『新世紀 エヴァンゲリオン』テーマソング、『残酷な天使のテーゼ』の作詞家として知られる及川眠子(おいかわねこ)さん。30年以上にもおよぶキャリアでは、Wink『淋しい熱帯魚』、やしきたかじん『東京』をはじめ、多くのヒット曲&アーティストを手がけてきた。2018年2月21日には、自身の集大成的なコンピレーションアルバム『ネコイズム』もリリース予定だ。
そんな輝かしい実績をお持ちの反面、18歳年下トルコ人男性との結婚〜離婚の顛末(てんまつ)を赤裸々につづった自著『破婚』や、Twitterの歯に衣着せぬツイートがたびたび話題になったりと、何かと目が離せない一面もお持ちである。
業界の有名人ながら、自らも積極的にSNSで発信し続ける及川さんに、ネット社会との付き合い方から、 作詞家から見た音楽業界、はてはお金や恋愛まであれこれ聞いてみることに。
場所は、麻布十番にあるご本人行きつけのトルコ宮廷料理店「ブルガスアダ」。聞き手はご本人ともプライベートでも親交のあるライターの西牟田靖が務める。
インターネットのこと
── そもそもインターネットはお好きですか。
及川:Twitterは頻繁にやっていますよ。140字という限られた文字数で意見を書くというのが、私が作詞家だからなのか、向いてるし好きなんです。その他にはプライベート用のFacebook、ほぼ稼働させていないブログのアカウントを持っていますけど連動はさせていないですね。
FBは基本的に会ったことある人、会ったことなくても共通の友人が何人もいて得体の知れてる人、しか承認しない。でもそういう人たちの中にも正直うざい人がいる。ワケわからんメッセ送ってくるから無視してたら、メッセは送ってこなくなったけど時々思い出したようにスタンプだけ送ってくる。不気味。
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年11月4日
── Twitterのいいところって、なんでしょう。
及川:知り合いが増えることですね。芸能人なら水道橋博士さんや松尾貴史さん。ライターは吉田豪さんや吉村智樹さん。最近だと詩人の文月悠光(ふづきゆみ)さんと知り合いました。文月さんなんてまだ20代でしょ。Twitterがなかったら知り合ってなかったかも。
── 逆に悪いところは。
及川:まとめられてしまうことかな。先日なんて、お騒がせ歌手のYさんのことでまとめ記事を作られました。Yさんが地下アイドルをプロデュースするっていう記事があったので「Yさんが大勢の人を仕切ることができるのか」ってツイートしたらすぐに「苦言を呈する」って。意見を言っただけなのにね。それで「違うんじゃないの」ってツイートしたら今度は「及川眠子激怒」だって。そうやって知らないところで話が大きくなっていくんですよ。
エヴァと運
── 最近の取材は、『エヴァンゲリオン』と著書の『破婚』がらみの質問だったりするんじゃないですか。正直飽き飽きしてるところもあるのでは。
及川:そればっかり聞かれちゃうとさすがにね。だいたい似たようなことばかり聞かれるので同じように答えますけどね。あるときは感動話にされていたり、またあるところでは辛い話になっていたり。媒体によって、取り上げ方が見事にバラバラ。
── 中でも特に多い質問って……
及川:エヴァがらみの収入について。いくら儲けたとか。だけど、パチンコとかDVDはいくらで、カラオケはいくらとか明確にはわからないですよ。音楽出版社から合算されたトータルの明細が送られてくるだけですから。
『残酷な天使のテーゼ』は通りすがりにもらった仕事と言ってるんだけど、実際にそうで、たまたまうちのマネージャーがキングに用事があって行って、たまたまそこにいた大月Pに紹介されて、なんか「ピン」ときた大月さんが「他の人に決めてたけど及川さんにしよう」と受けてきた仕事だった。
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年11月26日
あのときうちのマネージャーがたまたま大月さんに紹介されなかったら、エヴァの仕事は私じゃなかった。きっと他の人が書いて、残酷でもテーゼでもない詞になってたんだろうな。しかし未だに思うのは、よくあんな変なタイトルの詞を大月さんも庵野さんもOKしたってことだわ(笑)
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年11月26日
── ツイートでも知りましたが、『エヴァ』の仕事はたまたま受けたものだそうですね。そういう幸運を呼ぶ込むコツってのがあるのかなぁと。
及川:幸運は誰にでも訪れるんですよ。ただ、そのときに受け入れられるだけの日頃の努力をしていたか。それが大事なんだと思う。普段から努力していないと幸運が回ってきたときモノにできない。
