毎週水曜日深夜3時、異色のラジオがニッポン放送から流れ出す。
『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』だ。番組HPいわく「会社員のテレビマン、43歳で既婚者、中1の娘がいる普通のおじさんが、一生懸命しゃべります」。
『ゴッドタン』『ウレロ☆未確認少女』などで知られるテレビ東京・佐久間宣行プロデューサーがパーソナリティをつとめるこの番組で、ほぼ毎回流れるジングル(※番組の節目に挿入される短い音楽などの総称)がある。
それは、佐久間Pが「最近食べておいしかったものは、◯◯(場所+店名)の△△(メニュー名)です!」と発表するジングルだ。浜松町のとんかつ、六本木のステーキ、四谷のハンバーガー、新橋の冷やし中華……とジャンルは多岐にわたる。ときにはそのお店にまつわるトークも付随し、リスナーの興味を強くそそっている。
お笑いや演劇、音楽、映画などに詳しく、ラジオ内でも「エンタメすべてのインフルエンサー」を名乗らされている佐久間Pは、実は「食」にも同じくらい情熱を注いでいるのではないだろうか。
そうでなければ、忙しい合間を縫って毎週新しいお店を紹介できるほどあちこちに足を運ぶのは難しいはずだ。その食へのこだわりをぜひ聞いてみたい、できればジングルで紹介されたお店で……!
相談すれば適当につくってくれるパスタ
というわけで今回は、2019年5月22日(深夜)放送回で登場した「ビストロ ル ケイク」にお邪魔し、「このメニューばかり頼んでいたら『普通のメニューも食べてよ』と怒られた」というエピソードトークとともに紹介された「相談パスタ」を食べつつ、佐久間Pの食へのこだわりを聞いた。
▲東京都中央区新富の路地裏に佇む「ビストロ ル ケイク」は、フランス地方料理を中心としたビストロ。シャルキュトゥリー(食肉加工品)のほか、兵庫・明石から仕入れた鮮魚も売りとしている。カウンター席も多く、たしかにおじさん一人でも入りやすい
▲約束の時刻よりもだいぶ早く佐久間P到着
──このお店にはよく来るんですか?
佐久間P:2カ月に1回くらいかなぁ。もともとこの近くにある居酒屋にずっと通っていて、そこで常連さんに「パスタがうまいよ」って教えてもらって来るようになったんです。
ほかの料理もおいしいんですけど、シェフと相談して適当につくってくれるパスタがすげぇうまいんですよ。だから、近くで飲んでシメを食べずにここに来て、パスタだけ食べて帰るときもあります。
▲メニュー表の右下には、確かに「相談パスタ」の文字が。本来はディナーのみのメニューだが、今回は特別にランチタイムに提供いただいた
シェフ:今日は穴子があるので、それを使おうと思います。
佐久間P:味はどんな感じですか?
シェフ:実山椒で香りを楽しんでもらう感じにしようかな、と。
佐久間P:じゃあそれでお願いします!
──いつもこういう感じで決めるんですか?
佐久間P:そうです。「タコあるんですけど、どうします?」って聞かれて、「辛いほうがいいです」ってお願いしたり。相談しつつも、わりとお任せです。
「食べる」か「おもしろいものを観る」しか趣味がない
──このお店もそうですが、ラジオのジングルで「最近食べておいしかったもの」をいつも発表されているじゃないですか。聴いていて、「絶対忙しいだろうに、いつおいしいものを食べに行ってるんだろう?」とずっと疑問だったんです。
佐久間P:違うんですよ。食べることとおもしろいものを観ることしか趣味がないっていう、それだけなんです。だから仕事してて「これはすぐには終わらないな」ってときは、2時間くらい出かけて飯食って帰ってきて、そこからまた仕事したりしてます。
このあいだも、五反田の「食堂とだか」という全然予約の取れない店が、急にキャンセルが出て余っちゃった食材を弁当にして売るって聞いて、五反田まで30分くらいかけて取りに行って、それを食べながら仕事してました。そういう執念はあります。
──普段、平日はほとんど外食ですか?
佐久間P:家でご飯を食べるのは週に1回、日曜日だけですね。それ以外は全部外食になっちゃいます。大半はひとりですよ。
自分のスケジュールを見て「よし、この日は夕方で一旦終わるからあの店に行こう」「今日は昼がちゃんと空くからあそこのランチに行ってみよう」とか、そういう感じです。
──そのときに行くおいしいお店、好きなお店はどうやって探してるんですか?
