昆布の作り方、知ってますか?
昆布ってどうやって育つのだろう?
私も、そしてほとんどの読者も、あまり考えたことはないだろう。
それを知りたくて、利尻昆布の生産地として知られる北海道の利尻島に出向いてみたところ、そこにあったのは長年の勘どころが必要とされる超アナログな世界で、豪快かつ繊細な仕事だった。
※現地では、検温やマスク、消毒など、感染予防対策を行った上で取材しています。
- 昆布の作り方、知ってますか?
- 一生に一度は行ってみたい夢の浮島、利尻島
- 午前3時、いざ最北の海へ
- とにかく豪快な昆布漁
- ひたすら干すのみ。これぞ利尻の夏の風物詩
- すべてはお日様のご機嫌次第
- 「養殖昆布って?」親方に聞いてみる
- 天然と養殖の違いとは
- なぜ漁は夏限定なのか
- 天気予報だけをアテしない明確な理由
- 利尻昆布はいったいどこがすごいのか
- 利尻島、それは昆布パラダイス
一生に一度は行ってみたい夢の浮島、利尻島
まずは先に、利尻島を紹介したい。
北海道の最北部、日本海上に浮かぶのが利尻島だ。
稚内の沖にあるこの島は「夢の浮島」と言われ、標高1,721メートルの利尻山が中央にそびえる。
島のどこにいてもその存在感に圧倒される。
空気の綺麗なこの島は、夜には満天の星空になる。
▲天の川と利尻山のシルエット
そしてここは、昆布やウニなど海産物の宝庫。
特にここで採れる昆布は「利尻昆布」と呼ばれ、上品な甘みのある澄んだ色の出汁が取れることから京料理では定番として使われ、高級昆布のブランドとして知られている。
そんな上質の昆布たちは澄んだ海で育つ。
海をのぞき見ると水の中で揺れている昆布やウニたちが見える。こんな美しい場所が日本にあるなんて! と驚く。
▲港の岸壁ですら、ウニがゴロゴロ
そんな利尻島に魅せられて、一生に一度どころか毎年のようにリピートしているうちに利尻島に行くなら利尻昆布をもっと知りたい! という思いが強くなり、昆布漁と昆布干しを体験させてもらうことになった。
その一部始終があまりにも独特な作業&圧巻の光景の連続なので、昆布出汁の恩恵に預かっている多くの方に見て欲しい。
午前3時、いざ最北の海へ
「では明日、3時に港に来てください」
前日にそう言われたとき、一瞬言葉を疑った。
3時、それは昼の3時ではなく、夜中の3時である。
マジかよ早すぎる!
眠い目をこすり、レンタカーを飛ばして港に向かう。
こんな時間なのに、意外にも交通量が多いことに驚く。この時期は、島民が総出で昆布の仕事をしているからだという。
緯度の高い利尻の朝は早い。
すでにうっすら明るくなった港で、装備を開始!
▲右も左も分からないザ・初心者
某大手通販で500円だったペラッペラのレインコート……
\ヘボい!/
そんなことにはお構いなく、親方に
「さあ乗って!」
と言われるがまま、昆布漁の船に乗り込んだ。
▲夜明けの海を沖へと急ぐ親方、格好いい
とにかく豪快な昆布漁
エンジンの回転数を徐々に上げ、船は沖に向かっていく。
▲波の高さは1mだったがそれなりに揺れる
沖には多くの浮き玉が見える。
養殖昆布のロープを吊す目印だ。
目的の浮き玉にたどり着くと船のエンジンを止め、浮き玉を引き揚げる。
そして、このローラーがグルグルと回り始めると……
ドバドバドバァ~!
大量の昆布がもの凄い速さで引き揚げられていく。
とにかくノンストップでガンガン引き揚げていく!
いったいどれくらいの量があるのだろう?
まだまだ!
船が昆布でパンパンになるところまで引き揚げる。
昆布が満載になった船で、港に戻る。
気が付けばすっかり明るい。
(といっても4時頃)
ひたすら干すのみ。これぞ利尻の夏の風物詩
港に戻ったら、横付けされたトラックの荷台へとロープごと移し替える。
船一隻分の昆布が、水で洗われながらトラックに積まれていく。
今度はトラックの荷台が昆布でパンパンに!