若い頃は生意気でいいと思う。自分を必死で大きく見せようとして意地張ったり刃向かったり。でも売れるほど、みんな腰が低くなる。世の中に認められてしまえば、あえて自分を大きく見せる必要がなくなるから。だから売れた人たちのほとんどは威張らない。私も穏やかでありたいもんだ。←性格的に無理。
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年11月2日
── 日頃の努力以外に運を呼び寄せる秘訣(ひけつ)はありますか。若い読者にアドバイスをお願いします。
及川:「誰か紹介して」と言ってくる人がいます。そういう人に限って自分の人脈にいる人を紹介したがらない。でもそれじゃ絶対に人脈って広がっていかないですよ。逆に自分の持っている人脈を紹介していった風が自然と人脈は広がっていきますし、仕事も来ます。人脈=金脈。人脈は与えることにこそ意義があるんです。
自著『破婚』について
拙著『破婚』を面白いと褒めてくれる男性は、もう物の見事に物書きか編集者かのいわゆる玄人筋。それ以外の男性は、バカだの金持ちの戯れ言だの文章下手だので感想お終い。ま、それでも読んでくれただけ有り難いわー。 pic.twitter.com/d04IiO7X1P
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年11月15日
── 18歳年下のトルコ人夫と13年間過ごして3億円失って、その上に7,000万円の借金が残ったそうですね。その経緯を記した『破婚』を拝読したんですが、執筆中に過去の辛いことを思い出して気分が暗くなったりしませんでしたか。自分もライターですが、これなかなかマネできないよなぁって思って。
及川:歌詞を書くときもそうですが、自分の体験をもとにして書いているとき、どこか俯瞰(ふかん)して自分を見ているところがあるんです。自分=加工品ですね。だから書いていて辛くなることは意外になかったです。
リアルな体験も妄想も、何もかもを自分のネタ=つまりは作品に変えられる感性や発想力が才能。経験に基づいてしか物を作れない場合、いつか必ず限界がくる。また、感性やひらめきを支えるのは技術と知識、そして努力し続けられる根気。長く一線で居続けられる人は、それらがすべて揃ってる。 https://t.co/LHB020lp7m
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年10月10日
── 書籍では作詞と違って編集者がつきますよね。
及川:そうなんです。担当のアドバイスは大きかった。「恨み辛みだけじゃなくて幸せだったころのことも書いて下さい」って言われて、必死になって思い出したんです。そうやって書いていくうちに、だんだん他人事みたいになっていきました。
── 本を読んでいて思ったのはこれ(元夫のトルコ人男性から)訴えられないのかなってことです。
及川:訴えようとしたみたい。だけど「訴えたところで到底勝てやしない」と相手側の弁護士が判断したようです。名誉毀損(きそん)なんて何年もかかるし、勝訴してもとれてせいぜい100万円。それどころか逆に私から訴えられるかも知れない。実際に訴えてきたら私、高額反訴するつもりでした。過去にネットで腹いせに自分の携帯電話の番号とか住所をばらまかれたりしてましたから。
作詞家という職業
文章は書けば書くほど巧くなっていく。コツをつかむというのか、何時間もかかってたようなのが、慣れると短時間でさくさく書けるようになっていく。ところがどっこい作詞は経験を重ねるうちに多少は巧くなっても、時間を短縮することは出来ない。むしろ年齢とともに集中力が続かなくなって時間かかる。
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年10月5日
── 普段はどういうサイクルで生活されているんですか。
及川:ひと言で言うと不規則な生活です。行く場所も会う人も毎日違います。だけど、最近は変わってきて外に出ることが減りました。打ち合わせにしても曲の受け取りにしてもメールのやりとりだけで済みますから。だって最近のデモ音源ってCDじゃなくてMP3ですからね。
── 歌詞を作り上げるまでに、具体的にどんな作業があるんでしょう。
及川:曲が先の場合、一回聞いてみて思いついたイメージをダダッとメモするんですよ。そして二回目を聞いたときに歌詞の内容や構成を把握していきます。その後は聞きながら手書きで歌詞を書いてみて、最後はパソコンで清書。そんな流れかな。
── 作詞依頼はデモテープだけなのか、それともコンセプトはこうで、振り付けはこんな感じとか、事前に詳しい情報ももらえるのか……。
及川:それは毎回違います。『残酷な天使のテーゼ』は、編曲の大森俊之さんが作ったオケに歌手の高橋洋子ちゃん本人がラララで仮歌が入ったものを渡されました。仮歌がシンセサイザーのメロディーだったら歌詞が違っていたかも。
