レシピ本を出版するほどのスイーツ好き悪役女子レスラー
今年もっともインパクトを残したレスラーといえばこの人！
レシピ本『世志琥の極上スイーツ作りやがれ！』（ワニブックス）を発売したばかりの世志琥（よしこ）選手（SEAdLINNNG）に今回はお菓子とめしの話をうかがいました。
（画像提供：©️SEAdLINNNG）
今年に入りコロナウイルスの影響でどの団体も興行が出来ないなか、プロレスを知らない層に世志琥選手がバズったのが、若い世代に圧倒的に支持されている動画アプリTikTok。
特に「これをきっかけにプロレスを見てくれたら」とアップしたスイーツ制作動画が爆発的に話題を呼んでいます。
コワモテな表情とオラオラな口調で作る「くまちゃんオムライス」や「ぴえんクッキー」といったキュートなスイーツ、そして最後に見せる満面の笑顔というギャップがプロレスファン以外にもハマり、さらに『スッキリ』『有吉反省会』などのTV番組で紹介されたのもあり、現在（2020年10月）フォロワーは36万人を越えるほど。
（画像提供：©️SEAdLINNNG）
その勢いもあってかリング上の活躍もさらに高まり、2020年7月には所属団体の頂点・BEYOND THE SEA SINGLE 王座を手にし、波にのる一方です。
子どもの頃からうどんを足でこねて作ってました
──さっそく話題のスイーツ話からうかがいたいんですが、世志琥選手は子どもの頃からお菓子は作ってたんですか？
世志琥：中学生くらいから作ってましたね。クッキーとかよく作ってましたし、あとバレンタインにチョコレート作ったり。
──バレンタイン！ 誰にあげるチョコなんですか？
世志琥：友チョコですよ！ フフフフ。レスラーになって、一人暮らしをはじめてからがっつり作るようになりましたね。差し入れで道場に持っていったりして。自分の趣味でやってたことなんで、TikTokやるまではわざわざ表に出して言ってはなかったんですけど。
──それ以外の料理も子どもの頃から作ってたんですか？
世志琥：最初に作った料理が卵焼きなんですよ。小学校1、2年生くらいかな？ お母さんがお弁当によく入れてくれたのが好きで、真似して作ってみようって。何回か作ってみて、上達した頃に小学校の先生に持っていったんです、食べてほしくて。
──ということは世志琥選手の憧れの先生？
世志琥：いや～、そういうわけじゃなかったんですけどね（笑）。友達とかに食べてもらうより、大人に褒めてほしかったのかなあ？ 弁道箱に詰めて持っていって、食べてもらいました。
──先生もいきなり持ってきたら驚きますよね。
世志琥：先生もすごく優しくて、食べてくれたうえにお返しにレシピ本をプレゼントしてくれたんですよ。それはすっごい記憶に残ってます。
──リング上からは考えられない、かわいい思い出ですね（笑）。子どもの頃の思い出のめしって他にありますか？
世志琥：お母さんが料理上手だったんですけど、細かく盛り付けるってよりテーブルの上に大皿料理バンバンバン！ って家庭だったんです。それでよく作ってくれたのが唐揚げですね。お母さん自身も唐揚げが好きで、いろんな唐揚げを食べて試行錯誤してたどり着いた味らしくて。
──隠し味とかあったんですかね。
世志琥：作り方とかは聞いてないんですよ。聞いて作るより、お母さんの作ったものを食べたいから（笑）。でも本当にお母さんの唐揚げで育ったと言ってもいいです！
──そんなかわいい小学生時代から一転して、中学では不良の道に進んでしまうんですよね（笑）。葛飾区の中学生の思い出の食事というと？
世志琥：家の近くに「100円もんじゃ」を出す駄菓子屋さんみたいなのがあったんですよ。ほとんど具が入ってない、小麦粉にキャベツちょっとみたいなの。そこはよく通ってましたね。悪くなる前から行ってました（笑）。
中学生になってからも、毎日そこでお菓子買って土手に行く、みたいな感じでしたね。
──お菓子買って土手に行くのが葛飾ヤンキースタイル！