船はすぐに2回目の漁に出て、トラックは昆布を干す干場(かんば)へと向かう。
▲小石がびっしりと敷き詰められた空き地こと「干場」
利尻島にいくとあちこちで見かけるこの干場で、トラックは蛇行しながら昆布を降ろしていく。
ここからは、昆布を干す「干し子」さんたちの出番。
まずはロープから昆布を切り離していく。
初めて触った、採れたての昆布。
ヌルヌルで、ずっしりと重い。厚みもある。
昆布ってこんなに大きいものだったとは!
養殖ものだと最大で5メートルにもなるのだという。
干場に隙間なく並べていく作業が始まる。圧巻の風景だ。
昆布干しのルールは、重ねないように干すこと。重ねると、乾いたときにくっつくから。
そして、昆布の面が凸になるよう干すこと。水はけを良くするために。
干し子さんたちは島の方がほとんど。
島の方は昼間の本業を持っている方が大半で、昆布干しが終わったら普通に出勤していく。
夏場の風物詩だ。
すべてはお日様のご機嫌次第
▲朝の利尻島で昆布を干しまくる私
昆布干しは朝の4時くらいから始まるので、干し子の皆さんは前日は早く寝なければならない。
しかもスケジュールが決まっているわけではなく、昆布漁があるかどうかは天気によって決まる。
仕事をやるかどうかは、当日の夜2時半頃に親方からかかってくる電話かLINEなどで知らされるという。
だからこの時期、干し子をしている島民の方々は、夕方になるとそわそわし始める。
「明日、昆布あるのかなぁ」
利尻島での飲み会がお開きになる頃、必ず誰かが口にする言葉だ。
びっしりと敷き詰められた昆布が朝日に反射する。
干場に並べ終わったら、風で飛ばないように網をかぶせる。
これで夕方まで待てば、いい感じに乾燥するのだ。
「はい、ご苦労さん」
作業を終えた干し子さんたちにドリンクなどが振る舞われ、朝の部は解散。
天気が良ければ、お昼過ぎにはすっかり乾いている。
夕方までには回収作業が行われ、1日の作業としては終了だ。
回収された昆布は湿度と温度の管理が行き届いた倉庫に数カ月寝かされ、選別・整形・箱詰めを経て、出荷される。
「養殖昆布って?」親方に聞いてみる
今回、昆布漁を体験させて頂いた親方さんに、利尻昆布の作り方や味の秘密について伺ってみた。
親方の名は、秋元雄司さん。
利尻富士町の大磯地区にて長年にわたり養殖昆布漁を営むベテラン親方だ。
▲秋元雄司さん。愛犬のナナちゃんと
──今日は貴重な体験、ありがとうございました! 親方は昆布漁を始めて今年で何年目くらいでしょうか?
秋元さん:かれこれ20年くらいかな。
──昆布漁は天然と養殖とがありますが、親方が養殖を始められた理由は?
秋元さん:最初は天然でやってたんだよ。でも、ある人からもらった(昆布の)株があって、それが翌年の秋までどう育つのか、港の沿岸で実験してみたんさ。そうしたら天然より伸びて、根がロープに巻き付いたの。これはいいなと思って。その株は昔からあったけど、誰も気に掛けてなかったんだ。
──素性の良さに気付いてなかったということですか?
秋元さん:そう。というのも、普通は天然昆布の胞子から株を作るんで、そうじゃない昆布は商品価値がないとされがちなんだ。だから、見つけたのはたまたまだね。
──そこから養殖への道が始まったんですね。
秋元さん:でも、それからが大変だった。養殖には昆布を根付かせるための長いロープが必要だから、沖合に養殖の設備を作ることになったんだ。台風でも流されないようにブロックを沈めて固定してね。ロープも太めのものを作ってもらったりと、養殖に合う資材を研究したんだ。試行錯誤の連続だね。
▲養殖昆布は、浮き玉からロープが平行になるようにぶら下げられ、ロープに植えられた株から下に向かってユラユラと生育させる仕組み(図は筆者作成)
天然と養殖の違いとは
──利尻では養殖をやっている人はどれくらいの割合ですか?
秋元さん:漁業組合は全員で500名くらいいるんだけど、その中で養殖やってるのは少ないよ。1割くらいじゃないかな。人がいないから、作付けやっただけで終わりではなく、見回りやって、道具の支度してって、1年中これをやってるんだ。そういう専業でやってるのが20名くらい。他の人は兼業で、大きい船は息子に渡して、自分は夏場だけ手伝うって感じだね。
▲親方への懐き具合が半端ない愛犬のナナ号
──天然昆布と養殖昆布とで、できあがる昆布に違いはあるのですか?
