こんにちは。
『メシ通』ライターの鷲谷と申します。
さっそくですが、けっこう前に話題になったツイート、ノザキのコンビーフ公式アカウントによる「#自社製品を自虐してみた」のアレです。
このツイートを見たとき、笑っちゃうと同時に思ったのは、ひょっとして僕はコンビーフのことをあんまり知らないのではないか、ということでした。
コンビーフってどういうものか、どう食べたらおいしいのか、そんなことさえ誰かに説明することができない。
みなさんはどうですか。
コンビーフってそもそもなんて言ったらいいんでしょう?
「ノザキ」はブランド名
ノザキのコンビーフを扱う川商フーズ株式会社に聞きに行きました。
「ノザキのコンビーフ」の「ノザキ」はブランド名で、販売しているのは「川商フーズ」なのです。
ほら、こんなことさえ知らなかったのです。
対応してくれたのは、食品流通部 常温食品グループの谷口さんと関口さん、部長の周さんも解説しにきてくれました。
こちらは谷口さんです。
コンビーフって、そもそもなんですか?
コンビーフは英語で「CORNED BEEF」。
CORNEDは「塩漬けした」という意味なので「塩漬けした牛肉」とのことです。
1948年、当時の野崎産業が発売したものが日本で最初と言われています。
あの台形の缶は1950年の発売。その前の2年間はアンカー瓶というガラスの瓶で売られていました。
谷口:「コーン」と聞くととうもろこしをイメージする人が多いみたいですね。
関口:あと、混ざったものを「コン(混)」というので、混ぜ物がある肉だから「混ビーフ」っていうんじゃないかと思っている人もいるみたいですね。「コンビーフ」という名称は牛肉100%のものだけです。馬肉と牛肉を混ぜたものもあって、それは「ニューコンミート」という商品になります。
周部長:理論上はコンビーフは自分の家でも作れるんです。この間の三連休も、肉を塩漬けして2日間置いて、圧力鍋で蒸して、作りましたよ。コンビーフはもともと、イギリス海軍が保存食として作ったんです。いまの台形の缶って枕缶(まくらかん)というんですけど、1875年にアメリカのリビーという会社が特許を取ったもの。その前は丸缶とかあったかもしれないですけど、記録が残っていないんですね。
──缶詰はあったけど缶切りがまだ一般的ではなかった時代に、あの独特の開け方が必要だったわけですね。
自分の家で自作するほどのコンビーフのベテラン、周部長からの濃密なコンビーフ解説をリスト的にご紹介します。
これがけっこうな日本戦後史だったんですよ。
コンビーフの戦後史
- 昔の日本では、コンビーフはお金持ちが海外からお土産で買ってきたものとか、そういうふうな形でしかなかったと聞いているんですけど、進駐軍が来てからは払下げがあったんですね。
- 戦争当時、缶詰は軍事物資です。政府は統制のために法律を整備して、いくつかあった缶詰の会社をまとめて、たとえば山形合同食品というように「合同食品」という名前で一県一社にしちゃった。
- 昔の野崎産業は中堅商社で、缶詰や革靴などの軍事物資をやっておりました。
▲世界中で売られている「ゲイシャ」ブランドの缶詰は野崎産業が1911年に始めたもの
- 戦後の食糧難の中で、偉い人から「コンビーフのような栄養価の高いものを日本でも作れないか」と野崎産業に話が来たらしいんです。政府との付き合いもあったので。
- 昔は東北の方には農耕牛も多くいて、年取ったら肉にするということは普通に行われていたので、製造工場の先代の会長から「山形の工場で試作しましょう」と、引き受けていただいたということなんですね。
▲ゲイシャブランド、おしゃれでたまらない
- とはいえ容器がなかったので、最初はつぼに詰めたんです。木かなんかでフタをしたらしいんですけど、とてもじゃないけどつぼが重たくて、それは諦めて。
- いまは機械で充填(じゅうてん)できるんですけど、当時の場合は手で詰めるので、片側がすぼまっていない筒状の容器だと底の角に空気が残っちゃうんですね。
- 空気が残ると肉が酸化して色と風味が若干変わってしまう。菌は殺菌してるんで問題ないんですけど、風味が落ちる。
- つぼがダメだったんで、アンカー瓶を1948年にとりあえず発売したと。
▲アンカー瓶の資料。ガラス製だったのね
