大阪にも郷土鍋があった!関西食文化研究の重鎮に聞いた「この冬おすすめの鍋レシピ」が超手軽でうまかったのでぜひ紹介したい

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とにかく鍋ものが好きな私は一年中ずっと鍋をしている。簡単に作れてどうやってもたいていおいしくなるし、なんだか気持ちも華やぐから好きだ。

 

我が家の鍋はだいたいパターンが決まっていて、ポン酢で食べる水炊きか、味噌鍋か、たまにカレー鍋か。どれもおいしいのだけどちょっと変わり映えがしない。そういえば、私は関東から引っ越してきて大阪に住んでいるのに“大阪らしい鍋”というものについて考えたことがなかった。

関東と関西というとダシ文化の違いなどについてはよく言われるが……鍋文化に違いはあるのだろうか。せっかくだから大阪ならではの鍋料理を食べてみたい。

 

そんな疑問についての答えを探すうち、「財団法人 関西・大阪21世紀協会」が運営する「大阪鍋騒動」というサイトにたどり着いた。

osaka21.or.jp

サイトをよく見てみると「大阪鍋騒動」には、関西特有の鍋文化や、大阪と鍋の密接な関わりについてのさまざまな情報がまとまっている。

うむ……ここに私の求める答えがありそうだ! そう思い、「関西・大阪21世紀協会」の専務理事を務める佐々木洋三氏に、関西の鍋についてお話をうかがってみることに。後半には佐々木さんおすすめの鍋料理を実際に作ってみたレポートもあるのでぜひこの冬の鍋ものの参考にしていただきたい。これが実に合理的かつ食い倒れの街らしく、手軽でおいしい鍋料理なのだ。

 

東と西では鍋のダシが違う

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▲佐々木洋三氏は関西の食文化に精通している上、大の釣り好きでおいしい魚にも詳しい

 

── 「関西・大阪21世紀協会」では関西の鍋文化についての情報を発信していますが、ずばり関西と関東の鍋文化の一番の違いというとどんな点でしょうか。

 

佐々木氏:大きなポイントして挙げられるのはダシです。関西は昆布ダシが中心で、関東はいりこダシやかつおダシが中心です。これには江戸時代に北海道から大阪(当時の“大坂”)へと物資を運搬していた“北前船(きたまえぶね)”が重要な役割を果たしています。

当時は日本海から瀬戸内海を経て大阪に至る西廻り(まわり)航路がさかんに利用されていたんです。その西廻り航路の船が北前船と呼ばれていたのですが、その北前船が、まず関西の古着を船に積んで東北や北海道に売りに行く。そして帰りに北海道の昆布を積んで来たんですね。船に積んでいる間に潮風にあたって発酵し、風味を増した昆布を大阪の料理人たちが工夫して、そこからダシを取った。そうして昆布を使ったダシが大阪の食文化の基本となり、その後に生まれる鍋ものも昆布でダシを取ったものが主流になっていきました。

 

── 大阪北海道が便利な航路で結ばれていたことで、昆布が手に入りやすかったことがダシ文化の違い生む大きな要因だったんですね。

 

佐々木氏:そうなんです。さらに重要なのが水の違いです。関西の水は軟水で、関東の水はそれに比べて硬水に近い、硬い水なんです。軟水は昆布のうま味が出やすいんですが、関東の水で昆布を炊くとエグみが出てダシがにごってしまった。そこで関東ではいりこやかつおでダシを取るのが主流になっていきました。このダシの違いが東西の食文化の違いに大きな影響を与えたんです。

 

── なるほど、それがよく言う関西と関東のダシの違いにつながっていくんですね。

 

佐々木氏:昆布から出るうま味成分であるグルタミン酸、これが関西の食文化の根底にあります。また、昆布には「利尻」「羅臼」「松前」「納沙布」など、採れる地域によって風味が違い、それぞれに適した調理法があるんです。昔は「今日は湯豆腐にしよう、じゃあ利尻の昆布だ」という風に使い方に合わせて選んでいたんですね。今では家庭ではそこまで細かく昆布を選ぶことはなくなってしまいましたが、そのように奥の深いものなんです。