秋元さん:養殖の方が幅はあるし長さも出ますよ。肉厚かどうかという点では、天然でも養殖でも、早く採ったら薄いし、遅く採ったら(枯れるんでその分が使えなくなるために)長さがなくなる。でも、養殖というのはある程度の長さが確保できるし、株の選別とか、養殖技術も向上してきたから、30~40年前と比べると今は倍以上の長さがあるんだわ。
──倍以上!? そんなに変わったんですね!
▲想像以上にデカい、長い
秋元さん:そう。それは、養殖だったら調整が効くってことさ。長い昆布が欲しい人、実入りの良い昆布が欲しい人、それぞれ、育てる深さとかで調整が効くんだ。この調整というのは、みんなこだわりを持ってやってるところだね。
──親方のこだわりはどの辺にありますか?
秋元さん:俺の場合は安定した水揚げが欲しいから、怪我(キズ)のない平均的な長さの昆布を作るというスタイルを採ってるけどね。早く揚げたくて浅い水深でやったら、大きな時化(しけ)が来たときにロープごと傷んだり、昆布が割れたりすることもあるんだ。
──なるほど。
秋元さん:天然昆布というのは海底に根を張ってるから、多少傷ついても傷むことはないんさ。でも養殖というのは、大時化になったときに縄跳びみたいになって、バーンとバウンドしたときに割れちゃうのよ。1枚の昆布が2枚から3枚に割れるんだ。そうなると、3分の1くらいの値段にはなっちゃうし、効率悪いからね。
──そんな派手に壊れちゃうんですね……。
秋元さん:そう。だから壊れないようにするためには、経験で探っていくしかないんだ。答えはないからね。去年やってみて良かったから、今年もやってみよう。その繰り返しなのさ。
なぜ漁は夏限定なのか
──昆布漁って、年中やってるのですか? それともやる時期が決まってるのですか?
秋元さん:天然と養殖で違うんだ。天然は、うちの組合だと7月5日から9月いっぱいまでだね。海の作付け量に対して規制が入ることもあるんだけど、それ以外は自由操業って感じなんだ。養殖の方は、うちは6月の10日から始めて、揚げきるまではだいたい1カ月、だから7月中旬に終わるって感じだね。
──夏の短い間だけに漁をするのはなぜですか?
秋元さん:夏にやるのは、この時期に昆布が大きく成長するからなんだ。
──この時期、夜の3時から漁が始まるのはなぜですか?
秋元さん:それは、乾かす時間です。天日干しにはだいたい8時間は必要だから、その前に漁を終えないとね。天日干しは、まず水切りに3時間。この間に干場を見て、ひっくり返ってたり重なってるやつがあると、濡れている間に直すんさ。重なったままだと、乾くとくっついてダメになっちゃう。
▲これだけの量の昆布を全部確認して、重なっている部分などを直すという
──あれだけの量の昆布を全部チェックして、濡れているうちに重なりを直してるんですね。
秋元さん:そして中の芯を硬くするのに3時間。これで12時前くらいになる。それから仕上げに2時間。そうすると14時か15時くらいに終わるから、そこで取り込む。これが17時になってくると気温も下がって湿気ってくるからだめなんだ。かといって乾かしすぎてもだめ。何か白っぽくなっちゃう。組合の検査には通っても、俺の求める品質じゃないのさ。
──だから早朝から始めるしかない、と。
秋元さん:天日干しをするならね。天気が良い日の日中だけが勝負なんだよ。
天気予報だけをアテしない明確な理由
──天日干しは、天気によってはなかなか乾かないこともあると思うのですが、どんな日がベストなのでしょう?
秋元さん:まず、夜中から星が見えていて、日の出予想時間の通りにお天道様が上がったのを見る。あとは風が風速4~5メートル。そういう条件であれば晴れるから、14時過ぎには回収できるね。
──カラっと晴れてて、少し風がある天気がベストだと。湿度も低い方が理想ですか?
秋元さん:そうだね。湿度が90%台だったら、1時間余分に置かないと乾かない。曇りでも風速8メートルくらいで吹いてて、気温が20度以上あれば、乾いてくれるよ。
──途中で夕立ちが降ったりしたときは……。
秋元さん:諦めるしかないね。怪しいときは携帯でアメダスを見て、雨雲がどちらに向かっているかをある程度読むんだけど、それでも降られたらもうアウツ。
──アウツですか。そのとき、昆布はどうなるのでしょう?