- アンカー瓶は底がすぼまっているんですが、ガラス瓶なんで、製造も大変だし、割れたりもする。フタも1個ずつして、殺菌もしてと、すごく苦労してたという話なんです。
- 値段も高いし、こんなの売れるのかという社内の声もあったらしいんですけど、出してみたら意外に売れたという(笑)。すんなりと。
- これは私の推察も入ってきちゃうんですけど、進駐軍の払下げ品のなかにはコンビーフがけっこうあったので、日本人の舌にもすでに多少はなじみがあったのかと。
- もうひとつは、海外で捕虜になった日本軍の兵隊が収容所でコンビーフを食べて、慣れていたと。
- だから発売しても「これは一体なんなんじゃ?」とならず、意外と受け入れられたんじゃないかと。
▲川商フーズがマレーシアで展開しているブランド「金杯牌」もナウいデザイン
- 最初は鉄が入手できなかったのですが、発売2年後の1950年にやっと鉄の200グラム缶を売り出すことができました。これはいまの缶の2倍の量ですね。
- 当時は食糧難で、お金もそんなにないはずなんですけど、意外と売れていたといいます。実はお金を持っている人もいっぱいいたってことなんでしょうね。
- そのあとで他のメーカーからもコンビーフが売り出されるようになったというのが、日本のコンビーフの歴史なのです。
どうですか、コンビーフから見る日本戦後史。
飢える国民のためになんとか栄養価の高い食べ物を、という高い志があったんですね。
コンビーフに似た「ニューコンミート」とは
当時、牛肉には関税枠があって、自由に輸入できなかったんです。(※1991年になって初めて、GATT[関税・貿易に関する一般協定]ウルグアイ・ラウンドにおいて決定していた米国産の牛肉とオレンジの輸入自由化が開始された)いまの「ニューコンミート」、昔はニューコンビーフといったんですけど、牛肉はどうしても高いんで、似たような味でおいしいものを、もっと安く作れないものかということで。当時は安かった馬肉の赤身を使って。風味はぜんぜん違わないんですよ。目隠しして食べたらどっちが「ニューコンミート」でどっちがコンビーフかわからないくらい。日本が高度成長期に入って、いろんな肉が生でも買えるようになってきたんですけど、根強いファンがついていて。それで我々も今日まで仕事をさせていただいているというわけなんですけど。簡単にいうと、そういう歴史があるんです。
海外では馬肉を混ぜる必要がないほど牛肉が安くて豊富にある。「ニューコンミート」は日本独特の文化から生じた、ユニークなものだと思ってるんです。手頃な価格で、同じおいしさで提供するということで作られたのが「ニューコンミート」なんです。2005年のJAS法改正で「ニューコンビーフ」から「ニューコンミート」に名前が変わりました。「ビーフ」という言葉は牛肉100%じゃないと使えないんです。いまは馬肉と牛肉の値差が昔ほど大きくないので、無理して価格差をつけて「ニューコンミート」を安く売っています(笑)。
生でも食べられるのか
ある世代以上の人は、傷だらけの探偵が缶のまま食べているところを見ているので、そのまま食べられることを知っているのですが、現在はそのような問い合わせはあるのでしょうか。
そのままでも食べられるのですか、という問い合わせは実際に多いです。高温高圧で加熱処理済の商品ですので、生ではないです(笑)。もちろん開けたらそのまま召し上がれます。
──でも温めたほうがおいしいですよね。脂肪がとけて。
特に冬などは、固くなったりほぐれにくくなってたり、油っこかったりもするので、ちょっと温めていただいたほうが「できあがりのコンビーフ」の状態に近いということで。温めて食べることをおすすめしてはおります。お好みなんですけど。固まっているのが好きという方もいらっしゃいます。
──ちなみに僕が食べて一番おいしかったのは、キャンプに行って、飯ごうで炊いたご飯の上に、昼にパチンコの景品でもらったコンビーフを飯ごうのふたで温めたものを乗っけて食べたやつです。
………はい。
この缶である理由
充填しやすいというよりは、昔、缶にふたをする時、この形のほうが空気が抜けていくからですね。保存性の観点からこの台形になっています。いまは空気を抜く技術があるので、正直、台形じゃなくても保存性のいいものを作ることはできるんですけども、お客様が台形のイメージを大事にされているのでこの形のままにさせてもらっています。
