島旅研究家/島旅フォトライターのいづやんです。
日本は島国ですが、本土5島(北海道、本州、四国、九州、沖縄本島)を除くと、人の住んでいる離島は約420島ほど。僕は、そんな日本のさまざまな離島を旅することをライフワークにしています。
その中でも、八丈島は東京の南に広がる伊豆諸島の南端に位置する島。
行き方は2通りあります。
- 東京の竹芝客船ターミナルを毎日夜22時頃出発するフェリーに乗る(約10時間)
- 羽田空港から毎日3便ある飛行機に乗る(約50分)
金曜日の夜にフェリーに乗って翌朝八丈島に到着、土・日と島を観光し、日曜夕方17時の飛行機で帰れば、週末でもたっぷり島を堪能できます。
八丈島には、同じ都内とは思えない青い海と、太古の自然が残る森や山、温泉もいくつもあります。
それになんと言っても海と山の幸! 新鮮な魚介類はもちろん、温暖な気候をいかした果物や野菜、最近では戦前まで盛んだった酪農も復活し、質の高い乳製品が徐々に知られるようになっています。
そして、島ならではの郷土料理の数々も見逃せません。今回は、八丈島の郷土料理としては一番メジャーとも言える「島寿司」を、実際に作ることができる体験教室にお誘いいただきました。
これはチャンスとばかりに、八丈島に向けて出発です!
フェリーに乗って、起きればそこは「東京の離島」
夜発のフェリーに乗って八丈島へ向かいます。
竹芝客船ターミナルを22時に出発した「橘丸」は、東京湾を抜けて翌朝9時に八丈島の底土港に到着。
港に降り立つと、八丈太鼓の演奏でお出迎え。気分はすっかり島の人です。
島寿司の体験教室までは時間があるので、レンタカーを借りて島内観光へ。
八丈富士が一望できる八丈植物園は、無料で楽しめる広大な公園。小さな鹿の仲間・キョンもいます。
▲園内では八丈島で育てられているジャージー牛から取れた牛乳で作られたジェラートも
八丈八景の一つ、大坂からの眺めも抜群。左手側はかつて人の住んでいた八丈小島、右手側は八丈富士です。
八丈島には八丈富士の他にもうひとつ、三原山という山があり、その麓には古い森が広がっています。裏見ヶ滝という、滝の裏から見ることのできるような場所も。
そして、八丈島は温泉天国! この島の中に、源泉の違う温泉が7箇所もあります。こぢんまりとした内湯、太平洋を望む高台の上にある絶景の露天風呂などなど、種類も多彩です。
藍ヶ江にある足湯きらめきは、足湯なのに源泉掛け流しというぜいたくすぎるお湯。「八丈島一濃い青」と言われる藍ヶ江の海を見ながら浸かる湯で、フェリーの旅の疲れを癒やします。
(写真提供:八丈島観光協会)
ほっと一息ついたら、いよいよ島寿司体験に向かいましょう!
「島寿司」は誰でも握れる?
今回、島寿司体験教室を主催するのは、八丈島では知らない人はいない(?)海風おねえさんです。
海風おねえさんは八丈島のスーパー「あさぬま」のブログを担当し、12年間ほぼ毎日のようにスーパーの商品やご自身で作られた料理の情報など、八丈島の「今」を細かく発信しているブロガーのかがみのような方。
写真・顔出しはNGとのことなので、運営されているブログを載せておきます。
八丈島に行くことをおねえさんに伝えると、「その日は家で島寿司体験教室のプレイベントをするから、参加しない?」といううれしい申し出があり、二つ返事で参加することに。
八丈島の島寿司は、島ではもちろん本土でも幾度も食べていますが、自分で作ったことなどないし、まさか作れるとは思ってなかったのでやや緊張気味。
海風おねえさんのご自宅を訪れると、すでに他の参加者の方もいらっしゃいました。みなさんに挨拶して上がり込むと、テーブルには寿司桶が用意されています。
海風おねえさん:みなさんそろいましたね。今日の参加者は6名で、島内の方が4人、島外の方が2人です。それではどんどん作っていっちゃいましょう!
島寿司(6〜7人前)
- 米(5合)
- 寿司ダネ(メダイ、アオゼ〈アオダイ〉、オナガ〈ハマダイ〉、トビウオなど季節ごとの白身魚)
- お酢(1カップ)
- 砂糖(1カップ)
- 塩(大さじ1)
- 醤油
- 和辛子(チューブタイプで可)
そもそも、「島寿司」とはなんでしょうか?