佐久間P:一般の方のグルメブログやTwitterを見て、趣味が合う人を3〜4人見つけておいて、その人の意見を参考にすることが多いです。
──お笑いや演劇も、そうやっておもしろいものを見つけていると過去のインタビューでおっしゃっていましたね。
佐久間P:まったく一緒です。そういう人が「良い」っていう店に行ってみて、「この人とは趣味が合わないな」「こっちの人は舌が合うな」っていうのを繰り返して、信頼できる人を決めています。
それで新しく行った店は全部スマホにメモしておいて、また行きたいところに印をつけておくんです。凝り性なんですよね。
──そういうお店情報のストックは今どれくらいあるんですか?
佐久間P:どれくらいだろう……数えたことないです。すげぇあると思いますよ。
「おじさんグルメサークル、楽しいです」
──人と食事をするとなったときは、そこから候補を選ぶんですか? 佐久間さんの年齢や立場だと、人から誘われての食事も多そうですが。
佐久間P:後輩と飯食うときは、相手から誘われても「何食いたい?」って聞いて、答えに合わせてその日のうちに5〜6軒候補を出して選んでもらってますね。
いちばんむかつくのは、俺が気を使って店の候補を出さないでいると、ギリギリになって「ここにしましょう」って大してうまくない店を挙げてこられたとき(笑)。こっちは時間捻出したんだから、せめてうまい店にしてくれよ〜! って思っちゃいます。
──1食1食、絶対おいしいものを食べたい?
佐久間P:その気持ちはあります。メンバーによっては諦めますけどね。10〜15歳上の上司から「仕事の相談しながら飯食おうよ」って言われて「この人、飯に興味ないからな〜。期待できないから昼飯でうまいもの食べておこう」って考えるときはあります。
──別の食事で帳尻を合わせる、と。逆に、おいしいものを一緒に食べに行く決まったメンバーはいるのでしょうか?
佐久間P:放送作家の川上(テッペイ)と、『モヤモヤさまぁ~ず2』のプロデューサーをやってる小高(亮)っていうグルメおじさんがいて、その3人で時間を合わせて行くのが楽しいです。
「中華だったらここ」みたいに決めてる店が4〜5軒あるんですけど、どこもなかなか予約がとれないんですよ。だから食べに行ったときに2〜3カ月先の予約を入れておいて、またそこに一緒に行く。基本的にはおじさんだけで行きます。
──なぜですか?
佐久間P:おじさんだけでうまいもん食うのがいちばん楽しいですよ(笑)。おじさんは量を食べるんです。会社の後輩に「連れてってくださいよ」って言われて一緒に行くこともありますけど、そんなに食べない子はそこに混じるとつらい思いをすることになるんで。
それと、めちゃくちゃ高い店に行くわけじゃないですけど、おじさん同士だと多少高くても割り勘なので、気を使わなくていいのはありますね。客単価が1〜2万円を超える店でも「ちょっと高いけど、今日は行っちゃいますか!」みたいになるから。
おじさんグルメサークル、楽しいです。
──そういう場では、「こういう企画をやりたい」とか、仕事につながる話をしてるんですか?
佐久間P:これがねぇ……まったくしないです。30歳くらいの頃はギラギラしてたんで、飯食いながらお笑いの熱い話もしてましたけど、今はもう目の前の飯がうまいっていう話しかしない。
「これうまいね〜」「今日はあのメニューを食べられなかったから、また来て食べないといけないですなぁ」みたいな感じです。
──急に口調がマンガのおじさんみたいに(笑)。仕事の人と飲むと仕事の話になりがちですが、それを越えて食自体が目的化しているのは楽しそうです。
佐久間P:そうそう。いろんなことがどうでもよくなっていったんで、年取ってからのほうが僕は楽しいです。
もうひとつ、3カ月に1回くらい大学の同級生との集まりがあるんですよ。おじさんが年に4回も同窓会やってるの、気持ち悪いけど(笑)。これは本当にうまい店のおかげですからね。だって大学の同期なんて、集まる理由なくないですか?
──ないですね。2〜3年に1回集まればいいほうです。
佐久間P:グループLINEで僕ともうひとりが「この店がうまいから行かないか?」って話を常にしてるんですよ。それを見たほかの人たちが「うなぎがいいですなぁ」とか言って、2カ月くらい先の日程を決めて予約するんです。
──おじさんグルメサークル、うらやましくなってきました。(パスタ到着)
仕事の合間も平気で飲んじゃうタイプ
▲相談パスタ(1,210円)
シェフ:あぶった穴子の骨でダシをとって、こちらもあぶった穴子の身と、実山椒をからめてます。
佐久間P:おぉ〜、うまそう! いただきます……
佐久間P:うまい!! オイルベースで、山椒が効いてます。穴子のパスタ、初めて食べました。
佐久間P:すみません、ビールください。このあと収録なんだけど、まぁ大丈夫でしょう(笑)。
──普段も、飲んだあと会社に戻って仕事することはよくあるんですか?
