奄美大島名物「油そうめん」の作り方を電話でアンマに聞いてみた【煮干しが決め手】

普通のそうめんに飽きた時にお勧めなのが奄美大島に伝わるソウルフード「油そうめん」。具沢山で栄養満点、煮干しが味の決め手の油そうめんの秘伝レシピを、生まれも育ちも奄美のアンマ(おばあさん)に教わった!

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外出自粛である。緊急事態宣言延長である。コロナ騒動が長引く中、何よりも悩まされるのが食の問題だ。なにしろ飲食店も閉まっているところが多いので、これまでのように安易に外食へ頼ることができない。

 

わが家の場合は在宅勤務が多くなり、これに子供が通う保育園の休園が加わって、1日3度の食事作りに追われる毎日。さらに最近はスーパーへの買い物も回数を控えるように要請されているので、メニューを考えることすら面倒になる。

こうなると日持ちのいい乾麺……つまりパスタ、ラーメン、うどん、そうめんなどに頼り切ってしまうのも致し方ない話だろう。

 

しかし、だ。いくら乾麺が手軽に作りやすいとはいえ、ものには限度がある。ざるそばが大好物な3歳の娘も「また、おそばなの? もう飽きたー」と最近は呆れ気味。

うちは双子なので、1人がそう言い出すと「飽きた、飽きたー」とチャント状態で食卓はたちまちカオスと化してしまう。はぁ、どうしたものか……。

 

奄美大島に伝わるソウルフード「油そうめん」

そこで、ふと思い出したのが奄美大島のソウルフード「油そうめん」だった。

 

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あれはたしか7年前のこと。奄美大島出身の友人の実家に図々しく押しかけた際、家庭料理の腕に定評のあるアンマから出された油そうめんが衝撃的なおいしさだったのだ。

なお、「アンマ」というのは奄美大島で「おばあさん」の呼称。

また現地では、「油そうめん」ではなく、「油ぞうめん」と呼ぶことが多いようだ。

 

そうめんを肉や野菜と一緒に炒めるという意味では沖縄のそうめんチャンプルーにも似ているが、油そうめんが明らかに異なるのは煮干しの風味と食感が抜群に効いているということ。具沢山で栄養バランスもよいので、家族に出す料理としても申し分ない。

今こそ油そうめんが作りたい……! 

いてもたってもいられなくなった私は、奄美出身の友人にすぐさまLINEを送った。

 

「昔、アンマに油そうめん作ってもらったじゃん。あれ、最高に美味しかったんだよね。作り方、教えてくれないかな?」

「わかったー。だったら、あとで直接アンマと電話したほうがいいと思うよ」

 

こうして友人のアンマに“緊急リモート電話取材”することが決まった。そこで明らかになった奄美大島名物・油そうめんのレシピが以下の通りである。なお、「これはあくまでもうちの作り方。油そうめんは家庭によって作り方がまちまちだし、自分流にどんどんアレンジしちゃってOK」とアンマが強調していたこともつけ加えておこう。

 

さつま揚げが味にコクを出す

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▲これは基本パターンだが、とりあえず野菜類は冷蔵庫の余りものを投入するのが吉。分量も好みに合わせてアレンジするべし

 

材料(4人分)

  • そうめん 4束/1人分1束が目安
  • 煮干し 30g
  • 豚肉こま切れ 200g(スパムでもOK)
  • にら 1束
  • にんじん 1本
  • たまねぎ 1個
  • さつま揚げ 200g
  • サラダ油 大さじ1(ごま油やオリーブオイルでもOK)
  • 醤油 ひと回し
  • 塩 少々
  • ごま油 少々

 

まずは、これが材料。ここでは暫定的に分量も記しておいたが、アンマによると「冷蔵庫の中で余っている野菜を適当に入れるのが正解」とのこと。家庭によってはネギ、しめじ、小松菜などを入れるところもあるようだ。

 

f:id:exw_mesi:20200509131953j:plainアンマ:いや、本当に具材に決まりごとなんてないのよ。だから、わざわざ油そうめんのためだけに食材を買い揃える必要もないと思うし。スーパーに行くと、炒め物用のミックス野菜が100円くらいで売られているじゃない。もやしとかニラとか入っているやつ。1人暮らしの方だったら、あれで十分じゃないかな。
それから豚肉も絶対に必要というわけじゃないから、缶詰のスパムとかでもOK。そうめんのメーカー? そんなの、別にどこでもいいんじゃないのかな。私、あんまり細かいこと気にしないからね。ワハハハハ!

 

……アンマ、ノリが若いな~。御年82歳とは思えない。とにかく南国の料理らしくおおらかに作るのが大事で、あまり神経質にならないほうがいいのかもしれない。なお、具材にさつま揚げ(奄美では「つきあげ」と呼ぶ)を入れるのはアンマ流儀。グッと味にコクが出るのだという。

 

作り方

そして、いよいよここからは作り方。アンマに聞いたアドバイスをもとに、実際に自分でも作ってみた。

 

1.煮干しは頭とはらわた部分を手で事前に取る。「はらわたを取る?」と最初は理解できなかったのだが、やってみると意外に簡単。親指の爪で煮干しの腹部に力を加えると、魚をおろした状態のように裂けるので、あとは黒い部分を取るだけだ。

 

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▲煮干しの腹部分を押すと、簡単にはらわたが取れる。要領を掴んでしまえば、サクサク作業を終わらせることができるはずだ