理由あっていろんな人が歌った『残酷な天使のテーゼ』を聴いていたんだけど、改めて思ったことがある。この曲は高橋洋子自身が「ラララ」で仮歌を入れてきて、私はそれを聴きながら詞を書いた。もし洋子ちゃんの声じゃなかったら、この詞にはならなかっただろうな。
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年11月26日
── すでにツイートされていましたね。なるほどなぁと思って。
及川:歌う子がラララと仮歌を入れてくれるのが一番ありがたい。本人の癖とか、こういう風にやりたいんだとか、細かいニュアンスがわかるので、私としても、ここはあえて1音増やそうとか、足しても大丈夫だなとか、工夫ができます。
── フレーズの最後の母音とかにはこだわったりするんですか。
及川:歌いやすいように母音をそろえたり、声が出やすいように歌い出しをア行からはじめたり、そこはいろいろテクニックや経験、知恵をしぼってね。エヴァ『残酷』も『魂のルフラン』は歌い出しがどちらもア行なんですよ。
── なるほど、言われてみれば!
及川:そのほか、この音に濁点を持っていったほうが強く聞こえるとか、言葉を立てるためにあえて音符通りに入れないとか、アイドル系の女の子は大体ハ行が苦手だから高い音でハ行を持っていかないとか、出だしをハ行にしないとか。歌い手によっていろいろ工夫しますね。
── そういうのって教わって習得できるものなんでしょうか。
及川:曲は全部違うから教えるのがすごく難しい。「歌詞の書き方を教えてほしい」って言ってくる子はいるけど、教えてもなかなかモノにはならないですね。私の言うことは理解できるんだけど、それを生かして書けるかというと書けない。そんな子がほとんど。弟子入りを希望する子もいないですしね。だから及川子眠子(こねこ)は育たないですね。
どうしたら詞が書けるようになりますか?と訊かれたとき、いちばん基本のテクニックを教えてあげると、みんな理解できるんだけど実際には書けないらしい。そして、なぜ書けないのか、ということが書ける私には理解できない。
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年10月4日
── となるとセンスが決め手なんでしょうかねぇ、やはり。
及川:作曲家の都志見隆さんは「演奏やアレンジ、作曲や歌は、最初できなくても訓練すればできるようになる。だけど作詞だけは絶対に訓練だけでは無理」とおっしゃっていた。現に、プロの作詞家として活躍している人は最初から歌詞を書けた人たちですよね。やはり感覚が大事なのかもしれないですね。
座右の銘
── 作詞のネタはどこから持ってくるんですか。
及川:ひとつは自分の体験。もちろんそのまま書くんじゃなくて、ちゃんと加工してね。あとはインターネットのTwitterやニュース、テレビのニュースやワイドショーとかを見て参考にしたり。ファミレスで、他のお客さんの会話をヒントにしたりすることもありますね。
── ヒット曲って時代を映す鏡のような存在ですよね。
及川:だから、歌詞には時代を映すような小道具を入れます。プールサイドとか水着とか。とはいえ何型の水着って言っちゃうと古びてしまうでしょ。だからハイレグの水着とは書かずに、水着という言葉で抑えちゃう。そうやって後々残るようにいろいろ削ったり言葉を選んだりしていますよ。
── 及川さんの過去ツイートですごく響く言葉があって。「精神はアマチュア仕事はプロ」という言葉、これは誰から言われたんですか。
若い頃に業界の先輩に言われた一言。
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年11月2日
「精神アマチュア、手法はプロ」
つまり、音楽が好きだという気持ちをなくしたら、音楽を仕事にする意味がなくなる。でも音楽で食いたいなら,そのやり方をきちんと考えなさいということ。
どの業界でも同じことが言えるんだけどね。
精神アマチュア、手法はプロ。
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年11月2日
この一言は未だに私の中にこびりついていて、だから常に自分が面白がっていたいと思う。遊びの延長で仕事してるみたいなものだからね、まず自分が楽しくなきゃ。でも音楽で食う限りは,いつもある一定のレベルを保ちプロのやり方をしなきゃ、ユーザーに対して失礼。
及川:もう辞めちゃったんですけど、仲の良いディレクターです。本人のオリジナルかどうかはわからないですけど、しょっちゅう言ってた言葉。この人、売れない作品ばっかり作ってたんだけどね(笑)。いまや自分にとっても座右の銘ですね。
Winkはいまだ休業中!?