佐久間P:それがね、できちゃうんですよ。僕、お酒強いので。だから仕事の合間の飯でも平気で飲んじゃうタイプです。睡眠不足のときや、ひとりのときはほぼ飲まないですけど。山椒とビール、合うな〜。
数ランク上の店に行ったら人生楽しくなった
──話を戻して、佐久間さん自身は、若い頃からおいしいものを食べるのが好きだったんですか?
佐久間P:そうですね。食にかかわるもの全般が昔から好きです。バイトも、飲食店でしかやってないんですよ。高校のときは、福島県いわき市でおいしいと評判だったレストラン「グラフィティ」で2年半くらいアルバイトしてました。
いわゆるカレーレストランみたいなところで、ずっと石臼でスパイスを引いてましたね。店主が高齢になってもう閉店しちゃったんですけど。
大学のときも、居酒屋の厨房でずっと働いてました。
──食べるだけじゃなく作るほうも好きだったとは、筋金入りですね。
佐久間P:大学の頃は自炊もすごくしてました。で、社会人になってADをやってた頃、本当に忙しくてまともなものを食べないでいたら心が荒んだんです。それで「やっぱりうまいもの食べたほうがいいな」って思いました。
当時のテレビ業界の人は結構遊んでたから、0時とか1時に仕事が終わったらそこからみんな合コン行ったり飲み行ったりするんですよ。それに付き合ってたんですけど、「ただ酒飲んだだけだったな〜」って思いながら翌日起きるのが嫌で。
──それは荒みそう……。
佐久間P:それで、確かその頃日本にミシュランが上陸したんですよ。僕が20代半ば過ぎくらいのときですね。趣味がないからお金も貯まってきてたし、よく考えたらフレンチとか行ったことがなかったんで、都内の有名店を全部巡ってみようと思ったんです。
それからは、休みができれば毎週どこかに行ってました。今の奥さんと付き合ってた頃だったんで、一緒にもよく行ってましたね。1年半〜2年くらいかなぁ。結構たくさん行ったと思います。いまだに奥さんと「あの年齢の頃に良いお店を回ったのは、人生経験上よかったね」っていう話をしますよ。
──それはすごく良さそうですね。そういう経験をすると、食への感覚が変わりそうな気がします。
佐久間P:飲食店って、中間くらいのランクのところでこだわるくらいだったら、1回グッと上のほうのランクの店に行くと価値観が変わると思うんですよね。値段も実はそこまで変わらなかったりするし。そうすると、知識量の差で人生が楽しいなってなると思います。
でも、それって人生で何を大切にするかっていうだけの話だから、僕も「高くてうまい店がすばらしいよ!」とは言わないです。あくまで自分の楽しみなので。
せっかく今生きてるんだから、今行ける店へ
──佐久間さんをうまいもの探しに駆り立てる原動力は、どこにあるんでしょう?
佐久間P:これは本当に映画や演劇、音楽と一緒なんですよ。僕はどっちかというと過去の名作や名盤を掘るタイプじゃないんですよね。学生時代はそういうものにもいっぱい触れたけど、せっかく今生きてるんだから「今やっていておもしろいもの」に触れたいんです。
ごはんも同じというか、むしろその最たるものじゃないですか。映画は20年前の名作を今観ても一応楽しめるけど、ごはんはそれが絶対ムリだから。そうなると、今がんばって行ける店に行ったほうがいいと思うんですよね。
──たしかに、食は後世では追いかけられないですもんね。そしてそうこう話しているうちに、完食されました。
佐久間P:ペロリですよ、ペロリ。むちゃくちゃうまかったな〜。この後、仕事やる気になるかな……。
撮影:鈴木渉
プロフィール
佐久間宣行(さくま・のぶゆき)
1975年生まれ、福島県いわき市出身。テレビ東京プロデューサー。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『ソクラテスのため息~滝沢カレンのわかるまで教えてください~』『青春高校3年C組』などを手掛ける。12月27日夜11時、『ゴッドタン』の人気企画「芸人マジ歌選手権」が放送予定。
お店情報
ビストロ ル ケイク
住所:東京都中央区新富1-6-15 サニービル102
電話:03-6280-3611
営業時間:12:00~13:30、18:00~22:30
定休日:日曜日・祝日のランチ
書いた人:斎藤岬
1986年生。編集者、ライター。月刊誌「サイゾー」編集部を経て、フリーランス。編集担当書に「HiGH&LOW THE FAN BOOK」など。