──たとえばランチョンミートの缶で流用できそうだけど、あえてやらないという判断なんですね。
プラスチックのカップもある
プラカップは最近始めたものなんですが。ちょっと食べて、またふたして冷蔵庫に入れておくという使い方もできますし、軽かったり、開けるのが簡単だったりという。
若い方で、開け方が本当にわからないという方もおられるんで。開けづらいという声に対応する形で2016年に発売を開始しました。
グラム数も少なめで、缶に較べてお買い求めやすくなっているんです。
たしかに、一度で使い切らないときもあるので、この容器はありがたい。
単身者におすすめです。
開け方がわからないという問い合わせ
ツイッターでも電話でもありますね。お電話でいただいた場合は開け方を解説した紙を郵送するという形で対応しているんですが、ネット上の場合は開け方動画をご案内するようにしております。
コンビーフ情報に関しては、ツイッターのトップに固定されているモーメントが便利でした。
「巻取りの途中で切れちゃう問題」
缶の底を缶切りで開けることもできるけど、手を切ってしまうこともあるのでおすすめできないんです。丁寧にゆっくり開けると切れることはほぼないので、そのような開け方をお知らせしていけたらいいなと思っております。
種類はどんなのがあるの?
無塩せきコンビーフ
赤い色を定着させる亜硝酸ナトリウムという発色剤があるんですけど、それを使っていないものです。通常のコンビーフは赤っぽいんですけど、これは肉が茶色くなっています。
熟成コンビーフ
通常は肉を48時間熟成させるところを3日間(72時間)の熟成になっておりまして、なおかつ熟成に天日塩と11種類のハーブを使用していて、ミネラルが豊富で風味もよい、普通のコンビーフよりもしっとりしていて味わいもまろやかでおいしい、といううたい文句になっています。
山形県産牛コンビーフ
通常はオーストラリアやニュージーランドの牛肉を使っているんですが、工場のある山形県産の牛肉を使っているグレードの高いコンビーフです。
レトルトカレー
コンビーフと、肉を蒸煮するときに捨ててしまっていた蒸煮液(煮汁のようなもの)を使って作られています。食べるとおいしいと思っていただけるはずですよ。
──いわゆる肉汁と呼ばれるものが使われているんですよね。それはおいしいはず。
プレーンと中辛の2種類があって。
──わははは! プレーンってなんですか。
もともと辛さの設定がなかったんです。プレーンは普通、中辛はちょっと辛い、という。なぜこういうラインアップになったかはわからないんですけど……。
ご飯にめちゃいける和風コンビーフ
珍しく、丸い缶に入っています。
パカっと開けられるイージーオープン缶。
甘めのしょうが醤油で味付けされたコンビーフで、ほかほか白飯にのっけると猛烈にワシワシ進みました。
こりゃいいですよ!
メーカーが隠しているとっておきのレシピはあるのか
けっこう隠さずにTwitterなんかに出しちゃうみたいなんで。
──あら、隠してるものはもうないんですか。
あんまり、ないんですけども。こういうレシピ本をこっそり出しておりまして、これで絞りきっちゃったかなと。
本当に社員に聞いて出てきたマジなレシピが73種も収録されています。
関口さんが新入社員だったときに、まだ面識のない先輩社員からレシピをかき集めたという労作です。
いくつかサンプル写真を出しますが、ページをめくるたび、どれも「あーこりゃ間違いないわ」と得も言われぬ感じになり、どうにも食べてみたくなりました。
▲コンビーフのユッケ風
▲コンビーフと大根の煮物
▲コンビーフ2色丼
▲コンビーフ茶碗蒸し
▲しいたけのコンビーフ詰め
※以上、料理の写真はすべて『社員が本当におすすめする ノザキのコンビーフレシピ』(文芸社)より引用
あと、燻製なんか……どうですか。
──それは、作り方としては普通にかたまりドーン、煙モクモクーですか。
そうです、台形そのまま。これ、私が作ったものなんですけど。
そういうと関口さんはスマホの画面を見せてくれました。
──なんだこりゃ、なによりうまそうだし、インスタ映えバキバキ方面じゃないですかー!
