日本では珍しいチベット料理を手軽にいただけるお店
チベット料理、と聞いてイメージするものは何でしょう?
辛そう? それとも羊肉?
まずチベット(中国にあるチベット自治区。以下チベットと記す)の風景を思い浮かべてみると、見渡す限りの草原、美しい山並み、たくさんの羊……。
しかし、そこで人々が食べている料理を知っている人は少ないのでは?
東京・新宿駅から都営地下鉄新宿線で2駅の曙橋駅から徒歩4分の場所に、東京唯一のチベット料理専門店「タシデレ」があります。
入り口にはチベットの5色の旗、タルチョが掲げられいます。それぞれの色が、青(天)、白(風)、赤(火)、緑(水)、黄(地)を表しているそうです。
メニューにはチベット料理の他にネパール料理、インド料理もあります。
入り口で消毒を。
店内はもうチベット一色。
チベットの民芸品や、食品なども置いてあります。
店主はなんとチベットのお坊さん
タシデレの開店は2015年。
店主はチベット出身の僧侶、黒木ロサンさんです。
今回は、ともにお店を営んでいる妻の黒木奈津子さんにお話を伺いました。
──チベット料理の専門店って、日本ではあまりないですよね?
黒木さん:東京には他にないですね。特にオーナーがチベット人で、料理人もチベット人というお店は他にないと思います。
──普段は一緒にお店をされているんですか?
黒木さん:ええ、夫がメインで。私は別の仕事もあるので金、土、日、くらいですね。イベントを土日にやることが多いので。
──ロサンさんとの出会いは?
黒木さん:結婚してから10年になります。夫が仕事で日本に来ていたときに出会いました。夫の両親はネパールに亡命していて、夫はそこで生まれました。そしてお坊さんになり、南インドにチベット仏教の総本山があるのでそこで修行したんです。で、ぐるっと回って日本に来たんです。
──このお店を始めたきっかけなのですが、チベットの味を日本人にも知ってほしい、という思いがあったのでしょうか?
黒木さん:はい、もちろん。夫がお店をやるきっかけになったのはチベットの食べ物とか文化をもっと知ってほしいということからなので。
▲日曜日の午後には「旅するチベット語」教室が開催されています。興味のある方は問い合わせてみてください
黒木さん:お店では、文化を紹介する、音楽を紹介する、あと語学講座などいろいろなイベントもやっています。語学講座にいらっしゃったお客様同士で食事に来てくださることも多いですね。チベットやネパール、あとインドのラダックもチベットの文化圏なので、その辺りに旅行したという方もいらっしゃいます。
チベット料理ってどんなもの?
さて、そもそもチベット料理とはどんなものなのでしょうか?
──チベット料理の特徴を教えてください。
黒木さん:チベットで主に食べられる肉は、高地チベットならではの「ヤク」という長毛牛(※チベット語の「ヤク」は成熟した雄のヤクのみを指す)です。真冬の雪の中でも耐えられる動物です。遊牧民は主にヤクを飼い、高度が下がると羊も一緒に飼っていて、もちろん羊も食べますが、やっぱりチベット人にとって肉といったらヤクになります。
ミルクからはバターやチーズを作っておいて、肉は食べて、皮は袋にしたり、毛はテントにしたり服にしたりして、1頭を全部使い切ります。高地なので生の野菜は手に入らないんです。
──ヤクの肉は日本でも手に入るのでしょうか?
黒木さん:ヤクは日本では手に入りません。ですので、一番近い味の牛肉を使ってモモ(※チベット文化圏で広く食される、蒸し餃子や肉まんのような食べ物)を作っています。
ヤクを使ったものとしては唯一、チュラ(ヤク乳から作ったチーズを乾燥させたもの)を使用したツァンパ・セット(炒った裸麦の粉であるツァンパにバター茶を注ぎ、手で練って団子にして食べる軽食のセット。チュラが添えてあります)、ツァムトゥク(ツァンパで作ったシチューにチュラが入っています)をお店では召し上がっていただけます。
──お店のシェフはチベット出身の方だけなのですか?
黒木さん:チベット人が1人、あとネパール人とインド人もいます。だから、チベット料理の他にネパール料理とインド料理もあります。亡命したチベット人にとってはインドが第2のふるさとみたいなものですし、ネパールにも亡命したチベット人が住んでいます。国境はあるけど、行き来はしているんですよ。
また、チベットとネパールの両方の文化を吸収して、国籍としてはネパール人だけど、習慣としてはチベット文化圏の人もいます。山に住んでいる「シェルパ(※)」って聞いたことありますか? 彼らもそういう文化を持っていて、お互いの文化が混ざり合っているんです。
(※)ネパールの少数民族のひとつ。高地に順応しており、その登山技術の高さからヒマラヤの登山支援でも知られる
優しい味の、チベット料理の数々
それでは、さっそくいただいてみましょう!
