どうも!
いつも自転車操業なメシ通レポーターの吉村智樹です。
自転車と言えば、大阪の郊外に「ピザが食べられる自転車屋さんがある」といううわさを耳にしました。
しかもそのピザは、とびっきりウマいのだそう。
ウマいかどうか以前に、そもそもなぜ自転車屋さんでピザが食べられるの?
うわさの真偽を確かめるべく、さっそく「ある」という現地へと向かいました。
うわさのお店はサイクリングで評判の河内長野市にあった
▲のぼるだけでいい運動になりそうな坂の上にある自転車店「ACT WITH」(アクトウィズ)。どう見ても普通の自転車屋さんなのだが……
訪れた場所は大阪の南東部、山麓地域に位置する「河内長野市」(かわちながのし)。
7つの国宝をいだき、重要文化財の数は全国市町村の、なんと第12位。
「奥河内」とも呼ばれ、史跡めぐりの散策やサイクリングで話題を集める、緑豊かで空気がうまいアウトドアホビータウンです。
南海高野線と近鉄長野線「河内長野」駅を下車。北西方向へ勾配をのぼること、およそ10分。
歩きはもちろん自転車のペダルをこいでいるだけでかなりの運動量になるアップダウンに富んだ坂道。
ここをえっちらおっちら進んでゆくと、目指すお店「ACT WITH」(アクトウィズ)が現れました。
その外観は、見まがうことなき「ザ・自転車屋さん」。
店頭には販売する自転車が並び、空気入れのサービスがありと、安心できる街の自転車屋さんそのものの姿。
「おいしいピザが食べられる」といった雰囲気は正直、感じられません。
うわさは本当なんだろうか……。
しかし、掲げられた黒板を見ると……あ!
▲確かに「ピザ」の文字が。「空気入れ」「パンク」「タイヤ交換」と「ピザ」が並ぶシュールなボード
確かに「ピザ」と書いてあります。
「ピザ」が「タイヤ交換」という文字とともに並んでいるのが不思議な気がしてなりません。
決して大きな表示ではないので、ブレーキをかけて二度見しないと、気がつかず通り過ぎてしまうかも。
店内はかっこいい自転車でいっぱい
店内もまた、スマートなフォルムの自転車が整然と並んでいます。
天井からいくつものホイールがぶらさがる様子がかっこいい。
▲店内はスマートなフォルムの自転車や用品がズラリ並ぶ
▲天井にはクールなデザインのホイールがつられている
この方が「ACT WITH」(アクトウィズ)店長の岡本健志さん(33歳)。
▲「ACT WITH」(アクトウィズ)の若き店長、岡本健志さん。修理と整備の腕はとみに評判が高い
岡本さんは、ここ河内長野で生まれ育った生粋の地元っ子。
自転車技師と、自転車安全整備士の資格をもつプロフェッショナルな職人です。
岡本さんは幼い頃にマウンテンバイクと出会い、公園をウイリーで駆け抜ける活発な少年時代を過ごしました。
大学時代から自転車店でアルバイトを始め、そのまま就職も自転車店へ。
そして培った技術をもとに30歳で独立し、自分のお店「ACT WITH」を開いたといいます。
岡本さん:うちは「自転車なら何でも来い!」というお店です。
メインはスポーツバイク。バラバラになった車輪の骨組み一本一本を組んでいく繊細なカスタムメイドから、身体に合わせる「フィッティング」、パンク修理など、自転車にまつわることはたいていなんでもやります。
▲店内にあるアトリエはお客さんから丸見え。飲食店で言う「オープンキッチン」にあたる
▲「車体を黒とゴールドで構成したい」というお客さんの要望に応え、岡本さんがカスタムメイドをほどこしたスポーツバイク
▲「自転車の調子が悪い」と言うお客さんに真摯(しんし)に対応しながら原因を見極める岡本さん
岡本さん:ママチャリの修理もしますし、自転車がお好きな方の、ほぼすべてに対応ができると思います。
それは頼もしい。
高級車が列をなしているので「ハードルが高いお店なのか?」と思いきや、とても庶民的でほっとしました。
スポーツバイクの銘品がズラリ
取り扱う主だったスポーツバイクは、隣りの大阪狭山市にある国産自転車ブランド「ROCKBIKES」(ロックバイクス)と、フランスの一流ブランド「LAPIERRE」(ラピエール)のもの。