秋元さん:上に水溜りができちゃう。乾いたとき、そこだけ薄く仕上がっちゃうんだ。タオルで吸い取ったこともあるけどさ。そうなったらもう高い値段で売れなくなるんだ。でも、それはそれで島外の入札に出せば、加工用の昆布として安く買ってくれる。いつもの昆布とは別物だね。
──B品扱いの果物がジュースになるような感じでしょうか。それにしても、シビアな世界ですね。
秋元さん:そう。だから常に100%のものを出すようにしてるんだ。干した後に寝かせるんだけど、干すときに失敗したらもうどうやっても100%にはならないの。だから天気を読むことが凄く大事だね。ここまで厳しくこだわってる人は、島の中でも少ないと思う。子供たちよりも手が掛かるよ。物言わないし、やり直しは効かないし。
▲利尻の天気は気まぐれだ
──そもそも、天気の予測って、どうやってするのですか?
秋元さん:まず、晩ご飯を食べたら外に出て30分、空を見るんだ。自分が感じるところだけで予報を立てるんだわ。雲の色、山の映り、お日様の色。お日様の色は湿度によって変わるからね。夕焼けも赤すぎると翌日は天気が悪くなるんだ。
▲夕焼けの中、向こう側にたたずむ礼文島。漁師はこの色を見て天気を占っている
──雲の色や空の色でそこまでわかるものなんですね!
秋元さん:そう。色々あるんだよ。17時半くらいに虹が出ると2日後がダメだという前兆だし。お日様に輪がかかったら85%くらいの確率で雨が降るね。雲も細かいのが出てきたら次の日は危ない。12時間持たないんだよ。
あと、草に付く露の落ち方も参考にしてるね。露が多いと湿度が95%くらいで、雨が降るんだ。ここ最近はオホーツク高気圧の晴れで露はないけど、全てが同じパターンという日はないね。そこから予測するんだけど、(自然現象での予想の)5つのうち4つ当たればいいと思ってる。そして家に戻って初めて天気予報を見るんだ。
──すごいノウハウですけど、これは語り継がれているものなのですか?
秋元さん:天気を読むノウハウは、先輩たちから聞かされてきたんだよ。やっぱり天気が勝負だから、おろそかにできないんだ。
──天気予報だけを頼りにしない理由はどこにあるのでしょう?
秋元さん:それは、利尻山の高さよ。利尻山は高い(標高1,721メートル)し、利尻島は丸いから、雨以外なら必ず1カ所は島のどこかが晴れてるんだ。台風が来てもね。
▲上空から見た利尻島。雲にぽっかりと穴が空いているのが分かる
秋元さん:だから風筋を見て、島のどこで干すか? も考えるんだ。
南の風が入ったらここはアウトとか、南西だったらいいとか、西だったら夕方風が落ち着くとか、そういうのがある。でも、これだけ言ってても自分に自信ねえから最後は天気予報のデータを見るんだけど、最初から丸っこデータでやっちゃうと、動けなくなるんだよ。
──天気予報の情報だけでは全然足りないですね!
秋元さん:100%雨が降る日とか、全く降らない日みたいなのは天気予報を見ると誰でも分かるんだけど、どっちか分からないってときに動けないとダメなわけ。もちろん、やっちまった! ってときもある。それでも毎日、少しでも正確に天気を読むためにできることは全部するのさ。それから漁師同士で天気の情報交換をするんだ。1時に。朝の1時だよ!
──朝の1時って! それ、完全に「夜」です。
秋元さん:それでも迷ったら、最後は母ちゃん(奥様)に聞くんだよ。失敗したら母ちゃんに怒られるからね。哀れだよ、失敗したときは。みんな家に帰らず、どこかに固まってるからね(笑)。島に組合4つあるけど、4つとも同じだね。
▲母ちゃんには怒られても、ナナだけは分かってくれる
──しっかり予測して、情報交換して、それでも予測が外れる。これに毎日向き合うなんてハードすぎる。
秋元さん:そう。こんな小さな島なのに、場所によって天気が違うから難しいね。表と裏の関係というかね。
▲山のこちら側は晴れてても、向こう側は曇っているということが頻繁に起こる利尻島
──僕も数年前、この島の周りの道をバイクで走ってて、突然大雨になったことが何度もあります。
秋元さん:でも、昆布作るのも楽しみなんだけど、天気を読んで当たるか外れるかというのも、自分の楽しみなんだ。今年はちょっと手こずってるんだけど、今んとこいい結果は出てるんだ。
利尻昆布はいったいどこがすごいのか
──昆布は乾かしたらすぐに出荷されるのではなく、一旦倉庫に保管するのはなぜですか?