まずは飲みものから。
▲チュルク(440円)
ノンアルコールの乳清飲料です。爽やかな酸味でほんのりした甘さでおいしいです。こちらはタシデレのオリジナル。インドなどのラッシーとは違ってサラッとしています。
お通しのサラダ。きゅうり、玉ねぎ、トマト、にんじんがみじん切りにされていてさっぱりした味です。
▲シャ・カンボ(自家製ラムの干し肉 550円)
硬い! しかし、噛めば噛むほどうま味が滲み出てきます。これはつまみにぴったり。
味変用の辛味調味料。
さらに、チベット料理をいろいろいただきました。
注文すれば辛くできる料理もあるそうですが、全体的に優しい味付けです。
▲デー・ングマ(880円)
ほっこりとした優しい味。ご飯はパラパラッとしています。中華料理とほぼ同じようなチャーハンです。
▲ラム・ギュマ(1,100円)
子羊肉と米の自家製腸詰。
肉のうま味たっぷりでもっちりとした歯ごたえです。米が肉のうま味を閉じ込めている感じです。
▲パクシャ・ンガルキュル(1,000円)
ひよこ豆粉の衣をつけた豚肉の揚げ物。スパイシーでカリッとしていて、ビールのつまみにぴったり! ひよこ豆粉が香ばしいです。
▲カプセ (350円)
チベットのお正月などに作られる揚げ菓子です。
しょっぱいのを想像していたら、ほんのり甘くて驚きました。サクサクでやはりつまみにぴったり。
ランチでもチベット料理を堪能できる
ランチでも手軽にチベット料理をいただけます。1人でいろいろ食べようと思ったらランチの方がいいかもしれません。
チベットランチセットとインドランチセットがあります。
インドランチも本格派なのですが、ここはやはりチベットランチをいただいてみましょう。
▲テントゥクセット(1,000円)
テントゥクとはすいとんのようなものが入ったスープ料理のこと。豚肉と野菜がたっぷり入ったスープに、モチモチのすいとんが入っています。
モモとサラダのセットと、ドリンクまたはデザートが付きます。
ランチサービスのスープもいただきました。トマト味のコンソメスープのような、優しい味わいです。
サラダの上には自家製のチーズ、チュラがかけてあります。
テントゥクには季節の野菜がたっぷり。温まります。
自家製のモモ。冷凍のものを通販で購入もできます。
中身は粗挽きの牛肉です。モチモチの皮で牛肉のうま味もたっぷり。
すいとんももちろん自家製でモチモチ。
途中で辛味調味料をのせ、味変してみます。
ほどよく刺激的な辛さ。は〜、心まで温まるようです。
ドリンクまたはデザートが選べます。今回はデザートのハルワを選んでみました。
ほんのり温かい、ケーキみたいなスイーツです。デュラムセモリナ粉を使った、優しい甘さの懐かしい味。ナッツとドライフルーツが入っています。
これはインドの料理です。
テイクアウトもお得なお弁当がありますよ。お手軽な価格でチベット料理が堪能できちゃいます。
▲ピンシャセット(700円)
ピンシャは豚肉、じゃがいも、春雨を煮込んだスープです。
サラダ、ライス、ティンモ、モモが付いています。
ピンシャのスープは、豚肉のうま味と出汁を感じる優しい味。具材もたっぷり入っています。
ティンモは具の入っていないシンプルな蒸しパン。中国の花巻と似ています。
初めてチベット料理を食べてみたい、今すぐ、1人で! という方には、ランチかテイクアウトがおすすめです。
チベットの料理を味わって、少しだけチベットに近づけたような気がしました。
料理は、その国の文化、風土など、国を取り巻くいろいろなもので出来上がっています。
料理を通じてチベットに興味を持ってもいいし、チベットに興味を持ったからまずは料理を食べに行ってみる、というのもいいと思いますよ。
お店情報
チベットレストラン&カフェ タシデレ
住所:東京都新宿区四谷坂町12-18 四谷坂町永谷マンション 1F
電話番号:03-6457-7255
営業時間:ランチ:11:00~15:00(L.O.14:30)ディナー:17:00~22:00(L.O. 21:30)土日祝:11:00~22:00(L.O.21:30)
定休日:年中無休