かつて、青年向けの雑誌では必ずといってもいいほど「有名作家によるお悩み相談コーナー」というものがあり、ネチネチ悩む相談者に対してやたらポジティブな答えだったり、破天荒すぎるアドバイスがなされたものです。あ、今でもあるか。
そんな人生相談コーナーを『メシ通』にも設けてみることにしました。
答えて下さるのはphaさん。今では作家という立派な肩書きがありつつも「できるだけ働かずに毎日寝て暮らしたい」「他人に興味がない」「ダルイ」と公言してはばからない、あのphaさんです。
そうそう、『メシ通』でも過去に一度、今はなき練馬のギークハウスにおじゃまして取材させてもらっていましたね。
ある意味で人生相談にはもっとも向かない作家(失礼!)phaさんに人生の悩みを相談してみたら、どんな答えが返ってくるのか?
必ずしも「解」は出ないかもしれないけど、後ろ向きでもいいから「生きててよかった」「なんとかなる」と思える言葉がもらえるんじゃないか ── 。
そんな希望もちょこっとだけ込めた新連載です。
シリーズ第1回目は、妻子持ちのライター兼経営者の登場です!
今回、相談場所に選んだのは東京・台東区にある「給食当番」という居酒屋さん。
phaさんも「このお店、前から気になってたんです。自分が関わっているシェアハウスから歩いてすぐの場所なので」とのこと。
ではさっそく、第1回目の相談者の方をご紹介しましょう。
【お悩み相談者】大楠翔一(おおくす しょういち)さん
1982年生まれ。神奈川県在住。妻、2児の父親(男の子と女の子)との4人暮らし。数年前まで某大手化粧会社でサラリーマンをしていたが、両親の離婚、父親の病気、祖父の介護などが重なったことをきっかけにフリーランスに転身。現在、ライター業のほかに静岡県御殿場市でボードゲームバーを経営。また静岡県富士宮市にて、ライブハウスの経営もスタートする予定。Facebook Twitter Instagram
【回答者】phaさん
1978年生まれ。大阪府大阪市出身。京都大学を24歳で卒業し、25歳で就職。28歳のときにインターネットとプログラミングに出会った衝撃で会社を辞める。現在はシェアハウスの運営に携わりつつ、執筆活動を行っている。著書に『ニートの歩き方−−お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法』(技術評論社)、『持たない幸福論 働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない』(幻冬舎)、『ひきこもらない』(幻冬舎)など。ブログ:phaの日記
悩みその①:バイトくんのヤル気なさすぎて困っている
大楠:今日はよろしくお願いします。実は僕、静岡県御殿場市で「game bar nostalgia 御殿場」というボードゲームバーを運営していまして、店舗は3歳下の店長に任せているんです。彼(以下Aくん)とは、給料制ではなく、売上から経費を引いた利益を一定の割合で分け合う形の契約で、オープン時から手伝ってもらっているんです。
相談というのは、Aくんのヤル気の問題でして。オープン当初はすごい前のめりで「俺がやればこんなこともできます! あんなこともやれます!」と意気込んでいたのですが、実際はなかなか売上もアップしなくて……。それでいて、何か工夫をしているかといえばしてないし、お店は夜からの営業開始なんですが、泊り込んだ挙げ句にどうやら真っ昼間からお店のTVゲームとかやっているみたいで光熱費もかさむし、経費の無駄遣いにしても目に余るものがあり……。そればかりか「売上に応じた給料だと取り分が少ないので、最近はオーナーである自分への支払い割合を下げてもらえないか」と言い出しまして。経営者の給料に口挟む従業員がどこにいるんだっていう……。
pha:それだと大楠さんがやっている意味がないですよね?
