自宅でお店のような美味しいアイスコーヒーを飲みたい。
缶コーヒーや紙パックのものではなく、本格的なアイスコーヒーを自分で淹れてみたい。
年中、アイスコーヒーを愛飲している著者は、そんな思いから、店内が2.6坪、テラスが1.6坪しかない「日本一小さな自家焙煎珈琲店」を名乗る東京・西永福の「たまじ珈琲」店主・上野泰弘さんに、アイスコーヒーの作り方を教わってきました。
▲上野泰弘(うえの・やすひろ)さん。大学時代からコーヒーの魅力にとりつかれ、卒業後は通信系の一般企業で働きながら、コーヒー屋店主としての独立を目指してコーヒー豆店で修行。40歳で会社を退職、会員制でコーヒー豆を焙煎して宅配する「たまじ倶楽部」を経て、2008年に「たまじ珈琲」を開店。
水出しとハンドドリップの違いはコーヒー豆の抽出方法
今回教えてもらうアイスコーヒーの淹れ方は2種類です。
上野:アイスコーヒーを淹れるには、大きく分けて水出し、ハンドドリップの2種類の方法があります。ほかにも器具を使うサイフォンやフレンチプレス、ドリップにもネルドリップなどがありますが、「自宅で、簡単に」ということで、今回は水出しと、ペーパーを使うハンドドリップをご紹介します。
──ハンドドリップと水出しはどのような違いなのでしょうか?
上野:コーヒー豆の味を抽出する方法の違いになります。ハンドドリップは、コーヒーの粉にある成分をお湯によって一気に出します。濃いコーヒーを作って、氷で割って飲むイメージです。
水出しの場合は、コーヒーの粉にある成分を、水によってゆっくりと染み出させます。冷蔵庫に入れたままジワジワ18時間かけて粉から味が出てきます。
「お湯で一気に」と「水でゆっくり出す」という2つの方法で、味の違いがはっきりと出るんです。
──同じコーヒー豆でも淹れ方によって味わいも変わるんですか?
上野:お湯を使ったハンドドリップの特徴はキレと香りです。キリッとして、いい香りがしますが、味にはカドがあります。
水出しは味が丸くなります。のどごしも良くゴクゴクと飲みやすいですが、弱点は香りが落ちることですね。
──どちらにも、メリット、デメリットがあるんですね。どういうシチュエーションで作り方を使い分ければいいんですか?
上野:水出しは冷蔵庫に入れておくだけで完成なので、お湯を沸かして淹れる手間が省けて、簡単にアイスコーヒーを楽しみたい人に向いています。水出しでオススメの飲み方は、コップ1杯をしっかりと飲まずに、小さなカップでひと口ずつちょこちょこと飲むことです。水出しはぬるくなると美味しくありません。ひと口飲みだと、冷たくてスッキリする感覚を手軽に味わえます。
一方、ドリップのアイスコーヒーは「さぁコーヒーを飲むぞ!」という気分のときに向いています。グラスに1杯分を抽出して、ガチャっと多めの氷で割って、しっかり味わってほしいですね。
──飲み方も対照的なんですね。
上野:アイスコーヒー好きの方は、水出しもドリップも両方楽しんでいます。例えば、自宅ではドリップ、会社に持っていくのは水出しと使い分けている人もいます。ドリップと水出しで違ったコーヒー豆の味を楽しむのもいいですね。
ストレートのアイスコーヒーに合う豆は「苦味とキレ」
続いてアイスコーヒーに合うコーヒー豆の選び方を教えてもらいます。
──アイスコーヒーに合う豆の選び方はあるんですか?
上野:私のお店では、お客さんの好みを聞いてから、合わせていくことが多いです。一般的にアイスコーヒーにはキリッとしたコーヒー豆が合います。
ウチのメニューでいうと「苦味とキレ」というグループのものをオススメしています。
▲メニューに細かくコーヒー豆のグループ分けがされているので、素人にも分かりやすい
──苦味にも種類があるんですね。
上野:大きく分けて「苦味とコク」と「苦味とキレ」があり、両方苦いですが、コクのあるほうは甘みをつけたり、牛乳、豆乳を入れるアイスコーヒーに合います。味を足す分にはコクがあるほうが、コーヒーの味が残ります。
キレはすっきりした味わいなので、牛乳などに負けてしまいます。カフェオレなどは、ほとんどミルクの味になってしまいます。
なのでストレートのアイスコーヒーには、「苦味とキレ」グループが一番です。自分の好みがそれほどない方には、「苦味とキレ」グループのコーヒー豆を深めに焙煎してアイスコーヒー用としてお渡ししています。
──たまじ珈琲では、焙煎度合も選べるんですね。
上野:はい。焙煎度合を1〜5まで選べます。アイスコーヒーは焙煎4~5、水出しアイスコーヒーは焙煎5をオススメしています。
上野:コーヒー豆は細かく挽いてください。お店にお願いするなら、「アイスコーヒー用なので細かく」と伝えればいいと思います。自宅のミルでもなるべく細かくするのがコツです。
それでは実際にペーパードリップ、水出しそれぞれの作り方を教えてもらいましょう。
