こんにちは、料理・食文化研究家の庭乃桃です。今回ご紹介するのは、ギリシャの定番ストリートフード、「ギロス」です。
ギロスは、スパイスなどで風味付けしてからあぶり焼きにした、ギリシャ風の焼き肉のこと。定番の豚肉や鶏肉のほか、羊肉と牛肉を混ぜたものでも作られたりします。トルコのドネルケバブに似ています。もとは串に刺した肉を回転させながら焼き上げるもので、食欲をそそるスパイスの風味とジューシーな肉に、たっぷりの野菜とまろやかでコクのあるヨーグルトのソースを添えていただくのが定番です。
肉も野菜もたっぷりといただけるギロス風の焼き肉、作り方は意外と簡単。食欲をそそるスパイスのおかげで味が決まりやすく、とてもおいしく作れます。
そこで今回は、手軽に鶏むね肉を使って作ってみましょう! 基本的な作り方は、鶏むね肉にスパイスをまぶして少し置き、フライパンで焼くだけ。鶏むね肉をやわらかジューシーに仕上げるコツもありますので、併せてご紹介します。
また、ギロスと相性バッチリのヨーグルトソース(ザジキ、またはジャジキ)の作り方もご紹介。こちらもパパッと作れるので、ぜひ一緒に試してみてください。
ジューシーに焼けたスパイシーな鶏むね肉と、こっくりしたヨーグルトソースがからみ合うギロスは、一度食べたらやみつきになるおいしさです!
鶏むね肉のギロス(ギリシャ風焼き肉)
材料(1~2人分)
- 鶏むね肉 1枚(250g)
- 玉ねぎ 1/4個(50g)
- オリーブオイル 大さじ1
- チリパウダー 小さじ1
- 塩 小さじ1/2強(2.5g ※肉の重量の1%)
- ブラックペッパー 少々
- オリーブオイル(追加用) 大さじ1/2
- チリパウダー(追加用) お好みで
今回の鍵となるのは、こちらのチリパウダーというスパイスです。
チリパウダーは、赤唐辛子、クミン、オレガノ、ガーリックなど、数種類の香辛料を混ぜ合わせた便利なミックススパイスです。
本来ギロスは、クミン、オレガノ、タイム、カイエンヌペッパー、マジョラムなどさまざまなスパイスを使って風味付けされます。その中の多くが入っているこのチリパウダーがあれば、本格的な味わいのギロスを手軽に楽しむことができますよ。
また、チリパウダーは香り立つスパイスの風味の中にほんのりとした辛みがあります。揚げ物や焼き物、スープなどはもちろん、和食の納豆や焼き油揚げなど、パパッとひと振りするだけで、塩こしょうや七味唐辛子とはまた違った風味を楽しめます。
スパイシーさはもちろん、赤い色味もきれいなので、スーパーでも手軽に買えて使い勝手がよく、何かと便利なスパイスです。
作り方① 鶏むね肉に下味を付ける
それでは、そんなチリパウダーを使って、早速鶏むね肉に下味を付けていきましょう!
1. 漬けだれを作ります。玉ねぎ1/4個をみじん切りにしておきます。
玉ねぎにはタンパク質を分解する酵素が含まれているため、加えることで鶏むね肉がやわらかくなり、パサパサ感が低減され、ジューシーな口あたりになります。また、玉ねぎは加熱することで甘みが増し、その味もプラスされて味に奥行きが生まれます。ぜひ入れてみてくださいね。
2. 丈夫な食品用のビニール袋に、オリーブオイル、チリパウダー、塩、ブラックペッパーを入れて先になじませておきます。
こうして調味料とスパイスだけ先にしっかり混ぜ合わせておくと、チリパウダーの粉っぽさもなくなり、鶏むね肉全体にムラなく味が行き渡ります。
できたら、先ほどみじん切りにした玉ねぎも入れてさらになじませましょう。
3. 鶏むね肉を食べやすく切って、漬けだれと合わせていきます。
鶏むね肉は皮をはずし、黄色い脂身や血などがあれば取り除いて細長くそぎ切りにします。ちなみに、こうして鶏むね肉の断面を大きく切ることで、そのぶん味の付く範囲も広くなるため、漬けだれの染み込みもよくなります。また少し細長い形に切ることで、食べるときにもつまみやすくなります。
そぎ切りにした鶏むね肉は、先ほどの漬けだれの袋へ。
袋の上からモミモミして、全体に味が行き渡るようによくなじませます。
できたら袋の空気を抜いて、そのまま室温に15分ほど置いておきましょう。この間に、冷蔵庫から出したてで冷たかった鶏むね肉も室温近くまで戻り、焼きやすくなります。
(※ビニール袋を使わず調味料をボウルの中などで合わせた場合は、上からラップをかけて漬けだれに鶏むね肉を密着させ、同様に15分置いてください。)
作り方② 鶏むね肉をやわらかく焼くコツ
1. 漬けだれの染み込んだ鶏むね肉を焼いていきます。
まずは冷たいままのフライパンに、先ほどの袋の中身を漬けだれごと入れます。
2. 鶏むね肉同士がなるべく重ならないように広げたら、ここで初めて点火。まずは中火で焼き始めましょう。
脂肪分の少ない鶏むね肉は火の通りが早く、いきなりアツアツのフライパンで加熱すると、肉質がパサついてしまいます。急激な温度変化を避けて、冷たいフライパンから火にかけることでじわじわと鶏むね肉に火が通り、硬くなりにくく、ジューシーに焼き上がります。落ち着いて作業もできるし、一石二鳥ですね!