── 今まで手がけた中で一番思い入れのあるアーティストはどなたでしょう? Winkとかやしきたかじんさんとかやはりヒット曲が出た人?
及川:今、手がけてる人に一番思い入れがあります。津軽三味線のシンガーの木島ユタカくんとか、水橋春夫さん(元ジャックス。横浜銀蠅やWinkの仕掛け人)とかね。
私は音楽業界にいながら紅白も見ないしレコ大を気にも止めない。いま私自身はそこを目指してないから。だけど自分が書いた歌い手にはやっぱり出てもらいたい。賞も取ってもらいたい。だってそれらは一つの勲章になる。仕事も増えるしギャラも上がるだろう。音楽を続ける上での糧になるから。
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年11月21日
── 及川さんの代表作としてWinkの一連の曲を挙げる人も多いですよね。たとえば『淋しい熱帯魚』には”Heart on wave”というの英語のフレーズが使われています。こういうのってどうやって思いつくんでしょう。
及川:そもそも私、英語はほとんどわかっていないのよ。”Heart on wave”も、”Lonely ユラユラ Swimmin'”もデタラメ英語。要は音をどう生かすかということしか考えてないわけ。
── そういえば、2018年にはWinkが復活するといううわさもありますが。
及川:それはわからない。少なくとも私のところにはまだ情報は何も来てないんですよ。っていうか、Winkって実はまだ解散してないんですよ。あれは休業なの。ずーっと休業中。事務所が別々になったとか、結婚して出産したからとか。要するにタイミングが合ってないんですよね。お互いの。
── もし再結成となったらやっぱり及川さんが歌詞を……。
及川:作んなくていいんじゃない、新曲。CDとDVDを再発して、ライブと握手会でも十分受け入れられるんじゃないかしら。
── Winkのファン層はもう立派なオッサン世代で、みなさんお金を持っているはずでしょうしね。
及川:思い出商法、儲かるからねぇ。私の友達に『CHA-CHA-CHA』を歌ってヒットさせた石井明美さんという歌い手さんがいて、現役で活動されているんですが、やっぱりヒット曲のある人はすごく強い。たとえば私の知っている例でいうと、昔のヒット曲を持っている歌手が何人で数曲ずつ歌って約2時間というパッケージのコンサートで各地を回ったりしてるんですよ。ハコ物行政で建てた大きなホール並の公民館とかあるじゃない。ああいうところに地元の中高年たちが押し寄せて、満杯になっちゃうんですって。そうやってまだ頑張ってる歌手、いっぱいいますよ。
気になるアーティスト
▲ここらへんで、こちらのお店「ブルガズアダ」の料理をご紹介。まずは、レンズ豆のスープ(10,000円~のコースメニューより)
── 注目しているアーティストはいますか?
及川:大森靖子(おおもりせいこ)ちゃんが大好きですね。歌詞はもちろんパフォーマンスが良いんです。あとRADWIMPSの野田洋次郎くんも好き。要するに自分のないものを持っている子が好きだなぁ。
── 作詞家で注目している人は?