 

── 昆布の産地によって使い分けがあったなんて! 考えたこともなかったです。

 

鍋こそ大阪的合理主義の象徴

── ダシの他にも東西の違いってあるんでしょうか。

 

佐々木氏:はい。関西ではおいしくて新鮮な魚が手に入りやすかったんです。瀬戸内海は潮の流れが速く、魚の身が引き締まっておいしくなる。水運の面でも速い潮の流れを利用して新鮮な魚を比較的容易に運搬できたんですね。活きの良いタイやサワラなどが豊富に大阪に集まってきたわけです。それをおいしく食べるために料理人たちが腕を磨いたんです。そこから「魚のしゃぶしゃぶ鍋」や「魚ちり」が生まれていきました。これも関西特有の鍋ものです。

 

── たしかに、フグを使った「てっちり」などは関西の名物だというイメージがあります。

 

佐々木氏:さらに忘れてはいけないのがポン酢の存在です。関西では、関東に比べてポン酢の使用量が高い傾向にあります。例えば脂の乗った魚を鍋もので食べる時に、ポン酢をつけて食べると、ポン酢に入っている酢の酸が脂を溶かしてくれるんですね。酸が脂を溶かす時に生まれる味の変化を楽しめるわけです。中華料理には紹興酒が合いますよね。紹興酒も酸味で脂を切る役割を果たしてくれるんです。それと一緒で、脂の乗ったものにポン酢を合わせるというのも関西の鍋ものの大きな特徴です。

 

── 昆布ダシ、新鮮な魚、ポン酢という要素が大阪の鍋ものにとって大きな存在ということですね。

 

佐々木氏:そうですね。ですから個人的には大阪ならではの鍋というと「魚ちり」を推したいところです。そもそも鍋ものは大阪人の気質にも合っているんです。「今日は良いブリが入ったからブリしゃぶにしよう!」というように、おいしいものをみんなでシェアしようという時に鍋ものは最適ですよね。コミュニケーションを楽しみながらワイワイ食べられるというのが良い。また、大阪人の合理主義にもかなっていて、鍋は準備が楽でしょう。そして片付けも楽。材料を切って昆布でダシをとってポン酢をつければおいしくなるという簡単さも非常に好まれたわけです。

 

── 聞いていると早く家に帰って鍋をしたくなってきました。

 

上品な味の「太刀魚の豆乳しゃぶしゃぶ」

佐々木さんのおすすめの鍋レシピを教えていただけないでしょうか? とお願いしてみた。「まずおすすめなのは……」と、最初に教えていただいた鍋レシピが「太刀魚(タチウオ)の豆乳しゃぶしゃぶ」だ。

用意するのは太刀魚と豆乳とポン酢、あとはいわゆる寄せ鍋に入れるような白菜やキノコ類などのお好きな具材だけである。

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材料(分量はすべて適量):

  • 太刀魚
  • 無調整豆乳
  • 白菜
  • にんじん
  • シイタケ
  • 水菜
  • ポン酢(お好みで小ネギなどの薬味も)

 

作り方:

  1. 太刀魚を皮がついたまま削ぎ切りにする
  2. 無調整豆乳を鍋に注ぎ沸騰させる
  3. 太刀魚の身をしゃぶしゃぶして銀色の皮が鈍い色に変化したらポン酢をつけて食べる
  4. お好みの具材をお好きなタイミングで入れながら楽しむ

 

以上、見ての通りなんとも簡単なレシピだ。太刀魚を買って食べたことがなかったのだが、近所のスーパーに行ってみるとパック入りの切り身が簡単に手に入った。

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骨をよけるように皮ごと包丁で一口サイズに削いでいく。ズブの素人ゆえ少しいびつな切り方になってしまったが、美しい銀皮が並ぶだけで気分は割烹である。