3. 鶏むね肉からジュワジュワと音がしてきたら、そのままあまり動かさずに中火で3分ほど焼きます。そして、焼いている面がしっかり白くなったらひっくり返しましょう。
4. すべての鶏むね肉をひっくり返したら、一度火を弱めます。こちらの面は、弱火でたれをよくからめるようにしながら2~3分、じっくり焼いていきます。
ちなみにこのとき、オリーブオイル大さじ1/2ほどをまわしかけると、全体がしっとりするだけでなく玉ねぎも揚げ焼き状態になっておいしくなります。お好みでお試しください。
5. 全体にだいたい火が通ってきたら、最後はまた火を強めて中火に。たれをからめながら1分ほど、鶏むね肉の表面に軽く焼き色が付いたらできあがりです。
鶏むね肉は、強火で焼いてしまうとあっという間に硬くなってしまうため、基本的には終始中火より強くしないようにしながら焼いていきます。片面を焼き固める→ひっくり返して弱火でじわじわ火を通す→最後に火を強めて香ばしさをプラスといったイメージで、メリハリをつけて焼くのがポイントです。
おいしさがさらにアップするザジキ(ギリシャ風ヨーグルトソース)
さて、鶏むね肉が焼けたら、ギロスに定番のザジキというヨーグルトソースを作ってみましょう。もちろん、鶏むね肉を漬け込んでいる間に作業をしてもOKです。
とても簡単に作れますが、こっくり濃厚で味わい深く、これがあればギロスが格段においしくいただけますよ。
【ザジキ(ギリシャ風ヨーグルトソース)】
材料(1~2人分)
- 無糖ヨーグルト 1/2カップ(大さじ6)
- きゅうり 1/2本
- 塩 ふたつまみ
- にんにく 1/2片
材料は、これだけ。
きゅうりが入っているのが少し不思議な感じがしますが、シャキシャキした食感が楽しく、またおろしにんにくと塩のうま味がしっかり効いていて、まろやかで濃厚な味わいです。
作り方は、とても簡単。
さいの目切りにしたきゅうりに塩をまぶして10分置き、キッチンペーパーで水気をしっかりとしぼります。にんにくはすりおろしておきます。
無糖ヨーグルトは、ざるにキッチンペーパーを重ねた上に置き、こちらも10分ほど置いて余分な水分を切っておきます。
水切りした無糖ヨーグルトに、きゅうり、おろしにんにくを混ぜ入れ、お好みで塩少々(分量外)で味を調えればできあがり。
それではいよいよ、ザジキも添えて、一緒にギロスをいただいてみましょう!
お好みのサラダ野菜(分量外)と、ザジキを添えて。
ギリシャでは、こんな風に生野菜などを添えて一緒に食べるのが定番です。もちろん、ザジキも欠かせません。
さらに、忘れちゃいけないのがこのあとがけのチリパウダー。鮮烈でスパイシーな香りがいっそう食欲をそそりますね!
ギロスに焼き汁もたっぷりかけて、ザジキをからめて一緒にいただきます。
ひと口食べると、やわらかくジューシーな鶏むね肉、スパイスの香りが口いっぱいに広がり、鼻に抜けていきます! ギロスだけでも十分においしいですが、こっくり濃厚、まろやかさのあるザジキが加わると、肉の味わいとヨーグルトソースの酸味やコクが複雑にからみ合ってさらにおいしさ増し増しです。
淡泊であっさりした鶏むね肉ですが、その良質な肉のうま味をチリパウダーが上手に引き立ててくれています。かみしめるほどにおいしい、そんなひと皿です。
チリパウダーのほんのりした辛みと香り高いスパイスの風味があとを引きますね。ぜひこれは、たっぷりあとがけしていただきたいです!
パンにはさんで食べてもおいしい
スパイシーな香りとしっかりしたうま味で意外とご飯にもよく合うギロスですが、やはりパンとの相性は最高。ギリシャでも、ギロピタ(ピタ・ギロス)といって、ピタパンにギロスと野菜を一緒にはさんで食べられることも多いんです。
ピタパンが手に入りにくい場合は、軽く焼いた食パンにはさんだり、ラップサンドやオープンサンドにしたりして食べるのもおすすめ。
いずれの場合も、ザジキを添えたり、チリパウダーをたっぷりあとがけしたりすると、おいしさがアップするのでぜひ試してみてくださいね。
まとめ
ギリシャ風焼き肉・ギロスの味わいを簡単に再現できるチリパウダーは、複雑に混ざり合った香辛料のうま味がしっかり感じられるとても便利なミックススパイスです。
食欲をそそる赤い色とスパイシーな香りがいつもの焼き肉をとびきりおいしくしてくれます。特に鶏むね肉で作るギロスなら、あっさりした中にもうま味があり、食べ応えもしっかり。ぜひ皆さんも、一度味わってみてください!
書いた人:庭乃桃
料理・食文化研究家、女子栄養大学 食生活指導士。「おいしい」を取り巻くさまざまな食卓の風景に目を向けながら、企業向けレシピの開発や、執筆、講演など多方面で活動中。著書『おいしく世界史』(柏書房、2017年)。