大楠:まさにそうなんです。僕は子どももいるので生活にかかるお金は必要ですが、Aくんは実家暮らしなので、温度差があるのかもしれません。それでも、このまま甘やかしていていいものか? とも思ってしまって。残念ながらAくんには社会人の経験がないので、いわゆるビジネスマナーの面ではいろいろ教えることが多いのですが、phaさんだったらヤル気がない人とどのように接しますか?
pha:そうですねー、その前にこのご飯食べていいですか? お腹減っちゃって……
学校給食をコンセプトにしただけあって、ソフト麺や揚げパンなど、懐かしいメニューがズラリ。写真はスペシャル教育セット(1,500円)。
pha:(食べながら)そもそも大楠さんは彼をどの程度信用しているのか? というところはまず聞いておきたいですね。
大楠:そうですね。金銭管理や在庫管理など店舗運営の基本的な部分においては、もちろん信用しています。でも、僕の場合、店舗と自宅の距離が離れているので、普段はお店に2週間に1回程度顔を出す程度で、基本的には現場にいないので、店舗の正確な売上状況やお店の管理状態は店長である彼からの報告でしかわかりません。なので、お店を自分の好き放題に使われてしまうこともあるかもしれません。
pha:なるほど。
大楠:ただ、そこはある程度しょうがないとしても、開店当初はレジに監視カメラをつけることなども検討していたんですが、そんなことしたら、彼との信頼関係が終ってしまうかな? とも思い、根本的には性善説で彼を信じるているという感じですね。
pha:あと、彼は実家暮らしって言ってましたよね?
大楠:はい。
pha:だとすると、たとえ報酬が歩合であっても、ちょっと頑張って成果がでなければ、やっぱりみんな遊んでしまいますよ。人間はダメな生き物です。もし僕が彼の立場だったら絶対に遊んじゃいますね。インターネットもゲームも使い放題で、お店のものも食べ放題、飲み放題なんて実家暮らしのバイト君にとっては最高の環境じゃないですか。
大楠:そうですか……。ちなみにこれが件の店舗「game bar nostalgia 御殿場」です。
▲「game bar nostalgia 御殿場」の外観
pha:ちょっとお店の写真見せてもらっていいですか? 黄色いですね……お店。
大楠:はい。真っ黄色です……。
▲大楠さんの携帯画像を見ながら淡々と話すphaさん
大楠:店内でボードゲームやダーツができたり、DJブースがあります。Aくんは準備期間やオープン当初はすごいやる気があって頼りがいもあったんですが、それからだんだんと……。
▲「game bar nostalgia 御殿場」の店内
pha:なにごともはじめた当初は盛り上がるものですが、それ維持するのは難しいですよね。僕も常に新しいことやっていないと飽きるんで、だんだん惰性でやってしまいます。
大楠:この前の年末年始にもちょっと残念な出来事がありまして……。年末年始は定休日も臨時で営業したんですね。その代わりとしてAくんが代休を取りたいと言ったので、快諾したんですよ。ただ、臨時休業する場合は、常連さん向けにSNSでの告知と、店頭に臨時休業日である旨、貼り紙をしておくように指示したんですが、それをし忘れていたんですね。
pha:あぁ、それはまずい。
大楠:さすがにこれは怒らないとと思って、強めに注意したんです。もともと無断休業したら罰金というルールを決めていたし。今後同じミスをしたら罰金の対象にするぞ! という感じで。でも、Aくんからは「ミスなんて誰にでもあるんだから、そんなに怒らないでくださいよ。大楠さんの常識を押し付けられても困ります」というような反論をされまして……。
pha:かなり強気ですね、Aくんは。
大楠:現状では他に店長を任せられる人がいないのが正直なところで、Aくんもそこが分かっているからこそ強気にでたのかもしれませんが……。
pha:なるほど。そもそも自分の目がしっかり行き渡らない場所で店舗を経営するのは大変ですよね。人間はサボる生き物です。なので、人に任せるなら監視カメラつけるのは当たり前の選択肢だと思いますよ。僕は基本的に性悪説で考える人間なので。バイトなんか特にサボりたくなる瞬間は絶対ありますよね。疲れているからとか、ダルいからとか。理由はいくらでも作れます。
大楠:そういうもんですかねー。うーん。
pha:なので、このまま彼に任せるのであれば、大楠さんの方で緊張感のある環境を作るか、お店をリニューアルとかしてみて、新しい環境を与えてあげてモチベーションをアゲてあげるのとかどうでしょうか?
