「名久井さん、透明なイカって食べたことあります?」
ある日、メシ通担当編集者のムナカタさんからこう聞かれた。
……透明なイカ?
最初、この質問の意味がわからなかった。なぜなら東京出身の筆者にとって“イカといえば白色”だからである。なので、てっきり特殊で透き通ったイカが存在するのかと思った。
しかしよくよく聞いてみると、透明なイカ=鮮度の高いイカらしい。中でも九州の佐賀県・呼子が透明なイカを食べられる港町として有名らしい(実はムナカタさんは九州男児)。筆者も鮮度抜群の透明なイカを食べてみたい。でも呼子は遠すぎる……。
「都内でも透明なイカを食べられるらしいので、行ってみましょうか?」とムナカタさん。
え、まじっすか。食べてみたい!
いけすには生きたイカが
ということで、やってきたのはJR新宿駅から徒歩5分の「イカセンター新宿総本店」。
新宿以外にも、渋谷や上野などに多店舗展開している飲食店である。このビル(写真下)の4階で透明なイカが食べられるそうだが、外観はいたって普通の雑居ビル。
本当に透明なイカがここで食べられるのだろうか?
「いかセンター新宿総本店」の文字。たしかにお店はあるようだ。
店内入口のドア。
おそるおそる扉を開けてみると……
え……?
………!!
生簀(いけす)!!
店内中央に、どーんっと生簀が置かれているではないか!
覗くと大量のイカが。イカって、上下にすばやく動くのか。
そしてお隣の生簀には、ウツボがいた。若干、水族館に来たかのような感覚も味わえる。
ちなみにビル4階の「イカセンター新宿総本店」は生簀を囲むように、掘りごたつやテーブル席、個室が配置されていて禁煙。
同ビル5階にも新宿店の店舗があるが、こちらは座席のみで生簀はなく、喫煙可である。
イカは自分で釣るか、店員に任せるか
では、さっそく透明なイカ(活イカ)を食べてみることに。
注文方法は、2通り。生簀から客自らイカを釣り上げるか、またはスタッフさんに獲ってもらうかだ。
釣りにはお金がかからないため、多くのお客さんが体験するという。しかし注意点として、イカは墨も潮も吹くということ。服が濡れたり汚れたりするのを防止するために、体験者はレインコートを着用しなくてはならない。ちなみに、座席まで墨が飛んでくることもあり、釣りをしていなくても被害に遭う可能性があるのだとか。
なかなかデンジャラスなお店である。(※万が一、墨がかかってしまったら何かサービスしてくれるらしい)
スタッフさんが獲る場合は、狙いを定めると、ほんの一瞬で手づかみ。さすがプロだ。こうして生簀から獲れたてほやほやのイカをさばいてもらう。
この日生簀に入っていたのは、神奈川県三浦市産のヤリイカ(サイズ大、活イカ4,800円)。
ヤリイカがこっちを見ている……。
動きが宇宙人すぎるが、やっぱりどう見てもイカはイカだ。
想像以上に透明だった
まずは内臓を取り出し、ゲソから調理開始。
その後、皮を向いて胴身を切り開く。
この時もまだうにょうにょと動いている。イカの生命力の強さよ。
そして横方向に5㎜ほどの幅で切込みをいれていく。
端まで細かくカットしたら、
包丁でスッとすくって、
崩れないように持ち上げて、
たっぷり敷かれたつまと、笹の上にのせる。
うおおお~~~
下の緑色の笹が透き通って見えるほど、正真正銘“透明なイカ”だ!!
初めて体験するコリコリ食感
大変お待たせしました。
筆者にとって人生初めての透明なイカをいざ、実食。
……!?!?!?
食べてびっくり。私の知っているイカじゃない!!
今まで食べてきた白色のイカといえば、ねっとりした食感で、甘みが強かった。しかし透明なイカは、想像以上にコリコリしていて、ふにゃっとしていないのだ。まるで芯が入っているかのようにピシッとしている。それでいて抜群に歯切れがいい。
なにこれ……めちゃくちゃうまいんですけど!
中でも格段コリコリしているのがエンペラ。イカが一番動かしているヒレにあたる部分だから、身が引き締まっているのだ。まずは何もつけず、そのまま味わってから、ショウガやワサビ醤油、あら塩とレモン汁を組み合わせたレモン塩などで食べ進めたい。
そしてゲソは、醤油をかけると塩分濃度の変化により、うにょうにょと再び動き出す。
まさに踊り食いであり、食はエンターテイメントだと実感する。おもしろい。
ただし10~15分経つとイカは徐々に透明感を失いはじめ、コリコリ食感も弱まってくるので、提供から10分以内に食べるのが目安。楽しい宴会中でも、透明なイカが来たら、黙々と食べることを推奨する。
イカを生かしているのはコンピューター
ここで「いかセンター新宿総本店」の料理長・石井嘉和(よしかず)さんにお話を伺うことに。
──なぜ、都内なのに透明なイカが食べられるのでしょうか?