岡本さん:「ROCKBIKES」(ロックバイクス)は普段着で乗ってもかっこいいし、それでいてレーサーに負けない走行性能を誇ります。
「LAPIERRE」(ラピエール)はツールドフランスなどのロードレースに出場することが多いブランドです。
そして、おしゃれなデザインがいいですね。レースだけじゃなく、暮らしに溶けこみます。うちのお店のコンセプトに合っているんです。
▲お隣り狭山市にある国産自転車ブランド「ROCKBIKES」(ロックバイクス)の品ぞろえが豊富
▲「速さとエロさが同居するオトコの欲望を具現化したモデル」。ポップには岡本さんの文才がさく裂している
▲フランスの一流ブランド「LAPIERRE」(ラピエール)のスポーツバイク。いかにも欧州生まれらしい、おしゃれなカラーリングとデザイン
うちは「ゆるい自転車屋さん」
なるほど、お聞きしていると、スポーツバイクを普段づかいで楽しむことをテーマとしておられるようですね。
岡本さん:そうなんです。
うちは「ゆるい自転車屋さん」なんです。レースに出ることを目的としていない。
「勝ちにいかない自転車屋さん」をモットーにしています。
勝負よりも、自転車で山へ登り、コーヒー飲みながら眺めを楽しむ。そんなつかのまの非日常を味わってほしい。
もちろんレースに出る人や上級者もターゲットにしてはいますが、それよりも趣味で「ファンライド」(ツーリングやサイクリング、長距離運転などタイムを競わない遊び寄りの乗り方)をされている方が、うちは多いんです。
「ゆるい自転車店」!
いいですねえ(もちろん部品の取り付けは決してゆるくはありませんが)。
岡本さん自身はエクストリームスポーツ「ダウンヒル」(マウンテンバイク競技の一種。山に造られた急斜面のコースを高速で下る。もっとも危険な自転車競技とも言われている)に挑む選手ではありますが、それでも記録より「楽しむ」ことを大事にされているのだとか。
そんな岡本さんが醸し出すやわらかなムードに引き寄せられ、この日も自転車好きなお客さんふたりがコーヒーを飲みながら、ゆったりと過ごしていました。
なんでも、このお店で知り合った者同士なのだとか。
確かにここは「くつろぎ」を感じます。
▲「この店で知り合った」という男性同士がドリンクを飲みながらリラックス。自転車好きの社交場ともなっている
大好物のピザでもてなしたい
でもでもでも……自転車の楽しみが非日常を味わうことだとはいえ「自転車屋さんの店内でピザが食べられる」って、なかなかド級の非日常では?
岡本さん:自転車屋さんって、購入や修理の用事がないとき、入りにくくないですか?
「なんにも買わないのに、入っていいのかなあ」って。だから僕は自分のお店を起ち上げるとき「食事が楽しめる自転車屋さんにしよう」と思ったんです。
自転車好きな仲間が集まって、お茶を飲んだり、ピザをつまんだりしながら、ああでもないこうでもないと会話を楽しめるお店。それが僕の理想でした。
実際、こういうスタイルにしたおかげで、お客さんどうしで勝手に仲よくなって「走りに行こうぜ」と誘い合うこともまれではありません。
フードをピザにした理由ですか? 僕が大好物だからです。
ピザに手を伸ばしながら、自転車愛好家たちが語り合い、友情の輪ができる。
しみじみ、いいですね~。
岡本さんは毎週日曜日の朝7時30分に集まって、お客さんたちとマウンテンバイクやロードバイクを楽しんでいます。
車輪のように丸いピザは自転車好きたちとの親和性が高いのかも。
▲ほぼ毎週日曜日の朝、お客さんたちとマウンテンバイクやロードバイクを楽しむ。女性の参加者もとても多い
▲BARカウンターに当たり前に「プロテイン」があるのが、やっぱり自転車屋さん
キッチンは自転車用品の倉庫に
ではさっそく、僕にも自慢のピザを焼いてくださいますか。
岡本さん:わかりました。では注文がもっとも多い「マルゲリータ」のノーマル(いわゆるレギュラーサイズ 980円)を。
そういって奥のキッチンへと入っていった岡本さん。
ここがまた、完璧に自転車用品の倉庫!
