チェーン店でマグロを食べる魅力とは?仕入れから提供までの流れを取材して分かったおいしいマグロとの出会い方

おいしいマグロを食べたい時、どんなお店を選ぶといいのでしょうか? 一つの選択肢として、チェーン店でマグロをいただくのもいいらしい……。その情報の真偽を確かめるべく、株式会社大庄のマグロの仕入れに密着してきました。

エリア道玄坂(東京)

エリア新橋(東京)

こんにちは、酒場案内人の塩見なゆです。

いきなりですが、おいしいマグロを食べたいと思ったらどんなお店に行きますか?

高級なお寿司屋さんから海鮮系の居酒屋、近所のスーパーなど、あらゆる場所でマグロを食べることができます。そんな中でも、質のいいマグロを安定して食べる手段の一つにチェーン居酒屋があると思っています。

チェーン店のマグロっておいしいの? そう思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、一定量を安定して仕入れているチェーン店は、質のいいマグロを確保しやすいのでおすすめなんです。

本日は、「庄や」を始めとした海鮮居酒屋を全国に展開している大庄さんのマグロの仕入れに密着させていただけることに。大庄さんがどのようにマグロを仕入れ、お店で提供しているのか、お伝えしていければと思います。

チェーン店だからこそ実現できるマグロの仕入れ

株式会社大庄の子会社で、マグロ・鮮魚仲卸を営む米川水産株式会社の社長 田邉隆教さんに取材させていただけることに。マグロの仕入れから解体、各店舗への発送までの過程について教えていただきます。

──本日はよろしくお願いします。

田邊隆教さん(以下、田邊さん):よろしくお願いします。では、どうやってマグロを仕入れているのか簡単にご説明しますね。

生のマグロに関しては、全国各地の市場で行われる競りに協力会社と連携して参加しています。

──市場での競りですね。

田邊さん:はい、毎日早朝に市場に出向いて、その日並んでいるマグロを吟味した上で競りを行います。

──競りには誰でも参加できるんでしょうか?

田邊さん:競りに参加するためには「買参権」という権利が必要です。加えて、季節や取れた場所などから、状態のいいマグロなのかを判断する能力も必要になりますね。

──資金力があればいいマグロを競り落とせるわけじゃないんですね。

田邊さん:資金力や安定的にマグロを競り落とすことはもちろん重要ですが、適正な価格でより良いマグロを仕入れる能力、つまり目利きが最も重要というイメージでしょうか。そのうえで、チェーン店の場合には競り落とす数(量)と資金力は重要な要素にはなります。もちろん、生産業者さんと良い関係づくりを行うことで良いマグロを買うこともできるので、一概には言えませんが。

──確かに市場での競りの詳細を知ると、チェーン店でマグロを食べることの優位性が見えてきますね。他にも生のマグロを仕入れる方法はあるんでしょうか?

田邊さん:各地の協力会社さんと協業して生のマグロを仕入れる場合もあります。

──そうなんですね。

(写真提供:田邊さん)

田邊さん:ちょうどこの前、良質な養殖の本マグロを直接生産者さんから仕入れてきました。養殖の本マグロを生産者さんから直接仕入れる場合は、鮮度も良く、輸送コストなども大きくカットできるため、より良いものがより安く提供できます。
しかし、それを実現させるには協力会社さんや生産者さんと長い時間をかけて信頼関係を築くことが必要で、良い関係性があってこそ、直接仕入れられ、より良い状態の本マグロを店舗に届けることができるんです

──生産者さんと直接やり取りを行うには、どのような難しさがあるのでしょうか?

