてから揚げにすると、面白いことに赤ワインに合うんです。カリッカリに干したものを煮立ててだしをとり、スープにするのもオツですねぇ。
※茸本さんは日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートでもあるのだ
さて、そんな茸本さん。去年(2017年)にそのフードライフスタイルを一冊の本にまとめられました。その名も『野食のススメ 東京自給自足生活』(星海社新書)。
茸本:この本では野食初心者向けに、身近なフィールドで見つけやすく、見わけも簡単な食材をたくさん紹介しています。
シーズンごとの章立てになっており、獲物が多く入門に最適な初夏から、夏・秋・晩秋・冬・春と、各季節ごとにおすすめを分けました。
また、各シーズンごとに「1日で採取できる野食材で、1食分まかなう」ためのモデルプランを作成し、採取時の写真とともに掲載しているので、非常に実践的な内容になっていると自負しています。
あわせて、釣りやキノコ狩りなど、各種アウトドアを行う際に最低限知っておきたいことも載せました。
絶賛発売中なので、お手に取ってみてくださいね。
都会のただ中でも、こんなにも食べられるものはあり「世の中には私たちが知らない味がたっくさんある!」って教えてくれる本でしたよ。
茸本さん、きょうもありがとうございました!
【おまけ】
我が家からの帰り道、「あ、食べられる草が生えてますよ」と反射的に野食活動をはじめる茸本さん。彼のセンサーは24時間フルオートなのです。