▲自転車の部品庫とキッチンが合体(?)したスペース。絶品ピザはここで生まれる
岡本さん:見た目は散らかっていますが、オーブンは本格的なものを使っています。
光学式で、石窯と同じ加減に焼けるんです。
一台70万円もしたので、開店当時は出費の大きさに泣きました(笑)。
パッと見ぃはなかなかカオスな状況ですが、ピザづくりのためにしっかり設備された空間だったようです。
生地から手延べする妥協なき味
注文が入ると、生地の手延べから行う本格派。
レシピはプロのシェフから教わったのだそう。
正直「ここまでしっかり作るんだ!」と驚きました。
▲注文が入るたびに生地をまわし広げる。作り置きはしない。自転車のプロだけあり、ハンドリングはさすがの腕前
岡本さん:生地は「もちっ」「ふっくら」と焼きあがるように小麦粉、全粒粉、天然酵母を独自配合しました。
天然酵母でつくっているので生地の温度をみながらシビアに扱っています。
あと「胚芽」を入れることで香ばしさが加わっています。
そこまでオリジナルのピザを追求していらっしゃったとは!
自転車のみならずピザにも職人気質が表れています。
素材や製法にこだわる本格ピザ
続いて、伸ばした生地にトマトソースを敷きます。
▲トマトをつぶしきらぬように煮た特製ソース
岡本さん:口のなかでトマトのごろごろした果肉感が楽しめるように、あえて粗めに切っています。
そして煮る段階からバジルをたっぷり入れるのがうちの味です。舌にピリッときて、香りも強いです。よそにはない味のソースになっているんじゃないかな。
なぜこんなにバジルを入れるかですか? バジルが大好きだからです。
このように調理の仕込みの工程に驚くほど手間がかかっています。
また、食感や香りにもプロのシェフなみのこだわりがある。
いやあ、ここまでピザづくりに真正面に取り組んでいる自転車屋さんは日本にほかにないんじゃないでしょうか。
岡本さん:そうかもしれません。ただ、パンク修理とピザの注文が重なったとき「どうしよう」と焦りますね(笑)。
▲「同じ温度で焼いても、その日の湿気などで仕上がりが異なります。なのでしっかり自分の目で確認します」とのこと
▲トマトもいい感じに「粒立ち」し、絶妙な焼き加減に
自転車に囲まれて食べる非日常ピザ
そうしてオープンをのぞきつつ焼き加減を見極めながら、最後にさらにたっぷりと「追いバジル」をふりかけ、完成!
▲もっちもちに焼きあがった「マルゲリータ」
スパイシーなマルゲリータに絶妙に合うというベルギービール「ヒューガルデン ホワイト」(コリアンダーシードとオレンジピールを加えたフルーティなビール 750円)をそえて、いただきます。
▲自転車が並ぶ売り場が飲食スペースを兼ねる
*自転車は道路交通法上、軽車両と分類されます。「酒酔い運転」(アルコールの影響によって正常な運転ができないほどに酔った状態)におちいれば刑事罪を科せられる場合もあります。ゆえに「ACT WITH」でも過度の飲酒はおすすめしてはいません。お酒を飲んだら自転車には乗らず、押して歩きましょう。
おっと、いただく前に、この自転車型のピザカッター、かわいいですね。
岡本さん:実はこれ、アメリカのスポーツバイクメカニックスクール「PARKTOOL」(パークツール)のものなんです。
▲自転車屋さんでピザを味わうために誕生したかのようなぴったりのカッター
こ、これ、工具メーカー製なんですか!
まるでペダルを踏む気分でピザを切り分けられるなんて、逆に自転車屋さんでないとありえない楽しさですね。
「ピッツア」じゃなく「ピザ」
では今度こそ、いただきます。
おほ! これはうまい!