田邊さん:マグロは今、世界的にも大変引き合いが強く(ニーズが高い)ので、良質の養殖の本マグロを安定して仕入れること自体が非常に難しいと思います。
加えて、マグロの体重を1キロ増やすためには、約17キロもの餌が必要と言われています。

仮に300キロのマグロまで育てるとなると、約5.1トンの餌が必要ということになりますので高値がつくのも納得できますね。

──5.1トンの餌が必要……。すごいですね。背景を知るほどに、難しさを感じます。

田邊さん:うまくお伝えできてよかったです。加えて本マグロを大量に仕入れることも重要です。生産者さんからすると少数の買い手がたくさんいるより、信頼ある少数の買い手がたくさん安定して買ってくれる方が安心しますからね。

こういった背景を鑑みると、「買参権」を持った水産会社を子会社に持つようなチェーン店では、良い本マグロがよりリーズナブルな価格で提供されているという可能性が高いと言えると思います。

──なんだかすごくいいことを聞いた気がします。ちなみに、冷凍のマグロを仕入れる方法についても教えてください。

田邊さん:冷凍マグロは、市場での競りに参加したり、世界中のメーカーさんと交渉したりすることで仕入れることができます。冷凍マグロは生のマグロに比べて仕入れのコストが低いので、お店の業態や価格帯などを鑑みて卸しています。

──冷凍マグロの仕入れもきっと難しいんでしょうね……。

田邊さん:そうですね。尻尾の部分などの状態を見て目利きをしています。他にも競り落としたマグロの一部を解凍して、品質をチェックしてから卸すようにしています。冷凍マグロは状態を判断する情報が少ないので、より経験と目利きが重要になると思います。

──冷凍マグロの仕入れにはそんな背景があるんですね。価格と品質が見合っていれば冷凍のマグロもおいしいですもんね。

田邊さん:そう思います。生のマグロは鮮度や輸送の関係で状態が悪くなる場合もあります。しかし、冷凍マグロは一定の品質を保ちやすいので、よい状態で提供しているお店はおすすめだと思います。

──ざっくりといいマグロを提供するお店の条件が見えてきたような気がします。

田邊さん:よかったです。今日はいくつか生のマグロを仕入れていますので、せっかくなので解体の様子を見ていってください。

──いいんですか? ありがとうございます!

田邊さん:日によって変動しますが、毎日生のマグロを複数仕入れて、すぐに解体して店舗に輸送しているんです。

──この発泡スチロール全部に生のマグロが入ってるんですね。すごい。

田邊さん:そうですね。大庄さんは高級寿司業態から居酒屋業態まで、さまざまなお店を展開していますので、たくさんのマグロを仕入れやすいですし、価格帯に応じてマグロを振り分けている形ですね。

ちょうど解体をしますので見ていってください。

田邊さん:まずはヒレを落としていきます。

──なかなか大きいマグロですね。これはどんなマグロなんでしょうか?

田邊さん:奄美の生産者さんから直接仕入れた60キロの本マグロです。品質が高く鮮度もいいので上等ですよ!

田邊さん:頭を外したら、前方から切り込みを入れていきます。

田邊さん:さらに包丁を入れて、上側の身を外していきます。

──あっという間ですね。職人さんの作業が早いです。

田邊さん:ほぼ毎日マグロを解体してますからね。

──背骨においしそうな身がたくさん付いてます。これはどうするんですか?

田邊さん:背骨も店舗に卸しています。中落ちが楽しめるメニューとして提供していますよ。

──それは楽しみですね。鮮度のいい本マグロの中落ち……気になります!

田邊さん:下側の身に包丁を入れれば解体完了です。これらの身を小分けにして、必要な店舗に配送します。ここで配送を担当するのも、大庄さんの子会社の物流会社で、即店舗に配送されます。

──仕入れから解体までのスピード感がすごいですね。

田邊さん:このスピード感は、チェーン店の強みということもありますが、一番は当社(米川水産)のような水産会社や物流会社を子会社にもつ大庄さんならではの強みではないでしょうか。つまり、仕入れからお客様に提供するまでの流れ全てを自社で構築できているからこそ、実現できていると思いますね。

──確かに実際の流れを見せていただくと、言葉の意味がよく分かります。密着させていただいて、マグロを食べられるありがたみや流通の全容が見えてきた気がします!

田邊さん:それはよかったです。皆さんにもマグロのことをよく知っていただいて、好きになってくれたらうれしいです。

──今日はありがとうございました。競りから配送まで、全ての工程が整備されていることもチェーン店でおいしいマグロを食べられる大きな理由なんですね。勉強になりました!

