実家の田んぼで「稲刈り」をしたら、お米へのありがたみが増し新米がよりおいしくなった話

秋田の実家に帰省し、稲刈りをしてきました。稲刈りしたての新米はやはりおいしく、またコンバインで実際に稲刈り作業をしてみると、その味もひときわおいしく感じられます。今回は、そんな稲刈り体験についてのリポートです。

どう? 頭(こうべ)、垂れてる?

実家が農家なので稲刈りを手伝ってきました。

爽やかに晴れた秋の空の下、バッタとトンボにまみれて稲刈りを体験したらお米へのありがたみが一気に増してしまい、ただでさえおいしい新米がますますおいしいというありさまです。

 

稲作の作業ってたくさんあるんですよ。田植えはアニメ作品などでも描写されることが多くて、皆さんもおおまかな様子をイメージできると思うんですけど、じゃあ稲刈りってどんなふうにするかご存じですか。

 

※ 撮影者はマスクを着用しております。屋外で十分な距離をとり、新型コロナウイルス感染症に配慮して撮影しています

 

「稲刈り」。

コンバインという機械で刈り取る風景を想像すると思います。

日本の農家で一般的に使われているのは「自脱型コンバイン」というタイプ。稲を刈り取りながら脱穀もするマシンです。脱穀というのは穀物の実の部分を取り出すことですね。

 

コンバイン1台で「稲刈り」「脱穀」、あと「わらを捨てる」という3つの仕事が完結するのです。

便利なマシンですけど、言うてもそこまで万能でもなく、コンバインの能力を十全に機能させるためには人間が環境を整えてあげる必要があります。

 

人間が先に鎌で刈り取って旋回スペースを空けておく

稲刈りは、コンバインに乗って四角い田んぼの外側から蚊取り線香みたいにグルグルと回り込んでいくんです。

田んぼが四角いということは、角っこを90度で曲がらないといけません。

 

稲が生えていると角っこに旋回するスペースがないので、コンバインが向きを変える時にせっかく実った稲を踏み潰してしまうことになります。これはもったいない。そこで、あらかじめ人間が鎌で刈り取って旋回する隙間を空けておくのです。

 

 

田んぼが乾いてないとコンバインが入れない

コンバインの足回りはクローラーです。いわゆるキャタピラー(caterpillar:英語でイモムシ、毛虫の意味)ですね。

泥の田んぼなどの不整地で動き回れる優れた足回りですが、泥がぬかるんでいるとクローラーそのものが埋まって動けなくなってしまうこともあります。

 

コンバインで作業するためには、田んぼがこれくらい乾いている必要があるわけです。つまり、稲刈りの前には水を抜いておき、しかも晴れの日が何日か続かないといけないということ。

 

というふうに、人間がちょっと手を貸す必要があるんです。いやはや、全自動化はまだまだ先の話ですね。

 

コンバインを操縦するには2本のレバーを知っておくだけでいい

私の実家で使っているコンバインの場合は、左側にあるフェーダーと呼ばれるレバーと、写真には写っていませんが右側にある十字レバーで操作します。

左のフェーダーは前後移動。

右の十字レバーの左右で進行方向を操作します。

レバーを右か左にフルで倒すと信地旋回(その場でギュルギュル回る)も可能です。

 

そして十字レバーの前後は刈り取りユニットの上下操作になります。田んぼの端っこで曲がる時にはレバーを上げておいて、稲を間違って刈り取らないようにするんですね。

 

刈り進む時はレバーを下げて、田んぼに残る切り株をなるべく短くするようにします。5cmくらい残せばいいのかな。

 

 

刈り取りをする刃はバリカンの原理

稲を刈り取る刃はこんな感じ。三角のノコ刃がたくさん並んでいます。サメの歯みたいでしょ。

 

刃は2枚重なっていて、下の刃が左右に動くようになっていますね。バリカンの刃と同じ原理です。

 

