湘南きゅうり園~食材のルーツを辿る旅 其ノ3(後編)~産地を巡る冒険【タベアルキスト】

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みなさんこんにちは、メシ通レポーターのタベアルキストKikutaniです。

レストランで見かける様々なブランド食材。
単に【良いもの】と感じがちですが、本当の姿は意外と知らないもの。
タベアルキストが美味しい料理として提供してくれるレストランと、その生産現場の両面から食材の魅力に迫ります!

 

3回目の食材は幻の「きゅうり」です。
サラダやお漬物として脇役ポジションを確立している「きゅうり」。
ちょっと地味ですかね? でも、脇役にしておくにはもったいない「きゅうり」があるとしたら? どうぞお付き合い下さい!

 

~幻の「きゅうり」の栽培農家を訪ねて~

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前回訪れた平塚のフレンチ「マリー・ルイーズ」。
そこで提供される幻の「きゅうり」【相模半白節成】を栽培している「湘南きゅうり園」へやってきました。

道中、カッパの描がかれたタンクがお迎えしてくれました。さすが「きゅうり」の産地!

 

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今回取材させていただくのは、農園主 吉川貴博さん。
幻の「きゅうり」復活に情熱を傾ける、若き農家さんです。
サラダの脇役で終わらない「きゅうり」を目指して、ブランド化の難しい「きゅうり」一本で農家を経営されています。

 

「きゅうり」のハウスにお邪魔します!

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さっそく、ハウスの中にお邪魔しました。
出迎えてくれたのは、青々と育つ「きゅうり」の苗たち。
取材時はちょうどクリスマス頃に種をまいたものが、収穫期に。


今回は「マリー・ルイーズ」でいただいたものを中心に様々見せてもらいました。

春先のきゅうりは、パリッとした食感の良さが特徴で、夏のきゅうりは水分を多く含むためみずみずしさが増すそうです。

 

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▲相模半白節成

 

これが幻の「きゅうり」、【相模半白節成】。
昭和4年頃に誕生しましたが、病気に弱く、昭和30年代後半(ちょうど昭和の東京オリンピックの頃)を境に、急速に栽培が減り「幻」の存在になってしまいました。
太めでずんぐりした形、その名の通り下半分が白いのが特徴です。
吉川さん曰く、「栽培の大変さは通常のきゅうりの3倍」とのこと。
固めの食感で歯切れよく、塩や味噌がよく合います。

 

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▲ガーキン

 

ピクルス用のきゅうりの代名詞で、「マリー・ルイーズ」でいただいた、タルタル仕立ての【ガーキン】も即席ピクルスのようで絶品でした。
大半は輸入ものなので国内栽培は貴重。
東京の大田市場に卸される【ガーキン】は「湘南きゅうり園」のものだけとのこと。
小さくてコロンとした形がかわいらしく、ポリッとした食感と詰まった肉質はピクルスや漬物向きの味わいです。

 

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▲四葉(すうよう)

 

色黒で、トゲトゲしさのある独特のビジュアルの【四葉】。
こちらも古い品種で、白い粉の吹くブルーム系と呼ばれる「きゅうり」に属し、現在ではかなり珍しい存在。
トゲトゲ、シワシワの苦そうな見た目に反して、予想以上にみずみずしく歯切れも良い爽やかな食味を持っています。
マヨネーズとの相性が◎。

 

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▲フリーダム

 

すべすべ、真っすぐで照りのある、【四葉】とは真逆の印象をもつ【フリーダム】。2000年代に入ってから生まれた品種でイボがなく傷がつきにくいため、大量に取り扱う外食などで利用されることが多いです。
【相模半白節成】や【四葉】に比べると柔らかめで、クセのない味わい。
塩でもマヨネーズでもなんでも合います。

 

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▲うぐいす

 

皮が黄緑色の【うぐいす】。
色が乗り切っていないわけではなく、ここまでしか色づきません。
皮と内部が同じ色のため、カットすると少し不思議な感じになります。
柔らかい印象のイメージそのままに、皮も柔らかくみずみずしさを持っています。
柔らかさをいかして、生ハムなどと合わせて食べるのが美味しいのではと思います。「マリー・ルイーズ」で食べたグリルもすごく良かったので、過熱適性もありそう。

 

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根元を墨で黒く塗った株がありました。
これは病気予防のためだそうです。

 

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夏のハウス作業は過酷。日中は50度を超えます。
「きゅうり」の成長は他の野菜と比べても早く、1日でも収穫時期がズレると食べ頃を逃してしまうそう。
そのため収穫は1日2回、明け方と夕方に行い1日も欠かせないそうです。

 

収穫後も大仕事

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収穫された「きゅうり」はすべて品質に合わせて仕分けされ、箱詰めされていきます。傷つけないように、かつ迅速、正確に仕分けるためには高い技術が要求されます。

 

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みずみずしさが命の「きゅうり」は、水分の蒸発を防ぐためにビニールで包まれて発送されます。
「きゅうり」は傷がつくとそこから傷んでしまうため、仕分けや箱詰めを機械化することが難しく、すべて手作業で行われています。

 

成長の早い「きゅうり」に合わせて箱を組み立てるのも大仕事。
スーパーなどでは当たり前のように並んでいますが、その当たり前を実現するために、沢山の人や仕事が関わっていることを実感します。

 

多様性というものについて考えた旅

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「湘南きゅうり園」で栽培されている「きゅうり」は、全部で7種類。
並べてみると、色も形も大きさも様々。
もちろん味も違います。


これだけの多様性を持ちながら、普段目にするのはほんの一部。
それはとてももったいないことのように感じます。

 

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日本の農業は長らく作りやすく、品質が安定して、わかりやすい商品を目指して品種改良を続けてきました。
その結果、いつでもどこでも買えるけどみんな同じ。
という環境になってしまいました(もちろん、産地や栽培法による違いはありますが)。

 

「湘南きゅうり園」の大変だけど個性を残し、そこをきっかけにブランドを築きたいという姿勢。
「マリー・ルイーズ」のそれぞれの個性を引き出す料理。
それらを通して、多様性があるからこそ生み出せる味わいがあるということを感じました。

 

幻の「きゅうり」を食べてみたいという思いから始まった旅は、多様性が生み出す味の広さと、それを支える背景を知る旅となりました。

 

お店情報

湘南きゅうり園

神奈川県 平塚市 城所292
TEL:0463-54-1183
ウェブサイト:http://nouka.tv/kijima_engei/

 

書いた人:Kazushi Kikutani

Kazushi Kikutani

ご当地グルメフリークで、野菜ソムリエの資格をもつタベアルキスト。B級グルメや郷土食、旬や特産品を活用した料理に目がない。食べ歩きに際しては、情報よりも店舗から感じるインスピレーションを重視。「美味しいもイマイチも丸ごとひっくるめて楽しむのが食べ歩きの醍醐味」と語る。

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