別日、新鮮なマグロを渋谷で味わいに店舗へ

いいマグロが入ったのでぜひ食べに来て! となんとも素敵なお誘いをいただいたので、渋谷・道玄坂の「魚屋のマグロ食堂 オートロキッチン 渋谷店」にやってきました。

このお店は、米川水産のマグロを専門に扱うマグロ専門店。運営は大庄さんです。「庄や」や「やるき茶屋」のイメージとは大きく異なりますね!

マグロをさばいてくれるのは、米川水産の田邊さんからバトンタッチして、株式会社大庄の調理開発室 大槻 正雄さん。実際に提供されるまでの工程を見せていただきます。

届いたばかりのマグロのブロックを見せていただきました。

──大槻さん、よろしくお願いいたします!

大槻正雄さん(以下、大槻さん):上物のマグロが届いて、私もうれしいです。根っからの料理人ですから、よい食材を調理できることは本当にうれしいんですよ。

──今日のマグロはどんなマグロなんですか? 

大槻さん:羅臼産の天然本マグロですね! 

──このお店では普段から本マグロを扱っていらっしゃるのですか?

大槻さん:メニューの一部では冷凍のマグロを使用することもありますが、オートロキッチンは米川水産の本マグロを看板に掲げたお店なので、いつでも生の本マグロがお楽しみいただけますよ。

さあ、それでは柵に切り分けていきましょう。まずは赤身と中トロに分けます。

大槻さん:芯(背骨)に近いところの赤身(画像右上)がテンミと呼ばれる部位です。

大槻さん:これと血合いを分けていきます。

大槻さん:次に腹の部分を切り分けます。

──トロと呼ばれる部分ですね。

大槻さん:はい。左の方が中トロで、右の方が大トロです。

大槻さん:これが中トロ。きれいなグラデーションになっていることが分かります。

大槻さん:続いて大トロ。この白いスジは脂でおいしいところ。硬くはなくて、食べたら口の中で溶けていきますよ。

──どれも本当においしそうです。色合い、ツヤ、ハリが段違いです! やはり本マグロは全然違いますね。

大槻さん:赤身はスジが少なくハリ・ツヤがあるところ、中トロはグラデーションがあるところがいいですね。

そろそろ料理しましょうか。先ほどの本マグロをお出ししますね。

──はい! よろしくお願いします。生の本マグロを使用しているのにそこまで高くなくて驚きました。気になるものを注文させていただきます。

本マグロを実際に食べてみた

OH!トロキッチン盛り8点(2,980円)

まずはオートロキッチンの看板料理、OH!トロキッチン盛り8点です。さまざまな部位が楽しめる、マグロ好きにはたまらない盛り合わせです。先ほどの天然生本マグロもたっぷり入っています。

普段、肉料理がメインだという方も、これを食べればマグロの部位ごとの味の違いに驚くはず! 専用のだし醤油などを使っているので、いつものマグロの刺身とはまた違ったおいしさが楽しめると思います。

どの部位も気になるところですが、まずは本マグロの大トロをいただきます。分厚くサイコロ状に切られていて贅沢感があります。

口に入れた瞬間、ジュワッと脂が溶けて濃いうま味が広がっていきます。いつも食べているマグロとは全然違う味わいで、濃厚な脂を感じられるのに一切重くなく、衝撃が走るほど。醤油の味にマグロが全く負けず、心地いいうま味が口の中に残り続けていて、格別の味わいでした。

続いては、本マグロのカマトロを。

まるでお肉のようにサシが入ったカマトロ。先ほど食べた大トロよりもよく動かす部位なので、しっかりとした弾力がありながらも優しく溶けていきます。同じ本マグロですが、部位によって全く味わいが異なっていて、1種類ずつ楽しみながら味わうことができます。このお店に来たら、OH!トロキッチン盛り8点はぜひとも食べていただきたい1品です。

中落ち(1,750円)

続いては、ドーンと巨大な骨ごと出てくる中落ち。添えられている大きなはまぐりの貝殻で削り取るようにして食べてくださいとのこと。

中落ちのおいしさといったら、もう目がさめるよう。ねっとりとした赤身のおいしさが脳に響いてくるようです。骨の周りのお肉はおいしいとよく言われますが、その言葉の通り、非常に味が濃いことが特徴です。