秋元さん:これは「庵蒸」(あんじょう)っていう作業で、昆布の乾燥具合を均一にするんだ。だいたい10月くらいまで寝かせるんさ。そうすると、昆布の中で化学反応があって、香りが引き立つのよ。乾燥直後の昆布には香りなんて無いからね。
──ワインみたいですね!
秋元さん:そうだね。1年、2年寝かせるとさらに風味が変わっていくから、その辺はワインと同じだね。でもこの作業は湿度と温度の管理が求められるから難しいんだ。建物の間取りひとつで味が変わるし、除湿だって空調を24時間回して管理しないといけないんだよ。
──失敗が許されないシビアな状況が、毎日続くわけですね。その結果、品質はいつ分かるんでしょう?
秋元さん:次の年になって出荷してみないと分からない。だから、年ごとに出荷したサンプルを保管して、その年にどのような庵蒸をしたかと照らし合わせて、少しずつ良くしてるんだ。昆布の出来は、外での干しが8割、倉庫での庵蒸が2割で決まると思うね。
▲干してからも様々な工程があるという親方
──実際、利尻昆布の出汁は美味しい! と感じられたことはありますか?
秋元さん:奥田政行さん※というイタリアンシェフのレシピ本があって、そこには利尻昆布の出汁を採るのに何℃で何時間やるのか、っていうのが書いてあるんですね。それを、ここにある1年寝かせた昆布を使って、その通りにやってみたんですよ。2時間くらいかけて、6種類の出汁を作るんですよ。最初は利尻昆布だけの出汁から始まって、鰹、椎茸、鶏ガラなど、色んな素材を調合して6種類の出汁を作ってみたんです。
※山形県にあるイタリアンレストラン「アル・ケッチャーノ」のシェフ
──はい。
秋元さん:そのとき感じたのは、利尻昆布の出汁というのは凄いな、と。というのも、他の出汁に勝たないんだもの。邪魔しないの。とにかくどの出汁と合わせても調和するし、そして昆布の味が薄くなっても必ず残ってるの。
──利尻昆布の出汁は強い主張がない代わりに、しっかりとした土台になるということですね。
秋元さん:そう。俺は昆布の味しか知らないけど、何回飲んでも凄いなって。だから職人がこだわるっていうのが分かったね。肉を食べるときに塩を振るのではなく、昆布の出汁を少しかけるだけで肉の味が変わるんですよ。それくらい昆布って万能で、凄いものを作ってるんだなって。うちらは昆布を作って出荷するだけの生産者だけど、やっぱり使ってくれる人が「この味が欠かせない」と思うものを届けるのが役割りだね。日本料理の土台になっているものを作っているんだ。
──利尻昆布って優しく包み込むような味ですよね。まさに日本料理の土台で。
秋元さん:そうでしょう? だから昆布の品質にはこだわりたい。漁師って言葉に「師」って字があるのは、匠の技があるってことだと思ってるんです。ただ海に行って魚獲って終わりってことじゃない。それを最高の状態で提供するために、採った後にどのようなことをするのか? も含めて仕事だと思ってますね。
利尻島、それは昆布パラダイス
いかがだっただろうか。
利尻島では毎年7月になると、島のあちこちで昆布を天日干ししている様子に遭遇する。
そこから漂う昆布の香りと潮の香りがミックスされたその空気は、まさに利尻島の夏の香り。島のどこにいても、何を食べても、昆布の存在感を感じることができる。
そんな利尻島の昆布は、漁師達の多くのこだわりで作られていた。
スーパーで利尻昆布を手にしたときは、利尻島の漁師のことをふと想像してみてほしい。
書いた人:BUBBLE-B
飲食チェーン店トラベラー。日本中の飲食チェーン店の本店や1号店を探訪し、創業者の熱い想いに共感しながら味わうと3割増で美味しくなるグルメ概念「本店道」を提唱する。
- X:@bubble_b
- ブログ:飲食チェーン店めぐりブログ「本店の旅」