石井料理長:私ども「イカセンター」では中間業者を通さず、自社で入札から配送・店頭調理まで一貫して行っています。だから新鮮なイカを入手できるのと、運送するイカ用の特注トラックは、イカがストレスを感じないように、高級ベッドのようにコンピューターで居心地を管理して運んでいるんです。
──コンピューターで居心地を管理!?
石井料理長:はい。イカはストレスを感じるとすぐに色が変化してしまうので、水温や環境を管理するのは難しいんです。生簀での管理も大変で、たとえば冬だと、店内に暖房を効かせますよね。すると生簀の水が蒸発して、塩分濃度が高くなってしまったり……。だから生簀が置いてある飲食店は他にもたくさんありますが、イカを生簀で泳がせているお店は実は少ないですよ。
──へぇ~、イカのこと全然知らなかったです! でも、なぜそんな手間がかかるのに「イカセンター」を開業したのでしょうか?
石井料理長:代表の藤嶋が九州出身で、東京には透明なイカがない……となり、「イカセンター」を始めたと聞いています。
──なるほど。やっぱり九州人の常識なんですね。
「イカセンター」では、季節によって提供するイカの種類が異なり、また日によってイカの産地が異なる。年明け~GW頃はヤリイカが中心で、GW~年内はスルメイカ、9~10月頃は、佐賀県・呼子からアカイカを仕入れるそうだ。また時々、アオリイカやスミイカなどのイカもあるという。
活イカ以外もイカ尽くし
透明なイカを食べ感動したところで、本来の取材の目的は達成したのだが、せっかく「イカセンター」に来たのだから、他のイカ料理も食べたくなってきてしまった。経費とかいろいろあるけど……えーい、食べてしまえ!!
ということで、イカ料理3連発!
イカワタを凍らせた「イカ肝ルイベ」(580円)は、口の中でじゅるっと溶けていき、肝の濃厚な味わいがクセになる品。
イカの塩辛が好きな人なら、絶対好きなメニューだろう。酒のつまみにぴったりである。というか、むしろ酒がないとやってられん!
ちなみに「イカセンター」は、日本酒にも力を入れている。1カ月ごとにラインナップを変え、いつ来ても新しいお酒が楽しめるようになっているのだとか。
続いて紹介するのが、「イカ墨コロッケ」(1ケ、300円)。見た目のインパクトと打って変わって、意外にもカニクリームコロッケのようにクリーミーで甘みのある味わい。中にはイカのプリっとした切り身が入っていてアクセントになっている。
衣もサクサクで、めちゃくちゃウマい! 筆者イチオシ。
そして最後に紹介するのが、イカをまるごと味わえる「ポッポ焼き」(980円)。香ばしい焼き目がついたイカは、噛めば噛むほど甘みや旨みが増してくる。
別添えの「肝のピリ辛ソース」は、イカワタの味わいが強く、辛味は後からじわっとくる程度。ショウガ醤油で食べてもよし。
他にも「イカリングフライ」や「イカ飯」「イカスミパスタ」など、メニューはイカづくし。イカって、こんなにも調理法があったのかと思い知らされることだろう。
結局どこまでもイカだった
メニューだけでなく、「イカセンター」は、あらゆるところがイカづくし!
店内に飾られた絵もイカ!
お客さん用の箸置きもイカ!!
ショップカードもイカ!!!
気づいた時にはもう、イカへの愛情が芽生えているかも。
都内でも透明なイカが食べたければ「イカセンター」。覚えておこう。
店舗情報
イカセンター新宿総本店
住所:東京都新宿区西新宿7-10-13 ガイアビル4・5F
電話:03-3366-2600
営業時間:月~土 17:30~23:00(L.O.22:00)、日祝15:00~22:30(L.O.21:30)
定休日:年末年始
撮影:佐々木雅久
書いた人:名久井梨香
フリーライター。東京都出身。新卒で大手広告会社に就職するも、会社員は向いていないと挫折。1年で退職し、その後フリーライターの道へ。趣味は、Jリーグとカレー。週1回、新宿ゴールデン街でバーテンダーもやっています。