及川:秋元康さんはやっぱりうまいですよね。その時代の最先端のものをポンポンと歌詞の中に入れていくでしょ。あと、ゴールデンボンバーの鬼龍院翔くんもすごい。
── ラップとか、演歌だとどうでしょう。及川さんの守備範囲とはまるで違う世界ですが、歌詞も大事なジャンルですよね。
及川:私たち作詞家って言葉を削いでいく方法論だけど、ラップの子たちは逆に紡いだり、重ねていったりするでしょ。そもそも手法が違うんです。演歌のことは……うーん、正直よくわからないんだよなぁ。
── 音楽が多様化して何が歌謡曲なのかわからなくなった時代です。若い子の中には、作詞家という職業自体、知らない子が増えているかもしれません。
及川:私は人によく「最後の職業作詞家」って言われるんですよ。職業作詞家っていうのは、ジャンル関係なくこなせて、しかも常に80点以上を出せる人のこと。今は、アニソンやってる人はアニソンだけ、演歌の人は演歌だけ。ジャンルをまたいで書いているという人が作詞家も作曲家もだいぶ少なくなりました。
── より細分化されている、と。
及川:今ね、地下アイドルやご当地アイドルって、ステージ20分ぐらいで、写真撮影や握手会が2時間とかなんですって。みんながみんなそうじゃないとは思うけどね。そういう子たちが歌う曲を作る作曲家なんかそう。5万円とか10万円で書き下ろして取っ払い。CDにもせずジャスラックにも登録せず「あとはどれだけ使っても構いません」というシステムで。状況は以前とかなり変わってきているのは確かですね。
お金のこと
── 過去のいろんな記事では「ここ四半世紀で年収3,000万円を下回ったことがない」と豪語されてますが、毎年かなりの税金を払っておられるのではと察します。
及川:作詞家はかかる経費、つまり仕入れがあまりないの。作詞のために本とかCDとか買いますけど、どんなに買っても多くて年間せいぜい100万円ほど。そのほか仕事での会食を交際費にしたり、テレビ出演用に衣装代を落としたりしてますけど、焼け石に水です。この間なんて、追い打ちをかけるように予定納税の案内が税務署から来ました。「国は私を本当に殺す気か!」って言いたくなります。
私は法人化してます。税金スゴいです。国に殺されると思ってしまいます。
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年8月8日
よっぽど儲けてない限り、あるいは私のように制作の原盤権を持つためなどの特定の理由がない限り、フリーの人たちが法人化するのはお薦めしません。 https://t.co/iJga64IpS6
── 故郷の和歌山にはふるさと納税とかしないんですか。
及川:先日、税理士に「年間45万円をふるさと納税してください。そうすれば17万円ほどの還付金があるし、住民税も40万円ほど安くなる」ってちょうど提案されたばかりです。月にしたら4万弱だけど、一括で45万円払えというのは大変なんだよなぁ。しかも品物も届くわけでしょ。
── 及川さんのように作詞家で法人化している人は多いんでしょうか。
及川:法人化せず個人事業主でやってる方が多いですね。むしろ作曲家の方が法人化している人が多い。編曲も手がけてる人やスタジオを持っている人が多いし、法人化していないと原盤の製作を受けられなかったりするので。
▲前菜盛り合わせ。ヘルシー志向のスーパーフード「フムス」をはじめ、洗練された料理が並ぶ(コースメニューより)
── Twitterではお金に関するツイートもたびたびお見かけしますね。たとえば、食事代のワリカンとか……。
及川:若い子とご飯を食べるときはおごりますよ。私も若い頃、目上の人に払ってもらってきましたからね。上から下へお金が流れているだけです。人におごって、別の人にごちそうしてもらう。
ワリカンきらい。細かくワリカンする人で金持ちになったって例をほとんど聞かない(少なくても私の周りでは)。いいよー奢るよーて払うと,その次に別の人にご馳走してもらえたりするし。そうやって人生の支出がプラスマイナスゼロになれば上出来だなって思うわ。
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年11月1日
あくまで私の経験値においての個人的感想なんだけど,人に金を遣ってると自然に金が回ってくる。いま苦しいけどせめてお世話になった人たちには中元歳暮を、と思って送ったら、そのあとにいつもなぜか予期せぬ入金があるし。だから他人にはケチらない。お金も水と同じ、溜めるだけじゃ腐るんだよね。