 

2.たまねぎは串切り、にんじんは細切り、にらは5cmほどの長さにカット。さつま揚げ、豚肉はお好みで食べやすい大きさに切る。

 

f:id:exw_mesi:20200509131953j:plainアンマ:火を入れてからは、短期決戦で一気に仕上げないと野菜がしおれちゃうからね。あらかじめ材料は“入れるだけの状態”にしておくのが大事。

 

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▲野菜類とさつま揚げだけでも結構な量。にんじんを別皿にしているのは、早めに炒めるため

 

そうめんの茹で加減は標準時間の半分程度

3.鍋にたっぷりのお湯を沸かして、そうめんを茹でる。茹で時間は標準時間の半分程度。2分茹での商品なら、1分がベスト。茹で終わったら、水で冷やしてザルに上げておく。

 

f:id:exw_mesi:20200509131953j:plainアンマ:油そうめんがベタベタした感じになってしまうという人がいるんだけど、話を聞くと大抵は茹ですぎが原因なのよね。冷やすのは氷水なんか使わなくても、水道水で適当に洗っておけば大丈夫。

 

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▲たっぷりのお湯でさっと茹でる。感覚としては「これだけしか茹でなくて大丈夫?」と不安になるレベル

 

4.フライパンにサラダ油を入れ、煮干しを炒める。煮干しがパリッとしてきたら、豚肉を投入。豚肉に火が通ったら、固いにんじんなどから順番に野菜をどんどん入れていく。さつま揚げもこのタイミングで入れる。

 

f:id:exw_mesi:20200509131953j:plainアンマ:火力はちょっと強めの中火くらいかな。とにかく一気に炒めること。ここでモタモタしていたら絶対ダメだからね。

 

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▲まずは煮干しをサラダ油で炒めて……

 

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▲豚肉を投入。豚肉はこま切れじゃなくてもOKとのこと

 

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▲固い野菜から順番に入れていく

 

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▲残りの野菜とさつま揚げも一気呵成に投入。スピードが命だ

 

5.あらかじめ用意したそうめんを加え、しっかり混ぜ合わせる。火が通ったら塩と醤油で味を調え、最後にごま油をかける。

 

f:id:exw_mesi:20200509131953j:plainアンマ:ごま油を入れることで香りが出るんだけど、人によっては最初の段階からごま油を使うこともあるわね(※著者はオリーブオイルを使いました)。大事なのは火をつけてから短時間で仕上げることと、そうめんを固めに茹でること。逆に言うと、これさえ守れば絶対に失敗しない料理だと思うよ。

 

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▲ここも強めの中火のまま、事前に用意したそうめんを投入。すかさず全体を混ぜる

 

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▲最後にごま油を大さじ1杯程度。これでグッと香りが引き立つ

 

たしかに完成した油そうめんは、初めて作ったにしてはかなりおいしそう。なにも自画自賛しているわけではなく、料理の腕に自信のない私ですらこれくらいできるのだから、かなり手軽な家庭料理だということだ。

 

煮干しの香ばしい風味が口内に広がる

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▲調理時間は実質15分程度だろうか。具もたっぷりで栄養価も申し分なし

 

実際に食べてみると、いきなり煮干しの香ばしい風味が口内に広がっていく。そして野菜と豚肉のうまみが混然一体となり、ごま油で仕上げたそうめんと見事な調和を繰り広げる。さつま揚げを入れたのも大正解で、本当に箸が止まらなくなる。

正直言って、めちゃくちゃおいしい。最初は見たことのない料理に戸惑っていた子供たちも、「おいしい、おいしい!」とおかわりを連発してくれた。もう中2日ペースでのローテーション入り確定である。

 

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友人によると、奄美大島では月に1~2度は学校給食で郷土料理が出るとのこと。油そうめんは、子供たちからも大人気なのだという。

また、友人宅だと土日の昼に出すことが多かった。大人数が家に来るときも、パパッと作れて重宝するからだ。それにしても一風変わったこの油そうめん、どこから来たものなのか?

 

f:id:exw_mesi:20200509131953j:plainアンマ:う~ん、どうだろう。さかのぼれば奄美というのは琉球に支配され、薩摩に支配され、アメリカの一部になったこともあり……。諦めながら、いろんな文化を受け入れてきた人たちなのよ。だから食事に関しても、いろんな文化がチャンポンになっているんだと思う。同じく奄美の郷土料理として有名な鶏飯も、薩摩の役人をもてなすために作られたという話だしね。

 

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そんな歴史があったとは……。油そうめんの作り方は本当に家庭によってまちまちで、最初に煮干しを炒めたあと、水を加えてスープパスタ状にする場合もあるそうだ。

なお、そうめんを乾麺のうどんに変えた「油うどん」も奄美大島の地元民には愛されている。中でも肉の代わりにサバ缶を使用するパターンは、昨今のサバ缶ブームも後押しして島で大人気に。この場合も、うどんの茹で時間は短めにすることが重要だ。

 

自由度が高い料理だけに、アレンジの可能性も無限に広がりそうな油そうめん。自粛期間でも気軽に作れる家庭料理として、あなたもトライしてみてはいかが?

書いた人:小野田衛

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雑誌やネット媒体で仕事をするフリーのライター/編集者。アイドルやスポーツ、貧困問題に関する記事を作ることが多い。趣味はサウナ。特技はサウナ。オフの日の過ごし方はサウナ。

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