世志琥：土手に行けば、誰か友達がいるんですよ。溜まり場になってましたね。
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──卵焼きから進化して、料理はいろいろ作れるようになったんですか？
世志琥：両親が離婚して、お母さんが昼も夜も働くようになって家にいなかったので、自分の家も溜まり場みたいになっていったんですよね。
友達いる時に「お腹空いたね～」って誰か言うと、冷蔵庫にあるものでなんか作ったりしました。冷蔵庫の中にも何もない時とかは、「うどん作るか！」っていって小麦粉こねて作ったこともありました（笑）。
──え！ 麺から作るんですか。
世志琥：作ったことないから見よう見真似ですよ！ ビニール袋に小麦粉つめて、めっちゃ足でふんで。意外といけたと思います（笑）。今思えば、すいとんっぽい出来だったですけどね。
新人時代、どうしてもちゃんこを食べたくて……
──それから社会人経験を経て、2011年にスターダムのメインイベントでプロレスデビュー。スターダムではデビュー前から寮生活だったんですか？
世志琥：いちばん最初は実家からの通いで、デビューするちょっと前から寮に入りましたね。
──寮でのご飯はどんな感じだったんでしょう？ これまで聞いてきた感じだと、女子プロレスはあんまりみんなでちゃんこ食べるといった話は少ないみたいですけども。
世志琥：これが、そもそもみんな料理作らないんですよ！ 最初に寮に入った時にいたのが1期の自分と岩谷麻優と、あと2期の鹿島沙希もいたかな？ 全部で3、4人くらいだったんですけど、みんなやんない！
──そもそも出来ない、って感じだったんですかね。
世志琥：出来なかったのかなあ。自分は「プロレスの寮といえばちゃんこだ！ 鍋だ！」っていうイメージしかなくって。
──プロレス好きとしては正しい認識ですね（笑）。
世志琥：それがいざ入ってみたら、まったくそんな様子がないんですよ。寮に台所はあるんだけど、みんなそれぞれ好きなもの買って食べる感じで。それもコンビニご飯だったりするから、キッチンすら使わないんですよ（笑）。
──世志琥選手はちゃんこやりたいのに。
世志琥：おかしいな、と思って、寮に入った初日から「私が作る！」って言って率先してちゃんこ作りましたよ。鍋に肉や野菜入れて、締めまで用意して。
（画像提供：©️SEAdLINNNG）
──レスラー経験ないのにちゃんこ作るのも変な話ですけどね（笑）。
世志琥：固定概念があったんですよ、「新人レスラーのめしって言ったらちゃんこだろ！ 鍋だろ！」っていう。たぶん本とか読んでのイメージだと思うんですけど、それがぜんぜん違ったのはちょっとガッカリでしたね。
──じゃあ、それからスターダムは鍋中心に？
世志琥：いやー、自分は料理作ったりもするんですけど、他の人はあんまり作らないので、結局みんなそれぞれ食べるようになっちゃいましたね。
料理当番とかあったわけじゃないんで、みんなで揃って作って食べるって習慣が出来なかったんですよ。だから他の人のちゃんことか食べたことないんですよ。他の選手のちゃんこも食べてみたいです！
──じゃあ「同じ釜の飯を食う」みたいな経験はないんですね。
世志琥：でも、たまにみんなで集まってタコ焼きパーティとかしてました！ メンバーみんな若かったし、自分たちが1期生で、その上がもう高橋さん（高橋奈七永）とか南月さん（南月たいよう）とか大先輩で、すぐ上の先輩とかいなかったから和気あいあいでしたね。
──一緒に食べるのが鍋じゃなくてタコパってのが若さですね！ じゃあ基本的にはひとりでご飯作って食べてたんですか？
世志琥：そうですね、シチューとか親子丼とか自分の好きなもの作って食べてました。あんまり体を鍛えるメニューとかは考えてませんでしたね。上からもそんな言われる感じでもなくって。
若い子が多いから自由な感じでって方針だったみたいで、高橋さんとかも縛らずにやってくれてたのかなと思いますね。
思い出の味は博多の水炊きと北海道のジンギスカン
