地元に愛され続けた、なんとも渋いお店のたたずまい
こんにちは! 東京ソバット団のソバット本橋です。
さて、立ち食いそばと言いながらも、実際に立って食べる店舗も少なくなっているのですが、今回は純粋な立ち食い、しかもオープンエアのカウンターという、由緒正しい立ち食いそば店を紹介しますよ。
まずはお店の外観を見てください。
最高でしょ、このたたずまい!
お店の名前は「さかうえ」。板橋区は中山道の近く、都営三田線志村坂上駅から、ちょっとだけ歩いたマーケットの入り口にあります。
なんともシブい外観ですが、実はこの「さかうえ」、なんと2018年4月にオープンしたばかりの新店なのです。
あ、新店といっても、ちょっと事情がありましてね。
実はここには「おくちゃん」という、長く続いた立ち食いそば店があったんですが、18年2月に惜しまれながら閉店。その味を受け継いで、4月にあらためて「さかうえ」として、オープンしたんですよ。
そんな経緯で生まれたこの「さかうえ」。とりあえず一杯いただきましょうか。
まずは定番の天ぷらそば(390円)を。
いいですね~。衣が厚めのかき揚げにクニュッとした食感のゆで麺。
このゆで麺は「さかうえ」があるマーケットに入っている「志村製麺」のもの。
これがなかなかうまいんですよ。そしてなにより、ダシ旨味とかえしがきいた濃いツユがたまりません。
立ち食いそばファンなら絶対に気に入ること間違いなし、まさに究極の立ち食いそばです。
丼が小ぶりで、持って食べるのが楽なのも、マニア心をくすぐりますね。
マーケットの入り口にあるからか風の通りも良くて、なんというか至福の時間ですな。
さて、一杯いただいてお腹も落ち着いたところで、現店主の中島さんにお話をうかがってみました。
「おくちゃん」のファンだったから、やらせてもらえませんかって
柔和な笑顔の中島さん。
もともと志村に長く住み、バーを経営していた方。今年になって商店会で「おくちゃん」が閉店するということを聞き、自分のお店の契約更新が近かったこともあって、立ち食いそば店を引き継ぐことを決めたんだそうです。
中島さん:もともと「おくちゃん」にはよく来ていたんですよ。ファンだったんで、やめるのは惜しいなと思っていたんですが、誰かがやってくれるだろうと思っていました。でも誰もいないし、それならやらせてもらえませんかって、頼んだんです。バーをやりながらこっちを手伝って、ツユの作り方とかをいろいろ習ったんです。
直接に習っただけあって、かつての「おくちゃん」の味は健在。
特に「おくちゃん」の特徴だった、ギュッと旨味の詰まった濃いツユは変わらずで、地元で愛され続けていた味の復活に多くのファンも喜んだそうです。
中島さん:「ダシは絶対に変えちゃダメだ」って、言われましたんで。ただ、ツユはかえしを少しやわらかくしていますよ。さすがに常連さんには、変化に気づいた人もいました。
基本は以前と変えていないながらも、新しいメニューにはチャレンジしています。そのひとつが、もずくそば(400円)。
プリッとしたもずくは、沖縄県伊是名の産。
女将さんの友人がもずくの卸をやっている縁で始めたそうですが、もずくの香りと「さかうえ」のツユがすごく合うんですよ。
もずくだけじゃ、ちょっとパンチが弱いんじゃないかと思っていたんですが、なんとも奥深い味わい。すべりも良くって、ズルズルいけちゃいますね。これ、玉子を落としてもいいかもしれません。
さらには、サバの水煮なんていう、気になるトッピングも。
むむ、これはなにと合わせたらいいのかしら?
サバの水煮と納豆をトッピングして
中島さん:サバの水煮は夏に冷や汁を出していたときはそれに入れる人が多かったんですけど、納豆を入れる人もいますよ。
おおっ、それだ、それください、そばで納豆にサバ水煮(420円)!
で、出てきたのがこれなんですが、こいつがかなりうまい。
ソーメンにサバの水煮を入れて食べるのが、最近、話題になっていますが、そばだって同じ魚介ダシなんだし、合うに決まっているんですよね。それにさらに納豆のうま味をプラス。
けっこうジャンクな感じではありますが、ズルズルと箸が止まりません。
納豆を残さず食べられるように、穴あきレンゲをつけてくれるのも、うれしいです。
いや、いいですね。
おなじみの味から新しいメニューまで、たっぷり堪能させていただきました。かつての味を受け継ぐだけでないというのが、なんとも頼もしいです。
実はここ2〜3年、長く続いてきた老舗立ち食いそば店の閉店が相次いでいたんですよ。
そんな中、この「さかうえ」のように復活を遂げるというのは、とてもレアなことだし、かつ喜ばしいことですね。
昔も今も地元の人たち愛されている、志村の文化遺産とも言える「さかうえ」。
どうかいつまでも続いてほしいものです。
お店情報
さかうえ
住所:東京都板橋区志村1-35-10
電話番号:非公開
営業時間:火曜日~日曜日8:30~17:00
定休日:月曜日
書いた人:本橋隆司
フリーランスの編集、ライターとしてウェブや雑誌などで仕事中。近著は『東京立ち食いそばジャーニー』『立ち食いそば大図鑑』(ともにスタンダーズプレス)そばであればだいたい好き。
- サイト:立ち食いそば図鑑の中の人のサイト
- Facebook:東京ソバット団
撮った人:安藤青太
カメラマン、書籍制作。グラビア系から食べ物系まで何でも撮るカメラマン。本橋とは『立ち食いそば図鑑 東京編』『立ち食いそば図鑑 ディープ東京編』を制作。その他『檀蜜DVD色情遊戯2』『相撲部屋の幸せな猫たち』『東京の、すごい旅館』など。好きな立ち食いそばはコロッケそば。