ペーパードリップによるアイスコーヒーの淹れ方
1.豆
今回は「苦味とキレ」グループから「深焼キリマンジャロ」をセレクト。
たまじ珈琲の基準による焙煎度合を4にして、極細挽き(パウダー状)にしたコーヒー豆を用意します。
細かく挽いたコーヒー豆は、普通にホットコーヒーとして淹れると苦くて飲めないほどの苦味です。
2.お湯の量
使用するコーヒー豆は13gに対して、アイスコーヒーの場合は100ccのお湯を使います。
ホットコーヒーの場合は13gに対して150ccのお湯を使用しますので、かなり濃いめです。
3.お湯の温度
ポイントはお湯の温度です。できるだけ高い温度、できれば95度ぐらいで淹れましょう。高い温度の方が、味が一気に出るからです。
4.蒸らし
コーヒー豆全体を濡らすように、少量のお湯を注ぎます。すると真ん中からコーヒー豆が盛り上がってきます。
5.抽出
スッキリしたコーヒーを淹れたいので、盛り上がった真ん中にお湯を一気に注ぎます。外側の枠に注いだり、継ぎ分けずに、コーヒー豆が下がった分だけ真ん中に継ぎ足していきます。真ん中にアクを集めるようなイメージです。
100ccを注ぎきったら、ドリップの部分にコーヒーが余っていても、もったいないと思わずに捨てます。
最後に残った部分にはエグミや渋みが出ているので、捨ててしまって問題ありません。
6.氷
抽出したコーヒーをたっぷりの氷にかけて、1杯分のアイスコーヒーが完成です。
水出しによるアイスコーヒーの淹れ方
1.コーヒー豆をパックに入れる
極細挽き(パウダー状)にしたコーヒー豆40gを水出し専用パックに入れます。
2.水の量
600~800ccのお水(氷を多めにして飲みたい場合はお水を少な目にする)に1を入れ、冷蔵庫で保管します。
3.時間
15〜20時間(オススメは18時間)経ったら味をチェックし、好みの濃さになっていればパックを取り出します。
これで完成です。
──ほかに注意する点はありますか?
上野:氷の量ですね。水出しは冷蔵庫に入れて冷えてますし、味が薄くなるのであまり氷は必要ありません。ドリップは、コップからあふれるほど氷を入れてください。
▲右が水出し、左がドリップ
見た目とは違った対照的な味わい
それでは飲み比べてみます。
どちらもコーヒー豆は「深焼キリマンジャロ」、焙煎具合は4と同じにしてもらっています。
飲み比べてみると、まったく味が違います。色合いは水出しの方が濃いですが、味は想像と逆でした。
ドリップした方は、ひと口飲むとガツンとコーヒーが口の中で暴れだし、香り高いです。
水出しはスルスルと喉の奥に滑り落ちていくので、暑い時期だとドンドン飲めそうです。
上野:水出しは飲みやすいので、飲み過ぎに注意してください。1日3杯、原液にすると500ccぐらいが適量です。
──今回は「深焼キリマンジャロ」でしたが、他のコーヒー豆でも水出しとハンドドリップで味の差が出るものなんですか?
上野:出ますね。浅く煎ったコーヒー豆で水出しをすると、色は薄いですが苦味より酸味が立つんですが、それが好みというお客さんが最近は増えてきました。
──コーヒーの濃さはどのように決まるんですか?
上野:これは算数です。コーヒー豆の焙煎具合、コーヒー豆の量、コーヒー豆の挽き方(細かい>荒い)、お湯の温度(高い>低い)、抽出の時間(長い>短い)を計算すると、どんなコーヒーの濃さになるかが分かります。
焙煎具合を深く、コーヒー豆の量を多く、コーヒー豆の挽き方を細かく、お湯の温度を高く、そして短い時間で抽出すると、濃いコーヒーができます。
お湯だと数分で抽出するところを、水出しは18時間もかけているわけですから、味も丸くなりますよね。
この理屈が分かると、コーヒーがより楽しくなりますよ。
スーツのオーダーメイドのようにコーヒー豆を注文できるたまじ珈琲。こだわりが強い店ですが、店主の上野さんは物腰が柔らかく、初心者である著者にも、丁寧にコーヒー豆の選び方と、アイスコーヒーの淹れ方を教えてくれました。
ぜひ、みなさんも同じコーヒー豆で、2種類のアイスコーヒーの味の違いを確かめてください。
アイスコーヒーの概念が変わりますよ!
撮影:丸山剛史
店舗情報
たまじ珈琲(西永福店)
住所:東京都杉並区永福4-19-10
営業時間:13:00~17:30
定休日:月曜日・木曜日
たまじ珈琲(成田東店・焙煎所)
住所:東京都杉並区成田東2-33-12
営業時間:13:00~17:30
電話:03-6759-3487
定休日:月曜日・木曜日
書いた人:松本祐貴
1977年、大阪府生まれ。フリー編集者&ライター。雑誌記者、出版社勤務を経て、雑誌、ムックなどに寄稿する。テーマは旅、サブカル、趣味系が多い。著書『泥酔夫婦世界一周』(オークラ出版)、『DIY葬儀 ハンドブック』(駒草出版)
- 公式サイト:「~世界一周~ 旅の柄」