大トロやカマトロのように、溶けるような感覚はないものの、かめばかむほどにマグロのうま味が出てきます。非常にあっさりとした味だったので、次々に手が伸びてしまいました。

なにしろ、1,750円でたっぷりの中落ちをいただけるので、お得感満載の1品でした。時期や取れた場所で全然味が違うということなので、何度も通って注文したくなってしまいますね。

本マグロ中トロわら焼き(1,750円)

「わら焼きもおいしいんだよ」と大槻さんにおすすめいただいたので、注文してみました。

▲塩を振った本マグロの両面をわらでサッと炙りカット

▲香味野菜を添えれば出来上がり

目の前に運ばれて来た瞬間に、わらの香ばしい匂いが食欲をそそります。火を入れることでより味が引き締まり、濃厚なおいしさが感じられます。まるで牛ステーキを食べているみたい! と驚く人もいるそうです。

表面はカツオのたたきのような食感で、中はしっとりとなめらか。余計な脂が落ちて、うま味が凝縮しているのを口に入れた瞬間に感じられ、にんにくなどの香味野菜との相性も抜群でした。わらの香りがなによりの魅力なので、香りと食感と味わいで刺身との違いを感じられる1品でした。

マグロのレアカツ(1,000円)

最後に注文したのは、本マグロの赤身を贅沢に揚げてレアカツにした1品。わら焼き同様、マグロはレアな状態に加熱すると新しいおいしさを発見できるんだとか。

▲表面に小麦粉を付けたら

▲バッター液をまとわせるように付け

▲パン粉で周りを覆っていきます

▲180度の油で2分ほど揚げればちょうどいいレア状態に仕上がるんだとか

▲ひと口サイズにカットして、塩やカラシ、レモンなどを添えればマグロのレアカツの完成

口に入れた瞬間に、サクッとした食感、マグロに火が入ったツナのような食感、やわらかい赤身の食感が入り交じります。ひと口でこれだけ違った食感を楽しめるのは、火入れのレベルの高さによるもの。マグロの品質だけではなく、調理レベルの高さにも脱帽です。

衣に油分があるため少しジャンキー。マグロの脂分に植物性の油分が合わさることで、ビールやチューハイなどが引き立つ味になります。ソース、カラシ、塩、レモンなどで、食べるたびに味を変えられるため、あっという間に食べきってしまいました。

同じ魚を使っているのに、部位や調理方法が違うだけでこんなにも味わいが異なるのか! と感服しっぱなしでした。

まとめ

マグロの仕入れから提供までを取材させていただきました。感じたことは、チェーン店には、おいしいマグロを安定的に仕入れて提供する土台が整っている場合があるという点です。

おいしいマグロを食べる選択肢として、チェーン店を狙うということも理にかなっているように感じました。どこでも気軽にマグロを食べられる今、消費者の手元に届くまでの過程に目を向けてみるのも面白いかもしれませんね。

そして、魚屋のマグロ食堂 オートロキッチンでマグロの奥深さを体験してみてください。それでは。

お店情報

魚屋のマグロ食堂 オートロキッチン 渋谷

住所:東京渋谷区道玄坂1-3-5 香山ビル【B1・B2F】
電話番号:050-5289-3376
営業時間:月曜日~木曜日、日曜日、祝日 11:30~23:00 金曜日、土曜日、祝日前日 11:30~翌2:00
定休日:なし

www.hotpepper.jp

魚屋のマグロ食堂 オートロキッチン 新橋店

住所:東京都港区新橋3-5-13 大興ビル1F・2F
電話番号:050-5286-1214
営業時間:月曜日~木曜日、祝前日 17:00~23:30 金曜日 17:00~翌2:00 土曜日 17:00~23:00
定休日:日曜日・祝日

www.hotpepper.jp

書いた人:塩見なゆ

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酒場案内人(飲食・酒類専門ライター)。東京都杉並区・荻窪生まれ。 得意分野は街と酒。 新宿ゴールデン街に通ったお酒好きの両親を持つ。両親が飲んでいた瓶ビールに憧れて成長する。趣味からはじまった酒場めぐりは、次第に仕事になっていく。

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