大楠:実は今度、同じ静岡県内の富士宮市という場所でライブハウスを立ち上げる計画が進んでいるんです。いっそのこと、Aくんにそこを担当してもらって、新たな環境で働いていてもらうのもひとつの手かもしれません。ちょっと彼の意思確認も含めて、きちんと腹を割って改めて話し合ってみたいと思います。
悩みその②:自分の仕事に対する、家族の理解が低すぎる
大楠:実はもう1つ悩みがありまして。
pha:はい。
大楠:今、「game bar nostalgia 御殿場」の経営以外にも、複業でフリーランスのライターや企業のマーケティングサポートなどの仕事もしているんです。こちらはだいぶ収益も上がってきて、おかげさまで順調なのですが、仕事柄、外出や出張が多かったりするので、会社員の妻から最近「フリーランスってなんか楽しそうでいいわね。」と軽く嫌味を言われたりしてます。また、仕事の時間が不規則で、かつ家で仕事をすることも多いので「ちゃんと稼げてるの? 本当は借金してんじゃないの?」と疑われたりもしていて……。
pha:要するに、奥さんにフリーランスという仕事のスタイルを理解してもらえていないということですか?
大楠:はい、要するにそうです(笑)。妻のお父さんは1つの会社を新卒から定年退職まで勤め上げた人で、いわゆる典型的な日本のサラリーマンなんですね。仕事は会社でしっかりして、メリハリもつけて、家庭の時間も大事にするのが当たり前という感じで。
pha:なるほど。
大楠:あ、僕も家庭はとっても大事ですし、子どもとの時間は大切にする方なんなんですが、フリーランスというスタイルは、まさにいつ遊んでもいいし、いつ仕事してもいいので、仕事と遊びの境界線があまりないと言うか……まぁ実際、楽しくやってはいるのですが。
pha:大楠さん自身はフリーランスというスタイルは気に入っていると。
大楠:はい。あと、フリーランスの場合、1つの仕事だけだとリスクもあるので、毎月30万円の収入が見込める仕事を1つだけやるより、10万円の仕事を3つやった方がいいですよね。だからリスク対策であえて手を広げているところもあり。
pha:でも、複業=怪しいと思われがちですよね。
大楠:ライターとして自宅で原稿を書いたりしているのも、たぶん「何やっているのか、わけわからない」と思われているのかもしれません。
pha:これはもう大楠さんがきちんと説明して奥さんに理解してもらうしかないですよね。奥さんとはどこで出会ったのですか?
大楠:某大手の飲食店で働いている時に出会って結婚しました。元々上司と部下の関係でした(照れながら)。結婚後は比較的大きな企業でマーケティングなどの仕事を担っていたので、バリバリ会社員でやってる頃と比べると現在とのギャップが激しくて、より「アンタ何やってんの?」と思われてるみたいで……。でも妻にそれを言われるのは辛いんですよ。実際、収入は会社員時代と同等かそれ以上になってきてはいるのですが……。
もしかしたら、妻にとってはフリーランスもフリーターもニートも、同じ枠で見られているのかもしれません。ライターやディレクターとして大手企業のお仕事も結構な数担当させてもらっているんですが、自分の名前がバーンと出ることは少なくて、どちらかといえば完全に裏方が主なもので。
pha:本を出版したりすると世間からの印象も違うんですけどね。僕はブログなどで自分の生き方を発信していただけなんですが、不思議と見てくれている人はいるもんです。
大楠:マスコミで「日本一有名なニート」と呼ばれたときは確かに印象的でした。ただ、一般的にフリーランスは世間からの風当たりが強かったり、厚生年金がなかったり、健康保険のカードがペラっとした紙だったり(会社員のカードはプラスチック製)みたいなことも気になるんですが、phaさんはそこらへんはどうですか?