──さすがに昭和のレスラーみたいな「食え！ 太れ！」みたいなことはなかったみたいですけど、練習はキツかったんじゃないですか？
世志琥：めっちゃキツかったです。それまで真面目に練習するのって、部活でやってたポートボールくらいでしたから。それも中1くらいまでしかやってなかったんで、腕立てとか1回も出来なかったくらい。スクワットなんかプロテストの決まりが100回だったんですけど、ぜんぜん出来なくって。
だからプロテスト前は「スクワット100回やってからじゃないと家に入れない」って決まりを自分に課してやるようにしてました。しんどかったですね……しんどかったけど、同期の子と競い合う経験とかそれまでなかったんで、今思うと充実してました。
──先輩たちとご飯食べたりしないんですか、試合後とか。
世志琥：わたし試合が終わっても、人とご飯に行かないんですよ、断っちゃうタイプで。特別に打ち上げでもないと、みんなでご飯には行かいんですよね。
──試合終わってああだったこうだったとか話さないもんなんですね。
世志琥：話さないですね、直帰って感じで（笑）。地方でもなかなか泊まりの試合というのがなかったりするので、その土地でゆっくり美味しいもの食べたりする機会がないんですよ。泊まるというと北海道とか九州・沖縄くらいの距離じゃないと。
──そういった遠距離での美味しい思い出とかありますか？
世志琥：参戦しているOZアカデミーさんが結構地方興行があって、今一緒にタッグ組んでる松本浩代選手と博多で食べた水炊きはめっちゃ美味しくって感動しました！
あと北海道で松本さんとジンギスカン食べに行ったら、後からアジャコングさんとばったり会って。私達はホテルの人に聞いておすすめされてたんですけど、アジャさんの行きつけのお店だったみたいで、ごちそうになりました！
──アジャコング選手は世志琥選手プロデュース興行でも試合したり、関わりは多いですよね。
世志琥：他団体に出た時とか、アジャさんからご飯に誘っていただくこともあるんですけど、プロレスの話とかマンツーマンで聞かせてもらったり、今の若い選手ではなかなか出来ない貴重な経験させてもらってるなと思います。だから今度ついに決まったシングルマッチでは、絶対にアジャさんを超えたいですね。
──いちばん関わりの長い先輩というと、スターダムから現在のSEAdLINNNGと共にしている高橋奈七永選手、現在レフェリー・コーチの南月たいようさんだと思うんですけど、その偉大な先輩ふたりと美味しいもの食べた記憶はないんですか？
世志琥：美味しいものというと……「ステーキハウスB&M」（目黒店）ですね。ここは全女OBの皆さん定番のお店で、よく連れて行ってもらいますね。思い出の場所なんでしょうね。
自分もそこすごい好きで、特にマッシュポテトがすごい好きなんです。ガーリックステーキにマッシュポテトが最高です！
──ちなみにお酒とか飲んだりすることは？
世志琥：高橋さんはあんまり飲まないんですよ。打ち上げとかも行かないんですよね。
──トップの姿勢が下にも反映されますよね。世志琥選手が行かないのもそういう影響かな。
世志琥：スターダムの最初の頃はみんな10代とかで若かったですからね。ただ、逆に南月さんは打ち上げ大好き！（笑）やばいですよ……。
──南月さんとは彼女の現役時代、名タッグ「川崎葛飾最強伝説」として活躍しましたけど、ご飯を食べたり飲みに行ってひどい目に遭ったりしたことは？
世志琥：最近はひどい目は……ないです！ その前に帰ります！（笑）
プロレスとスイーツ、自分ではギャップと思ってない
──ではあらためて『世志琥の極上スイーツ作りやがれ』（ワニブックス）も発売されましたし、スイーツ話をうかがいたいんですけど、TikTokで最初に話題になったのは2020年5月のチュロスの投稿からですか？
世志琥：そうですね。最初に投稿した時はいつもとそんなに変わらないくらいの再生回数だったんですけど、翌日には見たことないくらいの数字になってて。しかも反応がいままでとぜんぜん違う、自分のことをまったく知らない人の方が圧倒的に多かったんですよね。