— 及川眠子 (@oikawaneko) 2017年11月1日
── そういえば、5年ほど前にライターやジャーナリストを集めて一緒に飲み会を催して下さいましたよね。私は貧乏なのでお誘いを受けたとき、おごってくれるのかなって、勝手に期待しました(笑)。
及川:あの場にはいろんな立場の子がいたからね。一緒くたにして「私払うよ」って言ったら、それはそれで面倒くさくなる。だったら分けたほうがいいかなって思って、ワリカンにしました。
── そうでしたか。ところで、あのときシリアで行方不明になっているジャーナリストの安田純平さんが飲み会に参加していましたね。
及川:シリアで拘束されて2年半だっけ? 最近では情報が何も出て来ないけど、まぁ生きていると私は信じていますよ。必ず戻ってくるだろうってね。
食について
── 『破婚』を読むと「トルコ料理は実は苦手だった」とか「別れて以来、トルコ料理を食べてない」って書いてましたけど。
及川:このお店だけは別なの。ときどき来ていますよ。
── 確かにこちらのお店の料理はすごく洗練されていますね。僕らが想像する、いわゆる土着的なトルコ料理とはまるで違う。
及川:オスマントルコ時代の料理を完全に再現した「オスマン宮廷料理」が食べられるお店はトルコでも数少なく、本国以外ではここだけなんです。
── どうりで。コースの中に魚が入ってるのが意外でしたけど、トルコって魚を食べるんですか。
及川:イスタンブールをはじめ、エーゲ海や地中海に面した地域では食べられます。黒海の方はイワシね。イワシは黒海でしか取れないから。内陸の人たちは基本、魚を食べないですね。せいぜい近くの川で取れる川魚ぐらい。
▲天然ヒラメのE.V.オリーブオイル ムニエル。カラマタオリーブ、エシャロット、赤パプリカのクリームソースとともに(コースメニューより)
── 食事のお店を決めるとき、情報はどうやって得ますか。グルメサイトなどは利用します?
及川:グルメサイトよりも食通の友達に聞いて参考にしますね。
── 及川さんにとっておいしさの基準はどこにあるんでしょう?
及川:マグロのごく一部分しか取れない貴重な部位の肉とかって、本当においしかったりするじゃない? でも全国どこでも食べられるモスバーガーもおいしい。そうやって値段関係なくおいしさをフラットに考えることが大事だと私は考えていますね。
▲信州プレミアム牛A5サーロインのハーブグリル。オスマンスタイルでおろしたキュウリとガーリックのヨーグルトソースを添えて(コースメニューより)
── 食べるために旅に出かけることは?
及川:今みたいに流通が盛んじゃなかったころ、水なすのぬか漬けを食べるためだけに和歌山の実家に帰っていましたね。ぬか漬けにするとさらにおいしいんです。私の母親が水なすの名産の泉佐野出身なので、
── 外国のもので、水なすに匹敵する料理はありますか。
及川:トルコの黒海沿いの地方の郷土料理に「ハムシピラウ」というものがあって、私これが大好き。骨をとったいわしの身を、ご飯の上に敷き詰めてスパイスをかけて作る、いってみれば「トルコ風炊き込みご飯」なんです。夫と別れて何が残念だったかというと、それが食べられなくなってしまったこと。だけど、この間このお店のシェフが特別に作って出してくれたんです。あ、これからはわざわざトルコに行かなくても、日本で食べられるわぁと思って(笑)。
── トルコ人の男性と別れた事実を知った後に、この話を聞くとなんてコクのある話なんだろうと思いました。本日はどうもありがとうございました。
撮影:石川真魚
リリース情報
及川眠子さんが作詞した楽曲のコンピレーションアルバム『ネコイズム~及川眠子作品集』(ポニーキャニオン)が、2月21日にリリース。今回のアルバムには、自身が選曲した全30曲を収録予定。1980年代から2010年代までのキャリアを総括する幅広い楽曲が楽める内容に。
お店情報
ブルカズアダ
住所:東京都港区麻布十番3-7-4 麻布六堂3F
電話:03-3769-0606
営業時間:月曜日18:00~23:00 (料理LO 22:00 ドリンクLO 22:30)、火曜日~土曜日、祝日、祝前日18:00~23:00 (料理LO 22:00 ドリンクLO 22:00)
定休日:日曜日
※この記事は2017年12月の情報です。
※金額はすべて税込みです。
※基本的にオーダーはコースメニューのみとなります。