刈り取った稲を運ぶ単純で確実な機構

刈り取った稲はコンバイン後部に運ばれます。

白いツメみたいなパーツで稲の束をガッとつかんで、自転車のチェーンを大きくしたようなチェーンベルトが稲をモスモスと持ち上げていきます。

 

バサバサだった稲をきれいに並べながら送り込んでいく機構。一つ一つは単純な構造なのに確実な仕事。技術の成熟を感じますな。

もみの部分はこの脱穀刃でゴリゴリとこすり取られて下のタンクに収まります。

 

 

お米はタンクにためられる

グレンタンク式のコンバインの場合、もみはタンクにたまります。グレンはウイスキーでいうグレーン(grain)で、穀物の意味ですー。

 

昔は30kg袋にもみを詰めていくタイプのコンバインが多かったんです。

30kgの米袋が満杯になるたびにトラックまで運ばなくてはいけないので、まあまあ腰をやっちまったものでした。

 

グレンタンク式は、ほらこのようにタンクがいっぱいになると警告ランプと音で知らせてくれるハイテクな仕掛け。

満杯になる直前のタイミングでトラックに向かい、コンバインからパイプを伸ばしてトラックに移すだけです。「重い米袋を手で運ばなくていい」。これは革命でした。

 

グワー。

 

ドバー。けっこうな勢いでもみが飛び出してくるので、近くにいるとホコリっぽくてむせます。

 

わらの部分は自動で切り刻んで捨ててくれる

稲からもみの部分をコキ外し、残ったわらの部分は裁断してバサバサと吐き捨てていきます。

このわらは翌年の春、トラクターで耕す時に土に巻き込まれて次回の栄養となるシステムになっております。

 

 

最後の一条を刈り取る時の達成感

稲刈りはロールケーキを外側から巻き取って食べるみたいな感じで進みます。

 

最後、田んぼの真ん中に残った一条の稲をワシワシと刈っていく達成感と爽快感はたまりません。

 

ドットをパクパク食べていくテレビゲーム、ありますよね。あれあれ。ああいう気持ち良さがあるんです。

 

稲刈り完了ー。サイコーの気持ちー。

 

カントリーエレベーターってご存じですか

さて、収穫したお米はどうなるのか。

この企画を話した時、担当編集者は「刈ったばかりの新米、おいしいんでしょうね。食べた感想もお願いします!」と前のめりに言ってきたのですが、すぐには食べられません。

お米を乾燥させないとイカンのです。

水分が多いと、お米はすぐにカビてしまいます。長期保存のためには乾燥が必要なのです。それに乾燥が不十分だと「もみ摺り」のときに米が砕けたり、もみ殻が取れなかったりして歩留まりが悪くなります。

乾燥の過程で追熟が進んでおいしくなるって噂もありますが、それは長時間の天日干しで乾燥させる小規模生産の場合なので、今回は割愛します。

 

それに、通常はお米の収穫から流通まで1カ月くらいかかります。カントリーエレベーターに納めるからです。

地方に行くとありますよね。円筒形の大きなサイロがくっついてる、よくわかんねえ施設。

 

これがカントリーエレベーター。農家が共同で利用する大型倉庫です。

穀物の乾燥、貯蔵から出荷までできちゃう巨大施設なんですよ。ここにお米を納めてからスーパーとかに出回るまで流れは以下の通りです。

 

  1. 持ち込み:農家が刈り取ったもみをカントリーエレベーターに持ち込む。
  2. 計量:もみの重さを量って買い取り価格が決まる。
  3. 乾燥:複数の農家から持ち込まれたもみを全部ガーッとまとめて、大型の強力な乾燥機で乾燥させる。水分量15%くらいまで乾燥させるとのこと。
  4. 貯蔵:乾燥したもみは大型サイロで温度管理して貯蔵。1年通して安定して出荷するために貯蔵しておくってわけ。
  5. もみ摺り:注文が来たぶん、もみ摺り機でもみ殻を取って玄米にして出荷。
  6. 出荷:玄米のまま売るか、白米に精米するかは、業者次第というかニーズ次第。