「むしゃっ」とかぶりつける分厚さがたまりません。
▲もっちり、むっちりと厚みがある生地
岡本さん:焼きあがりはお餅のように膨れます。
アメリカ人が好む「ふわっ」としたタイプで、だからうちのは「ピッツア」ではなく「ピザ」なんです。
「ピッツア」ではなく「ピザ」。
サンドウィッチマンのネタの正反対!
そしてふりかけられたバジルが、ハッと目が覚めるほどよく効いています。
この豪快な味と香りは、ピザ専門店のそれとはまた別の趣きがありますね。
岡本さん:専門店の味に張りあおうなんて思っていません。
ただ、ここでしか食べられない“非日常”な経験”をしてほしいから、個性のあるものに仕上げることを意識しています。
バジルの量もやりすぎかもしれませんが、だからこそ「この味がいい」と言ってくれる方も多いんです。
「ここのマルゲ、うまいな!」って、遠方からわざわざ食べに来られる方もいらっしゃいます。
▲さらに「追いバジル」したチーズ。華やかでパッションを感じる強い香りを放つ
なんでも、自転車とはまるでゆかりのないお年寄りが、香りにつられてわざわざピザだけを食べに訪れることもあるのだとか。
▲サラミをトッピングした「アメリカン・アクトピザ」(ノーマル 980円)
▲ポテトとソーセージをマヨネーズで和えた「ジャーマンポテト」(ノーマル 1,080円)。お子さんにも大好評
▲泉南の農家から紫大根など珍しい野菜が入荷した時にのみ供される、ある意味で幻の「季節の野菜のピザ」(ノーマル 1,280円)
▲オリジナルのサイクルジャケットにもしっかり「Pizza」の文字が。ピザづくりの本気ぶりがここにも表れている
お客さんとの会話から新メニューが生まれる
自転車に囲まれながらおいしいピザを食べたり、お茶をしたりという非日常体験。
これがお客さんどうしの楽しい会話をもたらすということもよくわかります。
ワクワクするし、この不思議な感じを誰かに話したくなりますね。
岡本さん:僕自身、自転車マニアというより、接客が好きなんです。
よく「営業時間が長いけど大丈夫か?」って言われのですけれど、コーヒーを飲みながらお客さんと話をしている時間が好きだから苦痛ではないです。
お客さんとの会話のなかから新作ピザが生まれることもあるんですよ。
え! お客さんとの会話から生まれたピザですか?
岡本さん:はい。
たとえば、リクエストをいただいてつくったピザ「クアトロフォルマッジ」(ノーマルサイズ 1,480円)がそれです。
これはブルーチーズのピザで、お好みでメープルシロップにひたして召し上がっていただきます。はじめはしょっぱく、シロップにつけると甘いピザになるという、2種類の味が楽しめるんです。
おお、しょっぱいピザから甘いピザへの2段変速ですか!
▲アクセントにブルーチーズをトッピング
▲お客さんとの会話から誕生したブルーチーズのピザ「クアトロフォルマッジ」。パンのようにふっくら焼きあげるのがポイント
▲メープルシロップに浸すことで、しょっぱさと甘さの2種類のテイストが楽しめる
自転車好きが集まることでピザのバリエーションが増え、さらに新作を楽しみにお客さんが自転車に乗って集まってくる。
いいサイクルができていますね。
岡本さん:自転車に興味がなかったら入れないとか、そういうのはぜんぜん気にしないでください。ピザやお茶をしにだけ来られても、もちろん大歓迎です。
そんなふうに、いい意味で「ゆるい」お店。
カロリーなんて気にせず、おいしいピザにかぶりつきましょう。
それでもお腹の脂肪が気になったら、そのときはサイクリングで解消だー!
▲こんな非日常感があるカッコいいホイールも販売。車輪もピザも丸いけれど、いい意味でセンスがとがったお店だ!
お店情報
ACT WITH(アクトウィズ)
住所:大阪府河内長野市本町5-10 メルベーユ1F A号
電話番号:0721-69-5370
営業時間:10:00~21:00
定休日:水曜日、第2・第4火曜日
Facebook:https://www.facebook.com/actwith.jp/
※この記事は2017年10月の情報です。
※金額はすべて税込みです。