おねえさんから渡されたプリントには、「握った酢飯に辛子を付け、白身魚をヅケにしてのせる」とあります。
そう、島寿司とはワサビの代わりに辛子を使った、ヅケの握り寿司なのです。
海風おねえさん:八丈島婦人会が定めた基本の寿司酢の配合は、米5合に対して、お酢が1カップ、砂糖も1カップ、塩は大さじ1です。このレシピで作るとけっこう甘めの酢飯が出来上がります。最近は甘さ控えめの島寿司が増えてますので、今回はこのレシピより少し砂糖の分量を減らして作りましょう。
それでも「砂糖をこんなに入れるの?」と感じるかもしれません。島寿司の酢飯は甘く作るのが特徴なんです。
ボウルに普通の穀物酢と、これまた普通の上白糖、塩を分量通り入れていきます。この材料なら普通のご自宅にもありますね。というか、材料はすべていたって普通のものばかり。これなら習ったことを家に帰っても実践できます。
海風おねえさん:八丈島の家庭では、お酢も砂糖も塩もごく普通のものを使ってます。好みで他のものを使う人もいますけどね。
できた寿司酢を少し固めに炊いたお米に混ぜ、寿司桶に広げて混ぜながら団扇で冷ましていきます。
海風おねえさん:酢飯が温かいと手について握りづらいのと、タネの魚が傷みやすくなるので、きっちりあおいで冷ましてください。
手持ち無沙汰だった僕ともうひとりの男性陣は、ここぞとばかりにうちわをあおぎつつ、しゃもじで酢飯を混ぜて冷ましていきます。そういえば大昔、母親の手伝いで酢飯を作らされたっけ。なんだか少し思い出してきたぞ。
酢飯が冷めたら、今度は寿司ダネのヅケを作ります。
海風おねえさん:タネを醤油に漬ける時間は、「季節(気温)」「食べるまでの時間」「醤油の種類」といった要素を総合的に考えて決めます。今回だと季節は秋(取材当時)、作ってすぐに食べ、醤油は普通のものを使うので、10分間漬けてみましょう。
知識と経験がものを言う作業工程ですから、時間は臨機応変に変えてみてくださいね。
……あれ、酒もみりんも使わず、普通の醤油のみなのか。
海風おねえさん:島だと普通の醤油をそのまま使います。今回は丸大豆醤油と生醤油を用意したので、それぞれのヅケを作ってみましょう。
これも実に簡単! 伊豆大島の島寿司である「べっこう寿司」は島唐辛子を加えた醤油に漬けるそうですが、島ごと、家庭ごとの漬けだれのアレンジもいろいろありそうです。
海風おねえさん:寿司ダネは、八丈島の島寿司では一番メジャーなメダイを用意しました。値段も手頃で入手しやすいですし、「スーパーあさぬま」では予約すると寿司ダネ用として切られたものを買うことができるんですよ。
登場したのはぴかぴかのメダイの刺し身! 寿司ダネ用に切ったものを売ってくれるとは、さすが八丈島のスーパー。醤油もすぐそこにあるし、なんならこのままいただきたい。
が、ぜいたくにもボウルに張った醤油の中に刺し身をどんどん入れていきます。これもおいしい島寿司をいただくための我慢か……。しかしこの醤油の照りをまとったメダイも美しい……。
海風おねえさん:八丈島の島寿司で他によく使われる魚は、アオゼ(アオダイ)、オナガ(ハマダイ)、春だとトビウオですね。お祝いごとには赤くてめでたいオナガが好まれます。高級魚でおいしいですしね。
島のお寿司屋さんでは、カンパチ、シマアジ、キンメも島寿司として使われているそう。その時々の旬のものを使えば、それはもうおいしくて立派な島寿司、というわけですね。
海風おねえさん:それでは、酢飯を握っていきましょう。水とお酢を混ぜた手酢で手を湿らせてから、酢飯を取って握っていきます。
おっと、酢飯だけを握るんですか。
海風おねえさん:ご家庭だとその方が簡単だし、ヅケにした魚のつゆでびしゃびしゃになりますからね。寿司ダネは握ったあとからシャリにのせていきます。
参加者一同、各々見よう見まねで俵型に握っては皿にのせていきます。
海風おねえさん:並べ方に気をつけると、出来がった時の見栄えも良いですよ!