（画像提供：©️SEAdLINNNG）
──でもバズってからは、メニューを考えるのが大変じゃなかったですか？
世志琥：ちょうどコロナの自粛期間で、「おうちご飯」とか「おうちカフェ」が流行ってたので、どんどん流行りのメニューが動画で紹介されてて、それを参考にさせてもらって、可愛くてデコれそうなものはどんどん作っていきましたね。
──今回のレシピ本にはこれまでTikTokなどで紹介したメニューを中心に、さまざまなスイーツを紹介してますね。
世志琥：簡単に作れるものや、流行りのものを厳選して載せた感じですね。SNS映えは意識してます！
──試合では強さを前に出したプロレスをしているわけですけど、それとスイーツといったかわいいイメージのギャップで悩んだりしないですか？
世志琥：よく「ギャップだよね」って言われるんですけど、自分ではギャップって思ってないんですよ。ギャップがよくわかってないっていうか、自分の中ではどっちも自分であって、両方出すことに恥ずかしさもないというか。
──料理を見て、あらためて生で世志琥選手の試合見たら驚きそうですけどね。
世志琥：あはは、でもTikTokはじめた理由も「試合見てほしい」ってことなので、最終的には会場に来てほしいですね。
この自粛期間、とにかくファンの人にプロレスを忘れてほしくなくって、どうにか伝えようと思ってはじめたのが、まさかのレシピ本まで出すことになりましたけど、自分のやってることがプロレスの入り口になればいいなと思ってますね。
──料理はもっと研究したい、いろんなものを作りたいって思いますか？
世志琥：思いますねー！ 手が込んだものが好きなんですよ。普段からクッキング動画とか見るの好きなんですけど、ずっと独学でしかやってないんですよね。ケーキのデコレーションとかもっとやってみたいし、教室に通って先生に習いたいです。
──ちなみに甘いものって体を鍛えるのに邪魔じゃないですか？
世志琥：いやっ、ほどよい糖分は大事です！ 糖分がないと疲れがとれないですしね。それに自分にとって料理が大事な理由のひとつが、作ってる時間がすごい癒やしになるんですよ。料理とかスイーツ作ってる時間はぜんぶ忘れてリセットできるというか、無になれるんです。
今は料理に加えて撮影なんかもしてますけど、夢中になって作るのは素に戻る時間ですよね。それでごほうびとして食べられるなんて、最高じゃないですか！
世志琥選手に最近の食事を聞いてみると、「レスラーとしてはぜんぜん面白くないんですけど……」と前置きした上で、サラダチキンや卵メインの食生活だと答えてくれました。
「王者として恥ずかしくない試合をしたいし、コンディションを整えようと思ったらそうなっちゃうんですよね。ベルトを持ってから食の意識が変わりました」という彼女。
お菓子で世界にプロレスを広めながら、体をしっかりと整える食事を摂る。
どちらもすべてはリング上で輝いた姿を見せるため。
まさにTikTok世代の新たなレスラー像を作り出している最中です。
話題の新刊
試合情報
11.4 SEAdLINNNG後楽園ホール大会
SEAdLINNNG BEYOND THE SEA Single Championship 30分1本勝負
〈王者〉世志琥 vs〈挑戦者〉アジャコング
究極の一戦が遂に実現するーー。言わずと知れた女子プロレス界のレジェンドであり、知名度も抜群なアジャ・コングと、お菓子作り動画がSNSでバズり、女子中高生の間で話題となってテレビや一般媒体に引っ張りダコの世志琥（よしこ）。そんな2人が11月4日、SEAdLINNNGのビッグマッチ、東京・後楽園ホールで激突する事になった。世志琥が持つ団体最高峰のベルト・ビヨンド・ザ・シーシングル王座にアジャが挑戦するのだ。
世志琥が新時代を築くのか、それともアジャが出る杭を打つのか。滅多に実現することのない2人のシングルマッチは期待度マックス。この歴史的瞬間を見逃す手はない。