 

こんなふうにして、玄米や白米が袋に小分けされてスーパーなどの小売りに回っていくわけです。

「どこどこ産の銘柄米」がまとまった量で(安価に)流通できるのはこのシステムがあるからです。ただし、自前の乾燥機を持っている農家や法人の場合はこの限りではありません。気の利いたレストランなどで「契約農家のお米です」とうたっているものは、独自の流通システムで動いているんです。

 

だからカントリーエレベーターに納めた場合、農家は自分の家のお米を食べられるわけじゃないんですね。たくさんの農家のお米が混ざった状態になるんです。

どうしても「自分の家のお米」を食べたかったら、自前の乾燥機ともみ摺り機と低温貯蔵庫が必要になるってわけです。

 

新米がおいしいのは、モチモチ食感と強めの香りがあるから

稲刈りについての認識をあらためた後は、ご飯のおいしさをわかっていただかないといけません。

新米の特徴はモチモチの食感と香り。

 

こんなふうに実り、頭(こうべ)を垂れる稲穂かな。

 

これを乾燥させて、もみ殻を取って、精米したものがこちら。

ピカピカの新米です。フレッシュで透明感ヤバいですね。

 

炊きたての新米に、好きなご飯のお供をのせていただきます。

水分量が多めなので、古米よりもモチモチした食感。かむごとに口中に満ちる香りもいつもより強めです。モチッとした食感により、お米の持つ甘さも伝わりやすいのか、甘みを強めに感じます。うはー。うめー。

これはあきたこまちの場合なので、皆さんも好きな銘柄の新米を急いで買って炊いて食うといいと思います。

 

「台風の日に田んぼを見に行く」と事故が起こる理由

さて皆さん。

台風や大雨の時に、よく事故として報道される「田んぼの水を見に行く」行為の理由なんですけど、「排水しないとお米が全滅→農家の年収が消えるから」なんです。

「見に行く」ってのは、ただウォッチしているのではありません。「ナースが入院患者をみる」の「みる」というか、「観察して、必要があれば介入する」の「みる」なのです。

 

大量の水が田んぼに流れ込むと排水が追いつかなくなります。稲が水に浸かってしまうと根が腐ったり葉が枯れたりして、収穫できなくなります。

 

想像してください。その年の年収がゼロになっちゃうピンチを。

 

そこで農家は、田んぼの排水を進めるために排水用の管に詰まった泥や草を取り除いたり、場合によっては畦(あぜ)を切って排水溝を増やしたりする作業をします。

上の写真はその作業のポーズをとったものですが、大雨の際はこの水路の上端まで水が来ていたりします。荒れ狂う水流に腰まで浸かって作業をするので、危険なんですね。

そういうことなんです。

 

稲刈りを経験したら、新米がおいしくなり、秋が待ち遠しくなる

稲刈りを経験したら、新米をありがたく感じて、いつもよりおいしくなりました。この感情を知ると、秋が待ち遠しくなるはずです。

来年のスケジュールに「稲刈り体験」を入れてみてはいかがでしょうか。

 

アカトンボが飛び交い、大量のバッタがザワザワと音を立てて逃げていきます。

強い乗り物を運転し、高いとこから広い広い秋の景色を眺めつつ、エンジンの音もごうごうと進んでいくと、なんだか偉くなった気がします。

 

青い空と黄金色の稲穂。その間でボーッとしつつも、手先だけは集中してレッツ・コンバイン。いい体験でした。

 

 

稲作地帯の秋の夕日もきれいでしょ。

 

書いた人:鷲谷憲樹

鷲谷憲樹

フリー編集者。ライフハック系の書籍編集、専門学校講師、映像作品のレビュアー、社団法人系の広報誌デザイン、カードゲーム「中二病ポーカー」エバンジェリストなど落ち着かない経歴を持つ器用貧乏。

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