みなさんお互いの皿を見比べながら、「こうやって並べたほうがきれいかも」と試行錯誤しながら握っていきます。
海風おねえさん:握り終わったら、シャリの上に辛子を付けていってくださいね。
と、これまた普通のチューブの和辛子が渡されたので、適宜塗りつけていきます。
なぜ辛子を使うのか? それは昔、絶海の孤島だった八丈島ではワサビが手に入りづらかったので、代わりに辛子を使っていた名残だそう。
次はいよいよ寿司ダネをのせていきます。
すっかり醤油に浸かったメダイを取り出しながら、余分な醤油を指で落としてシャリの上へ。しっかり落とさないと、シャリにのせた時に醤油が皿に垂れてちょっと残念な見た目になるので、注意が必要でした。
おお、よく知っている島寿司が目の前に……! 参加者の皿の上には、きれいな島寿司たちが整然と出来上がっていきます。
付け合せを添えて、豪勢な島寿司ランチの完成
海風おねえさん:付け合せも作っておいたので、そこにある小鉢に盛って、センスよく一緒に並べてくださいね。
センスよく! 普段あまり料理しない僕にはちょっとハードルが高いかもしれない。散々悩んだ挙げ句、形の違う小鉢を3つ選び、おねえさんがあらかじめ作ってくださった島野菜のピクルス、島唐辛子入り玉子焼き、郷土料理のきんぼしなどを盛って島寿司の隣に並べていきます。
完成だー!
ちょっとこれ、どうでしょう? お店で出てきた、と言っても信じてもらえる出来栄えじゃないですか?
▲みなさんしばし自分の作品(?)の撮影タイムに
その裏で海風おねえさんが、これまた八丈島の食卓には欠かせない、明日葉の天ぷらを揚げてくれました。さらにつみれ汁が食卓に並び、豪勢なランチタイムを迎えます。
「いただきます」の声とともに、全員自分が作った島寿司を頬張ります。
「んー!」「おいしい!」いろんな歓声が上がる中、僕が作ったものもちゃんとおいしい。
確かに、醤油漬けだと甘めのシャリがよく合います。辛子のアクセントも実に楽しい。僕がよく知っている島寿司です。白身魚で脂ものっているメダイが、また一段とおいしく感じられます。
それにしても、島に行くたびに食べていた島寿司を自分で作れて、しかもおいしいなんて!
海風おねえさん:島寿司、簡単だったでしょう? さっきも話したようにいろんな魚で作れるし、家庭料理でもあるし、冠婚葬祭でも作られるお料理なんです。各家庭ごとにもアレンジがあって面白いですよ。
揚げたての明日葉の天ぷらも、サクサクで独特の苦味がおいしく、どんどんみんなのお腹に消えていきました。
初めて見る郷土料理「きんぼし」は、干した“かんも(サツマイモ)”を小豆と一緒に甘く煮て作るものだそうですが、おねえさんいわく「島に残っているレシピがざっくりすぎてこれで合っているかわからない。子どもの時に食べたものとちょっと違うかもしれない」とのこと。とはいえ、優しい甘さが印象的でした。
一緒に作っておいしく食べる。するとさっきまでは他人だった参加者同士にいろんな話の輪が広がっていきます。
海風おねえさん:この島寿司体験教室は私がずっとやりたかったことなんです。八丈島くらい大きな島だと、会ったことない人の方がまだまだ多くて。こういう機会を作れば初めましての人でも参加しやすいし、何より私が楽しい!
と、笑顔で語るおねえさんが印象的でした。
八丈島を代表する郷土料理の島寿司。作ってみると本当に簡単でそのおいしさに驚くとともに、一緒に楽しく作ることでコミュニケーションのきっかけにもなるんだな、と満腹のお腹を抱えて海風おねえさんの家を後にしたのでした。
ぜひ島好き、お寿司好きのみなさんも、おうちで島寿司、作ってみてください!
書いた人:いづやん
島旅研究家、島旅フォトライター。本業のWeb制作のかたわら、休みのたびに日本の離島を巡り歩いては写真を撮り、ブログを書き、イベントで話したり、同人誌を作って離島の魅力を発信しています。人生初離島は小笠原、一番通っているのは八丈島。
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