あと賛否両論あるんですけど、私はケチャップとホワジャオ(花椒)と一緒に食べるのが好きです。ちょっと温めたコンビーフをちょんちょんってつけて食べるのがおいしいと思います(笑)。これでお酒を飲む…… おいしいと思います。
ということで、僕も家でやってみました。
ピリ辛というか、花椒のさわやかにシビれる「麻」と、甘みもあるケチャップにより、エビチリ的な中華方面のうまみです。
よく知ってるおなじみのメニューに使ってもうまいんス。
たとえばこちら↓の無限ピーマン。
コンビーフは肉自体の味が強いし、材料としてはチンジャオロースと同じになりますし、必ずおいしくなる計算です。
例の自虐ツイートについて
ツイッター担当者は年齢性別すべて不詳となっております。
大変な話題となった自虐ツイートについて、メールでお話をうかがいました。
自虐PRがはやっているとテレビで見て、電車の中で考えて、会社来てさっと画像を作りました。
──僕がうなったのは「肉よりも高い」というコピ—です。たしかにその通りだと。でも保存食なんで、材料よりも高価なのは当たり前ですね。それと「初見殺し」のワードから担当の方はゲーマーだなと思いましたけど、ゲームはなさいますか。
ゲームはします。これに関してはTwitterでもけっこう言われました。別の部署の人からは「ピアノやってたの?」って聞かれました。「『初見で弾く』って言いますから、音楽やってたのかな」って。でも私はゲーマーっぽい言葉だと思わず、普通に使っちゃいました(笑)。
──パッケージから得られる情報が少ないというのは、ツイッター担当者としての素直な嘆きなのかしらと思いましたが。
パッケージがわかりにくいとは、私個人もずっと思っていたところです。いまどき商品写真が載っていないパッケージだし、何味かもわからない。塩味なのか醤油味なのか……。原材料のところをしっかり読むとわかるんですけど。コンビーフとオイルサーディンはホント、謎の食べ物です(笑)。
──反響になってからはなにか変わりましたか。
こんなに話題になるとは思っていなくて。よくて1,000RTくらいかなと思って、けっこう攻めたコピーにしちゃったんですけど、こんなに大ごとになって大丈夫かなって(笑)。まったく想定はしていなかったです。まさかの出来事でした。でも、これをきっかけにノザキのコンビーフやSNSアカウントを知ってくださった方が大勢いて、よかったなと思ってます。アカウントが有名になって、緊張するようになりましたね。「私は見られているのだ」という意識が生まれました(笑)。
コンビーフへの理解が深まった
コンビーフは塩漬けした牛肉を高温で蒸してほぐして作られます。
食べ方としては、ツナ缶のようにも、ランチョンミートのようにも、ひき肉の代わりとしても使えます。
そう考えるとすんげー便利。
もともとが軍用の保存食(3年間保存できる)であり、缶切りも不要で、そのまま食べることもできる。
ノザキのコンビーフが提唱しているように、防災用の備蓄食料としてもポテンシャル高いアイテムです。
いや、そんな緊急事態じゃなくても、夜中の小腹やオカズがないときの掘り出し具材としてもかなりイケるので、ストッカーにちょっと置いておきたくなります。
事実、置いております。みなさんも防災袋に入れておくといいです。
頼りになる缶詰だなーと思ったものでした。
▲パンと一緒に焼いてただ挟んで食べるだけでもいい
ノザキのコンビーフHP
ノザキのコンビーフtwitter
※この記事は2017年10月の情報です。