佐々木さんいわく、「皮と身の間が一番おいしいので皮はそがないでください」とのこと。

 

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あとはいわゆる水炊き鍋に入っていそうな具材ならなんでもいいので好きなものを用意して無調整豆乳を注いだ鍋でグツグツするだけ。

 

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太刀魚をアツアツの豆乳にくぐらせる。

 

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一瞬でクルンと身が縮むので、すかさずポン酢につけて食べる。

ふわふわっとした太刀魚の食感と豆乳のまろやかな味わいがポン酢のすっきりした酸味との相乗効果で至福の味わいに。佐々木さんが「日本酒にすごく合いますよ!」と教えてくれた通り、この上なくお酒との相性が良い。

普段、豆乳鍋をする時は豚肉を入れることが多い私だったが、太刀魚の上品なうま味に驚かされた。いつもの鍋からワンランク上の食べ物になったような気がする。ちなみに用意するポン酢もお好みのものでもちろんOKだが、大阪名物の「ポンズ(食品)」を合わせるとより“大阪鍋”という感じで楽しめそうだ。

 

魚すきを応用した「サスケ鍋」

佐々木さんはもう一品おすすめ鍋レシピを教えてくれた。それが「サスケ鍋」だ。

「太刀魚の豆乳しゃぶしゃぶ」が「魚ちり」の変化形なら、「サスケ鍋」は魚を使ったすき焼きである「魚すき」の応用編。

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材料(分量はすべて適量):

  • ブリ、サバなど脂の乗った白身魚
  • 玉ねぎ
  • 白菜
  • 春菊
  • 水菜
  • にんじん
  • シイタケ
  • えのき
  • しらたき
  • 醤油、みりん、料理酒、砂糖(あるいは市販のすき焼き用割り下)

 

作り方:

  1. すき焼きの割り下を作る要領で醤油、みりん、料理酒、砂糖を適量合わせる
  2. 玉ねぎをたっぷりざく切りにし、鍋の中で割り下とともに煮込む
  3. 野菜などの具材を入れて煮込む
  4. 脂の乗った魚を鍋に入れ、火が通ったら溶いた卵につけて食べる

 

こちらも非常に簡単。要するにすき焼きにおける牛肉をサバやブリなどの魚に置き換えれば良いのだ。私は近所のスーパーで割引きになっていたブリを購入して試してみた。

ポイントは割り下に玉ねぎをたっぷり入れて煮込むこと。そこから出る甘みが魚のうま味を引き立ててくれる。

ちなみに「サスケ鍋」とは刺身の“さし”と鍋につける“つけ”が転じた名だそうで、もともとは対馬の郷土料理。具材に火が通るまでの間は魚を刺身として食べて待ち、いよいよ鍋の中が仕上がったら今度はその魚をすき焼きにして食べるという、“ひと粒で二度おいしい”食べ方なのだ。

 

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牛肉を使ったすき焼きとは違ったさっぱりしたうま味を楽しむことができ、これもまた日本酒と合う。いろいろな魚で試してみたくなった。

 

今回取材に協力していただいた「関西・大阪21世紀協会」の佐々木洋三さんは、4年に一度開催される「食博覧会・大阪」の総合監修を務めるなど、関西の和食文化のPRも努めている。公式サイト上には食に関するコンテンツが多数用意されているのでぜひチェックして見て欲しい。

 

取材協力:財団法人 関西・大阪21世紀協会

※この記事は2017年12月の情報です。

 

書いた人:スズキナオ

スズキナオ

1979年生まれ、東京育ち大阪在住のフリーライター。安い居酒屋とラーメンが大好きです。exciteやサイゾーなどのWEBサイトや週刊誌でB級グルメや街歩きのコラムを書いています。人力テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーでもあり、大阪中津にあるミニコミショップ「シカク」の店番もしており、パリッコさんとの酒ユニット「酒の穴」のメンバーでもあります。色々もがいています。

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