pha:僕は、あまり気にならないですね。
大楠:そうですかー(笑)。あと、来年車を買い替えたいのですがフリーランスだとなかなかローンも組めないので、会社員として働いている妻の名義で組んでもらおうと思っていて……。でも、そういう事が仮に妻の両親に知られてしまうと、家屋を持つ父親としてはちょっと肩身が狭いなーとか思ったり。
pha:僕もローンは組めないですよ。家だって借りられないですし。
大楠:えぇ、やっぱそうなんですか!? phaさんくらい知名度ある方なら余裕かと思っていたんですけど。
pha:今住んでるシェアハウスも、友人名義で借りてもらった物件です。
大楠:じゃあ逆に質問したいんですけど、phaさんの自宅で一番高価なものって何ですか。ノートパソコンとか?
pha:ノートパソコンも4万円くらいですし……。スマホも安い機種だし、そもそも僕はあまりものがいらない。車もブランド品も買わないので。
大楠:もういっそのこと、phaさんのシェアハウスに妻を連れて行っていいですか? いろいろな生き方に触れれば、視野が広がると思うんですが。
pha:うちは本当に男臭いし、あまりオススメしないですよ。ニートというか、本当に何もしないで生きてる子もいるし。多分女性がきたら、みんなキョドリます(笑)。
大楠:phaさんから見ても、何もやらないレベルのニートがいるんですか?
pha:ニートを生むのは環境です。うちのシェアハウスにはニートもいれば、働いて収入を得ているメンバーもいますが、実際問題、家を借りることもまともにできないから、ずっとシェアハウスに住んでいたりする人もいますよ。ま、今日の本題ではないので、ニートについては多くは語りませんが、大楠さんはこのまま好きな仕事をやった方がいいと思いますよ。男気もバイタリティもあるわけだし。
大楠:ありがとうございます。フリーランスになってからほとんどストレスがなくなったし、自分のために使うお金はだいぶ減った分、子どもと接する時間は増えたので、実は今のスタイルは気に入っています。あの、いきなりで恐縮なんですが……まずは僕だけでも、今度そのシェアハウスに遊びに行ってもいいですか?
pha:あ、いいですよ。今から来てみますか? ここから歩いて数分なんで。
番外編:phaさんのシェアハウスへ
というわけで、さっそくおじゃましちゃいました!
▲ここはシェアハウス1階。当分食うには困らないほどの食料がある
▲2階も見せてもらった。以前はコワーキングスペースとして活用されていた部屋をそのまま活用している模様
▲練馬のギークハウスにもいた猫のスンスンにも会えました!
大楠:phaさんはずっと僕の話を全く否定せず、肯定しながら聞いてくれるので、本当に話せて良かったです! というか、今度はここに泊まりにきていいですか? 家は神奈川なんですが、東京で終電なくすことも多く……(笑)。
pha:また話を聞かせてください。どこまで相談に乗れるかは分からないけど(笑)。
大楠:おおお!!(棚を見ながら) うちのゲームバーで扱っているゲームもめっちゃあるじゃないですか!!
pha:今度みんなでボードゲームでもしましょう。
大楠:はい、ぜひ! 今日はありがとうございました。
お店情報
【閉店】給食当番
住所:東京都台東区元浅草1-4-4
電話番号:03-3847-0537
営業時間:ランチ11:30〜14:00、ディナー18:00〜23:00(LO 22:00)
定休日:日曜日
ウェブサイト:http://www.kyusyokutoban.jp/
※この記事は2017年8月の情報です。
※金額はすべて税込みです。
※このお店は現在閉店しています。
※飲食店の掲載情報について。